上 下
8 / 11
本編

7話

しおりを挟む
 今日の私は、いつもとは違う。
 いつものメイド服ではなく、外行き用のメイド服を着ていた。
 これからお会いする方に、失礼の無いようにするためだ。

 もちろん、ドレスを仕舞う箱でも、床下収納でも、天井裏でも、床下通路でもない。
 隠された謎の通路ではなく、普通に王宮にある通路を歩いている。

「あら、珍しいわね」

「あ、メイド長」

 王宮の通路を歩いていると、メイド長と遭遇した。
 メイド長は、私たちメイドの中で一番偉い人で、仕事の割り振りなどを行っている。

「その外行きの服、もしかして......」

「はい、これから丁度伺う所です」

「そう、失礼のないようにね」

 では、と言い残してメイド長は仕事へと戻った。
 何気ない会話だけど、私のようなメイドにも気を配ってくれているのが分かる。
 みんなから好かれていて、人柄も良いので、とても人気だ。

 メイド長に言われて、先程よりもより身だしなみに気を付ける。
 汚れていないかを確認して、大丈夫なのが分かると、目的へと向かう。



「お待ちしていました。話は通っていますので、どうぞお入り下さい」

 目的の部屋に着くと、扉の前には兵士がいた。
 その兵士は、私の顔を見ると警戒を解いて、笑顔になり、声をかけてくれた。

「ありがとうございます」

 それに対して、私は小さく会釈して返す。
 いつも大体同じ兵士の人が立っているので、知らない仲ではない。

 コンコンコンコン、と四回ほど扉を叩く。
 ここのマナーは、失礼のないように、気を付けなければならない。
 扉の前に立つ兵士とは違い、中にいる相手には敬意を持って接する必要がある。

 扉を叩いてからすぐ、内側から開いた。

「どうぞ、お入り下さい」

「いつも、ありがとう」

「仕事ですから......」

 扉を開けてくれたのは、私と同じメイドだ。
 顔は知っているけれど、仕事場が異なるので、会話をしたことはない人だ。

 メイドを後にして、部屋の奥へと進む。
 そこには、一人の女性がいた。
 その女性は、椅子に座りながら、机に置いてあるお茶を飲んでいた。

「お待たせしました」

「さぁさぁ、座って頂戴。そろそろ来る頃だと思ってお茶を入れておいたのよ」

 目の前には、空席と入れたばかりと思われるお茶が置いてある。
 失礼のないように気を付けながら、席へと座る。

「貴方はいつも固いのね、私と貴方の仲じゃないの。もっと砕けてもいいのに」

「そういうわけにはいきません、王妃さま」

「もう、せめて名前で呼んで頂戴」

 そう、目の前にいる女性はこの国の王妃さまだ。
 王妃さまはぷくー、と口を膨らませながらそう言った。

「リディアさま......」

「そうよ、それでいいの」

 王妃さま、否、リディアさまは笑顔になる。
 平民の私が王宮にいるのは、目の前にいるこの方のおかげだ。
 リディアさまに拾われて、王宮で働くことになったのだ。
 話すと長くなるので、割愛する。

「それで、リディアさま。例の件についてですが......」

「あら、もう何か分かったの」

「ええ......」

 私は、ただのメイドでは無かった。
 王宮に勤めているけれど、雇い主は王妃。
 表向きは普通のメイドと変わらないけれど、裏では王妃直轄メイド、上司はリディアさまなのだ。

 リディアさまから、これまでも様々なことを頼まれては、それに答えて来た。
 今回もまた、極秘に直々の依頼を受けていた。

「それにしてもいつも悪いわね。今回も、エドワードとセレナさんの婚約が決まってからの監視をお願いしちゃったしね」

 そう、今回頼まれていたのは、時期国王となるエドワードさまとその婚約者の監視だ。
 それと同時に王宮内での出来事で、何か問題がないかも監視していた。
 何か問題が起こってしまっては、一大事になってしまう。

 それほどに、王座というものは重い。

「それで、今回の件ですが——」

 私は、今回見てきた出来事を事細かく、詳細に説明していった。

 エドワードさまとセレナさまの婚約破棄騒動について。
 サディさまとセレナさまの揉め事について。
 サディさまの不貞行為疑惑について。
 サディさまとエドワードさまの不貞行為の可能性について。

 などなど、見てきたことを伝えて行く。

「なるほどね......」

 リディアさまは、何か考え込むような表情をしている。
 普段は温厚な性格をしているけれど、王妃という立場もあって、甘いという訳ではない。
 今回の件、どうするのかを考えているのかもしれない。

「それにしても、セレナさんには悪いことをしちゃったわね......」

 それだけ言うと、机に置いてあったお茶を飲み干した。

「ありがとうね、ライラちゃん」

「いえ、仕事ですから」

「ふふふ」

 私は、報告を終えたことの安心感と達成感もあり、ドヤ顔でそう答える。
 それを見て、リディアさまは微笑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。

hoo
恋愛
 ほぅ……(溜息)  前世で夢中になってプレイしておりました乙ゲーの中で、わたくしは男爵の娘に婚約者である皇太子さまを奪われそうになって、あらゆる手を使って彼女を虐め抜く悪役令嬢でございました。     ですのに、どういうことでございましょう。  現実の世…と申していいのかわかりませぬが、この世におきましては、皇太子さまにそのような恋人は未だに全く存在していないのでございます。    皇太子さまも乙ゲーの彼と違って、わたくしに大変にお優しいですし、第一わたくし、皇太子さまに恋人ができましても、その方を虐め抜いたりするような下品な品性など持ち合わせてはおりませんの。潔く身を引かせていただくだけでございますわ。    ですけど、もし本当にあの乙ゲーのようなエンディングがあるのでしたら、わたくしそれを切に望んでしまうのです。婚約破棄されてしまえば、わたくしは晴れて自由の身なのですもの。もうこれまで辿ってきた帝王教育三昧の辛いイバラの道ともおさらばになるのですわ。ああなんて素晴らしき第二の人生となりますことでしょう。    ですから、わたくし決めました。あの乙ゲーをこの世界で実現すると。    そうです。いまヒロインが不在なら、わたくしが用意してしまえばよろしいのですわ。そして皇太子さまと恋仲になっていただいて、わたくしは彼女にお茶などをちょっとひっかけて差し上げたりすればいいのですよね。    さあ始めますわよ。    婚約破棄をめざして、人生最後のイバラの道行きを。       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆     ヒロインサイドストーリー始めました  『めんどくさいが口ぐせになった公爵令嬢とお友達になりたいんですが。』  ↑ 統合しました

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

王妃となったアンゼリカ

わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。 そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。 彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。 「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」 ※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。 これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

死にたがり令嬢が笑う日まで。

ふまさ
恋愛
「これだけは、覚えておいてほしい。わたしが心から信用するのも、愛しているのも、カイラだけだ。この先、それだけは、変わることはない」  真剣な表情で言い放つアラスターの隣で、肩を抱かれたカイラは、突然のことに驚いてはいたが、同時に、嬉しそうに頬を緩めていた。二人の目の前に立つニアが、はい、と無表情で呟く。  正直、どうでもよかった。  ニアの望みは、物心ついたころから、たった一つだけだったから。もとより、なにも期待などしてない。  ──ああ。眠るように、穏やかに死ねたらなあ。  吹き抜けの天井を仰ぐ。お腹が、ぐうっとなった。

転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました

平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。 クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。 そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。 そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも 深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。

処理中です...