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本編

4話

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「る~んるん」

 鼻歌を歌いながら、陽気な気分で軽快な足取りでいつも通り、歩いていた。
 もちろん今日も狭い場所ではなく、広く誰もいない所にいる。

 王宮内に無数に存在する、隠し通路を歩いていた。
 そこは、壁と壁の間にある隠された通路であり、その存在を知る者は多くはない。
 誰もいなく、誰にも知られていない場所を自由に歩き回るのは、とても心地良い。

 今日は、重労働な仕事はないので、気分まで上がって来る。


「ぐす......ぐす......」

 暫く陽気な気分で通路を歩いていると、どこからか微かな音が聞こえて来た。
 誰かが泣いているような、鼻をすすっているような、そんな音だ。

 慎重に聞き耳を立てながら、音の発生源である壁の前へと移動する。
 その壁周辺に、僅かな小さな穴を見つけて、目を近付けて覗き込む。

 穴の向こうは、可愛らしい装飾をされた部屋となっていた。
 一目で、そこが女性の部屋だと分かる。

「どうして私ばかり......」

 おっと。
 声が聞こえて来た方に意識を向けると、一人の女性がベットに座っていた。
 それはこの前見かけた、王子の婚約者であり、ガースン公爵家の令嬢のセレナさまだ。

 婚約者といえ、王家に嫁ぐセレナさまには、王宮内に部屋が与えられている。
 だから、この可愛らしい装飾の施された場所は、セレナさまの部屋で間違いない。

 先程聞こえて来た音は、セレナさまが自室で泣いているものだったみたいだ。

「皆さん、酷いのです」

 部屋には、セレナさま以外に人影は見えない。
 つまり、独り言を呟いている所に、私が通りかかってしまったということだ。

 悪いと思いつつも、どんなことを話しているのかが気になり、息を潜めて部屋の中の様子を伺う。

「前からサディさんは意地悪でしたけど、ここ最近は更に酷くなりましたわ」
「サディさんのお友達方も、私に意地悪をするのです」
「殴られたりこそしないものの、押し飛ばされたりすることが増えましたわ」

 相当ストレスが溜まっていたらしく、セレナさまは独り言を呟いていく。

「それに最近は、エドワードさまもどこか冷たく感じられますわ。笑顔を見せてくれませんし、話かけてもどこかうわの空のようです」

 エドワードさまとは、セレナさまの婚約相手で、王国の第一王子のことだろう。

「貴方はどう思いますか?」

 セレナさまの一言に、背筋が凍る気がした。
 私がここにいることがバレた? 
 いや、向こうからこちら側を見ることは出来ないはずだ。

 セレナさまは私の存在に分かっていながら、愚痴を呟いていた......?
 その場合、どういった意味が......。
 そんな風に頭の中で、分からないことについてぐるぐると考えを巡らせていた。

「貴方はどう思いますか? クマちゃん」

 え......。
 セレナさまをもう一度よく見た。
 セレナさまの胸元には、可愛らしいクマのぬいぐるみが抱えられている。

 どうやら、これまでの発言は可哀想な独り言の愚痴ではなく、セレナさまなりのストレス発散方法のようだ。
 そこまで聞いて、私は気付かれないようにその場を後にすることにした。

 これ以上聞いていては、可哀想になって来てしまう。
 あ。
 ガタッ、と音を立ててしまった。

「だ、誰ですのっ!」

 セレナさまが焦った声で、私に向かって声をかけて来る。
 だけど、いくら私の方を見ようと、そこには壁しかない。

「......? おかしいですわね、気のせいなのかしら」

 そんなセレナさまを置いて、私はその場を立ち去ることにした。
 これ以上音を立ててしまうと、誤魔化せなくなってしまう。

 暫く歩き、バレない所まで来た。
 私は、今回のことを見てセレナさまがとても可哀想になってしまった。

「セレナさまは可哀想です。これは何とかしたくてはいけません」
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