5 / 11
本編
4話
しおりを挟む
「る~んるん」
鼻歌を歌いながら、陽気な気分で軽快な足取りでいつも通り、歩いていた。
もちろん今日も狭い場所ではなく、広く誰もいない所にいる。
王宮内に無数に存在する、隠し通路を歩いていた。
そこは、壁と壁の間にある隠された通路であり、その存在を知る者は多くはない。
誰もいなく、誰にも知られていない場所を自由に歩き回るのは、とても心地良い。
今日は、重労働な仕事はないので、気分まで上がって来る。
「ぐす......ぐす......」
暫く陽気な気分で通路を歩いていると、どこからか微かな音が聞こえて来た。
誰かが泣いているような、鼻をすすっているような、そんな音だ。
慎重に聞き耳を立てながら、音の発生源である壁の前へと移動する。
その壁周辺に、僅かな小さな穴を見つけて、目を近付けて覗き込む。
穴の向こうは、可愛らしい装飾をされた部屋となっていた。
一目で、そこが女性の部屋だと分かる。
「どうして私ばかり......」
おっと。
声が聞こえて来た方に意識を向けると、一人の女性がベットに座っていた。
それはこの前見かけた、王子の婚約者であり、ガースン公爵家の令嬢のセレナさまだ。
婚約者といえ、王家に嫁ぐセレナさまには、王宮内に部屋が与えられている。
だから、この可愛らしい装飾の施された場所は、セレナさまの部屋で間違いない。
先程聞こえて来た音は、セレナさまが自室で泣いているものだったみたいだ。
「皆さん、酷いのです」
部屋には、セレナさま以外に人影は見えない。
つまり、独り言を呟いている所に、私が通りかかってしまったということだ。
悪いと思いつつも、どんなことを話しているのかが気になり、息を潜めて部屋の中の様子を伺う。
「前からサディさんは意地悪でしたけど、ここ最近は更に酷くなりましたわ」
「サディさんのお友達方も、私に意地悪をするのです」
「殴られたりこそしないものの、押し飛ばされたりすることが増えましたわ」
相当ストレスが溜まっていたらしく、セレナさまは独り言を呟いていく。
「それに最近は、エドワードさまもどこか冷たく感じられますわ。笑顔を見せてくれませんし、話かけてもどこかうわの空のようです」
エドワードさまとは、セレナさまの婚約相手で、王国の第一王子のことだろう。
「貴方はどう思いますか?」
セレナさまの一言に、背筋が凍る気がした。
私がここにいることがバレた?
いや、向こうからこちら側を見ることは出来ないはずだ。
セレナさまは私の存在に分かっていながら、愚痴を呟いていた......?
その場合、どういった意味が......。
そんな風に頭の中で、分からないことについてぐるぐると考えを巡らせていた。
「貴方はどう思いますか? クマちゃん」
え......。
セレナさまをもう一度よく見た。
セレナさまの胸元には、可愛らしいクマのぬいぐるみが抱えられている。
どうやら、これまでの発言は可哀想な独り言の愚痴ではなく、セレナさまなりのストレス発散方法のようだ。
そこまで聞いて、私は気付かれないようにその場を後にすることにした。
これ以上聞いていては、可哀想になって来てしまう。
あ。
ガタッ、と音を立ててしまった。
「だ、誰ですのっ!」
セレナさまが焦った声で、私に向かって声をかけて来る。
だけど、いくら私の方を見ようと、そこには壁しかない。
「......? おかしいですわね、気のせいなのかしら」
そんなセレナさまを置いて、私はその場を立ち去ることにした。
これ以上音を立ててしまうと、誤魔化せなくなってしまう。
暫く歩き、バレない所まで来た。
私は、今回のことを見てセレナさまがとても可哀想になってしまった。
「セレナさまは可哀想です。これは何とかしたくてはいけません」
鼻歌を歌いながら、陽気な気分で軽快な足取りでいつも通り、歩いていた。
もちろん今日も狭い場所ではなく、広く誰もいない所にいる。
王宮内に無数に存在する、隠し通路を歩いていた。
そこは、壁と壁の間にある隠された通路であり、その存在を知る者は多くはない。
誰もいなく、誰にも知られていない場所を自由に歩き回るのは、とても心地良い。
今日は、重労働な仕事はないので、気分まで上がって来る。
「ぐす......ぐす......」
暫く陽気な気分で通路を歩いていると、どこからか微かな音が聞こえて来た。
誰かが泣いているような、鼻をすすっているような、そんな音だ。
慎重に聞き耳を立てながら、音の発生源である壁の前へと移動する。
その壁周辺に、僅かな小さな穴を見つけて、目を近付けて覗き込む。
穴の向こうは、可愛らしい装飾をされた部屋となっていた。
一目で、そこが女性の部屋だと分かる。
「どうして私ばかり......」
おっと。
声が聞こえて来た方に意識を向けると、一人の女性がベットに座っていた。
それはこの前見かけた、王子の婚約者であり、ガースン公爵家の令嬢のセレナさまだ。
婚約者といえ、王家に嫁ぐセレナさまには、王宮内に部屋が与えられている。
だから、この可愛らしい装飾の施された場所は、セレナさまの部屋で間違いない。
先程聞こえて来た音は、セレナさまが自室で泣いているものだったみたいだ。
「皆さん、酷いのです」
部屋には、セレナさま以外に人影は見えない。
つまり、独り言を呟いている所に、私が通りかかってしまったということだ。
悪いと思いつつも、どんなことを話しているのかが気になり、息を潜めて部屋の中の様子を伺う。
「前からサディさんは意地悪でしたけど、ここ最近は更に酷くなりましたわ」
「サディさんのお友達方も、私に意地悪をするのです」
「殴られたりこそしないものの、押し飛ばされたりすることが増えましたわ」
