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本編
10話
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「最後に、セレナの処遇だが......」
私はごくり、と息を呑んだ。
リディアさまに報告をした時から、エドワードさまとサディさまに罰があることは知っていた。
だけどセレナさまにも何かあるとは聞いていなかった。
「セレナには悪いことをしてしまった。そこで、ガースン公爵家には賠償金を用意しよう。もちろん、家とセレナに送る分は別に用意する」
「......」
婚約破棄した場合の賠償金は、よくある話だ。
それも身分が高ければ高いほど、その金額も多くなる。
「しかしそれだけでは不十分だろう。セレナには王家直々に、代わりの婚約者を充てがう準備をしようじゃないか。もしくは——」
王は玉座から立ち上がる。
「もしくは、まだ気が変わらぬのであれば、王妃となっては貰えないだろうか」
「えっ、それはどう言うことですの」
セレナさまは、赤く腫れた目を擦りながら答える。
周囲の家臣やメイドたちもザワついている。
「もちろんエドワードとの婚約はありえない。あやつは王位継承権を剥奪した。それに、それではガースン公爵家の顔に泥を塗ることになるだろう」
ジョゼフ王は、一人の兵士へと視線を送る。
すると先程と同じく、部屋から出て行く。
「セレナ、セレナ・ガースンよ。親として、いや王として謝罪をしよう。この度は息子が迷惑をかけてすまなかった」
ジョゼフ王は、頭を深く下げて、エドワードさまの行いを謝罪した。
王として、いや一個人としてもここまで真摯に謝罪を出来る人は少ないかもしれない。
私は、ここまでの謝罪をこれまで見たことはない。
王という器だからこそなのか、ジョゼフ王だからなのかは分からないけれど、貴族としての品格を感じさせる謝罪だった。
「王さま、頭をお上げになって下さい。確かにエドワードさまの裏切りには、悲しくなりましたが、王は頭を下げてはなりませんわ」
「そう言って貰えるだけでありがたい」
ジョゼフ王は、下げていた頭を上げた。
丁度、先程の兵士が戻って来た。
「クリスさまをお連れしました」
「遅れました父上。第二王子クリス・ウィザーズ、入ります」
兵士が連れて来たのは、第二王子のクリスさまだった。
クリスさまは、遊び歩いていたエドワードさまとは違って、兵士を率いて武装集団の鎮圧活動をしていた。
そのため領民からの信頼も厚く、人気も高かった。
そのクリスさまは、普段は王都にいることはないが、ここにいるということは王が呼び戻したのだろう。
「セレナさん、ですね。お会いしたことはありませんが、話ではよく聞いていました。今回は、このような場で始めて会うことになってしまったのが残念でなりません。私からも謝罪をさせて下さい」
クリスさまも、王と同じく頭を下げる。
「クリスさま、初めまして。頭をお上げになって下さい」
クリスさまは、眩しい笑顔を向けながら顔を上げた。
「セレナよ、目の前にいるクリスの婚約者になっては貰えないか。もちろん嫌なら断っても構わない。その場合も賠償金はしっかりと払おう」
「王さま、私は小さい頃から王妃とあれ、と育てられて来ました。今更他家に嫁ぐことや他の生き方を探すことは、考えられませんわ。この話、喜んでお受けします」
「そうか、それは良かった。だが相性問題もあるだろうから、今回で婚約という訳にはいかない。エドワードのこともあるし、クリスの人となりをしっかりと見極めてから、再度決めて欲しい」
「分かりましたわ」
クリスさまとセレナさまは、互いに見つめあっていた。
「では、これにて処罰、処遇については終了とする」
ジョゼフ王がそう言うと、兵士たちがサディさまとエドワードさまを抱えて何処かへ運んで行った。
二人は抵抗することもなく、大人しく連れて行かれた。
私たち家臣やメイドたちも、王座のある部屋から出て持ち場へと戻って行く。
これで、今回のエドワード王子とサディさまの件は一件落着となった。
それからは何の変哲のない日が続き、私はいつも通りメイドのして仕事をする日々が続いた続いた——。
数年後——。
王宮のとある一角。
私は今、隠密活動をしていた。
周囲にある草木に紛れるように、迷彩柄のメイド服を着て、地面に這いつくばるようにしていた。
そこに、人の声が聞こえて来た。
一組の男女が仲睦まじく、手を繋ぎながら歩いて来る。
二人を追いかけるように、一生懸命後を付けて走る子供の姿もある。
クリスさまとセレナさまに違いない。
あの後二人は、無事に婚約をした。
その一年後には結婚式も上げて、子供も生まれた。
可愛らしい王子が産まれたと、王宮中の話題になった。
三人は楽しそうに笑いながら、王宮の外庭を歩いて行く——。
「私、見ちゃいました!」
これで王国も安泰です——。
私はごくり、と息を呑んだ。
リディアさまに報告をした時から、エドワードさまとサディさまに罰があることは知っていた。
だけどセレナさまにも何かあるとは聞いていなかった。
「セレナには悪いことをしてしまった。そこで、ガースン公爵家には賠償金を用意しよう。もちろん、家とセレナに送る分は別に用意する」
「......」
婚約破棄した場合の賠償金は、よくある話だ。
それも身分が高ければ高いほど、その金額も多くなる。
「しかしそれだけでは不十分だろう。セレナには王家直々に、代わりの婚約者を充てがう準備をしようじゃないか。もしくは——」
王は玉座から立ち上がる。
「もしくは、まだ気が変わらぬのであれば、王妃となっては貰えないだろうか」
「えっ、それはどう言うことですの」
セレナさまは、赤く腫れた目を擦りながら答える。
周囲の家臣やメイドたちもザワついている。
「もちろんエドワードとの婚約はありえない。あやつは王位継承権を剥奪した。それに、それではガースン公爵家の顔に泥を塗ることになるだろう」
ジョゼフ王は、一人の兵士へと視線を送る。
すると先程と同じく、部屋から出て行く。
「セレナ、セレナ・ガースンよ。親として、いや王として謝罪をしよう。この度は息子が迷惑をかけてすまなかった」
ジョゼフ王は、頭を深く下げて、エドワードさまの行いを謝罪した。
王として、いや一個人としてもここまで真摯に謝罪を出来る人は少ないかもしれない。
私は、ここまでの謝罪をこれまで見たことはない。
王という器だからこそなのか、ジョゼフ王だからなのかは分からないけれど、貴族としての品格を感じさせる謝罪だった。
「王さま、頭をお上げになって下さい。確かにエドワードさまの裏切りには、悲しくなりましたが、王は頭を下げてはなりませんわ」
「そう言って貰えるだけでありがたい」
ジョゼフ王は、下げていた頭を上げた。
丁度、先程の兵士が戻って来た。
「クリスさまをお連れしました」
「遅れました父上。第二王子クリス・ウィザーズ、入ります」
兵士が連れて来たのは、第二王子のクリスさまだった。
クリスさまは、遊び歩いていたエドワードさまとは違って、兵士を率いて武装集団の鎮圧活動をしていた。
そのため領民からの信頼も厚く、人気も高かった。
そのクリスさまは、普段は王都にいることはないが、ここにいるということは王が呼び戻したのだろう。
「セレナさん、ですね。お会いしたことはありませんが、話ではよく聞いていました。今回は、このような場で始めて会うことになってしまったのが残念でなりません。私からも謝罪をさせて下さい」
クリスさまも、王と同じく頭を下げる。
「クリスさま、初めまして。頭をお上げになって下さい」
クリスさまは、眩しい笑顔を向けながら顔を上げた。
「セレナよ、目の前にいるクリスの婚約者になっては貰えないか。もちろん嫌なら断っても構わない。その場合も賠償金はしっかりと払おう」
「王さま、私は小さい頃から王妃とあれ、と育てられて来ました。今更他家に嫁ぐことや他の生き方を探すことは、考えられませんわ。この話、喜んでお受けします」
「そうか、それは良かった。だが相性問題もあるだろうから、今回で婚約という訳にはいかない。エドワードのこともあるし、クリスの人となりをしっかりと見極めてから、再度決めて欲しい」
「分かりましたわ」
クリスさまとセレナさまは、互いに見つめあっていた。
「では、これにて処罰、処遇については終了とする」
ジョゼフ王がそう言うと、兵士たちがサディさまとエドワードさまを抱えて何処かへ運んで行った。
二人は抵抗することもなく、大人しく連れて行かれた。
私たち家臣やメイドたちも、王座のある部屋から出て持ち場へと戻って行く。
これで、今回のエドワード王子とサディさまの件は一件落着となった。
それからは何の変哲のない日が続き、私はいつも通りメイドのして仕事をする日々が続いた続いた——。
数年後——。
王宮のとある一角。
私は今、隠密活動をしていた。
周囲にある草木に紛れるように、迷彩柄のメイド服を着て、地面に這いつくばるようにしていた。
そこに、人の声が聞こえて来た。
一組の男女が仲睦まじく、手を繋ぎながら歩いて来る。
二人を追いかけるように、一生懸命後を付けて走る子供の姿もある。
クリスさまとセレナさまに違いない。
あの後二人は、無事に婚約をした。
その一年後には結婚式も上げて、子供も生まれた。
可愛らしい王子が産まれたと、王宮中の話題になった。
三人は楽しそうに笑いながら、王宮の外庭を歩いて行く——。
「私、見ちゃいました!」
これで王国も安泰です——。
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