相当ストレスが溜まっていたらしく、セレナさまは独り言を呟いていく。
「それに最近は、エドワードさまもどこか冷たく感じられますわ。笑顔を見せてくれませんし、話かけてもどこかうわの空のようです」
エドワードさまとは、セレナさまの婚約相手で、王国の第一王子のことだろう。
「貴方はどう思いますか?」
セレナさまの一言に、背筋が凍る気がした。
私がここにいることがバレた?
いや、向こうからこちら側を見ることは出来ないはずだ。
セレナさまは私の存在に分かっていながら、愚痴を呟いていた......?
その場合、どういった意味が......。
そんな風に頭の中で、分からないことについてぐるぐると考えを巡らせていた。
「貴方はどう思いますか? クマちゃん」
え......。
セレナさまをもう一度よく見た。
セレナさまの胸元には、可愛らしいクマのぬいぐるみが抱えられている。
どうやら、これまでの発言は可哀想な独り言の愚痴ではなく、セレナさまなりのストレス発散方法のようだ。
そこまで聞いて、私は気付かれないようにその場を後にすることにした。
これ以上聞いていては、可哀想になって来てしまう。
あ。
ガタッ、と音を立ててしまった。
「だ、誰ですのっ!」
セレナさまが焦った声で、私に向かって声をかけて来る。
だけど、いくら私の方を見ようと、そこには壁しかない。
「......? おかしいですわね、気のせいなのかしら」
そんなセレナさまを置いて、私はその場を立ち去ることにした。
これ以上音を立ててしまうと、誤魔化せなくなってしまう。
暫く歩き、バレない所まで来た。
私は、今回のことを見てセレナさまがとても可哀想になってしまった。
「セレナさまは可哀想です。これは何とかしたくてはいけません」
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
平和的に婚約破棄したい悪役令嬢 vs 絶対に婚約破棄したくない攻略対象王子
深見アキ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・シェリルに転生した主人公は平和的に婚約破棄しようと目論むものの、何故かお相手の王子はすんなり婚約破棄してくれそうになくて……?
タイトルそのままのお話。
(4/1おまけSS追加しました)
※小説家になろうにも掲載してます。
※表紙素材お借りしてます。
えっ、これってバッドエンドですか!?
黄昏くれの
恋愛
ここはプラッツェン王立学園。
卒業パーティというめでたい日に突然王子による婚約破棄が宣言される。
あれ、なんだかこれ見覚えがあるような。もしかしてオレ、乙女ゲームの攻略対象の一人になってる!?
しかし悪役令嬢も後ろで庇われている少女もなんだが様子がおかしくて・・・?
よくある転生、婚約破棄モノ、単発です。
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。
【改稿版】婚約破棄は私から
どくりんご
恋愛
ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。
乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!
婚約破棄は私から!
※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。
◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位
◆3/20 HOT6位
短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)
成り上がり令嬢暴走日記!
笹乃笹世
恋愛
異世界転生キタコレー!
と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎
えっあの『ギフト』⁉︎
えっ物語のスタートは来年⁉︎
……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎
これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!
ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……
これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー
果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?
周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎
変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ
奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。
スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな
悪役令嬢ってこれでよかったかしら?
砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。
場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。
全11部 完結しました。
サクッと読める悪役令嬢(役)。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる