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本編
3話
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「よいしょ、よいしょっと」
今日の私は、狭い所には入っていない。
王宮に勤めるメイドとしての、仕事を行っているのだ。
洗濯し終えた衣服などを、干すために運んでいる所だ。
その量は膨大なので、何往復もしなければならない重労働である。
私だっていつも変な所にいるのではない。
きちんと、メイドの責務を果たして過ごしている日もある。
決して、普段からサボっているわけではないのだ。
「もう、量が多すぎですよ~」
あまりの洗濯物の量に、愚痴の一つや二つ言いたくなってしまい、口から漏れる。
今運んでいる分だって、三回目だ。
それでも、後数回は運ばなければならないくらいの量はある。
それも、メイド仲間たちと協力して、だ。
かなりの量にうんざりする。
「全く、給金を増やして貰わないと割にあいませんよ」
文句は言いながらも、体は動かす。
「きゃあ!」
重い洗濯物を運んで何往復もしていると、物陰から悲鳴が聞こえて来た。
洗濯物も干す場所は、王宮の外れにあり、ここにはめったに人は来ない。
この場所に来るとしたら、私のようなかわいそうなメイドくらい。
誰かが怪我でもしていたら大変と思って、近付いて様子を見る。
「もう辞めて下さい!」
物陰に近付くと、可愛らしい女性の声が聞こえた。
上品ではあるけれど、どこか子供らしさの残る声だ。
「貴方が悪いのですわよ、セレナ・ガースン」
「私は何もしていませんわ、サディさんは何か勘違いをしていますわ」
物陰から覗き込んで、どのような状況なのかを確認することにした。
先程の悲鳴の主は、この王宮に勤めている人であれば誰もが知っている人だった。
セレナ・ガースン、ガースン公爵家の令嬢であり、王子の婚約者。
セレナさまと話しているサディと言われた人は、サディ・ロスメルさまに違いない。
ロスメル侯爵家の令嬢であり、この王宮にもよく出入りをしている。
どうしてこの二人がこんな場所にいるかは分からないけれど、あまり良くない状況ということは分かった。
だけど、平民である私にはどうすることも出来ない。
平民が貴族さまに口出しをしてしまえば、どんな仕打ちをされるか分かったものではない。
見せしめに罰を与えられた者、その場で切り捨てられた者、最悪の場合だと死刑になった者もいる。
圧倒的な権力を持つ貴族さまに逆らえば、どんな結果が待っているのか分からないのだ。
法律では平民に対する仕打ちは良いとはされていないとはいえ、現状はあまり変わってはいない。
見ることだけしか出来ないので、せめて見つからないように声を潜めた。
「貴方、公爵家なのをいいことに好き勝手やっているのが気に入らないのですわ」
「私は好き勝手になんて、していませんわ。公爵家ということも関係ありませんわ」
「それなら、王子との婚約は解消なさっては? 公爵家が関係ないのなら、貴方には関係のないことですわよね」
「そういう訳には行きませんわ......」
「あれ、公爵家の令嬢ともあろう方が、言っていることの矛盾にお気付き出ないのですか。それとも、やはり侯爵家相手だからと見下しているのかしら」
「そんなことありませんわ、サディさんはどうしてそんなに酷いことを言うのですか......」
サディさまは、セレナさま相手にめちゃくちゃなことを言っている。
困らせるようなことを言い、悲しんでいるサディさまを見て喜んでいるみたいだ。
それに対してセレナさまは、今にも泣き出しそうな顔をしている。
あの方は、優しすぎる性格をしている。
だから意地悪なことを言うサディさま相手には、相性が悪い。
「きゃあ、酷いです、酷いですわ。ぐす......」
サディさまが、セレナさまのことを押し飛ばした。
押し飛ばしたされた勢いで、セレナさまは尻餅をつく。
見ていて、とても痛そうだった。
「公爵家のことが関係ないって言うのなら、早く婚約を解消することですわ。口がダメなら、行動で証明して欲しいですわね、公爵家のお、じょ、う、さ、ま」
あ、やばい。
サディさまは、それだけ言うと尻餅をついているセレナさまもその場に残して、私の方へと向かって来た。
どうしようか焦っていると、サディさまはついには壁沿いに沿って曲がった。
そして、私と目が合った。
いや、合ってしまった、と言った方が良いかもしれない。
「あら、御機嫌よう」
良かった、盗み見ていたのがバレていないかもしれない。
私は、言葉を発することはせずにお辞儀をした。
そのままサディさまは歩き、私とすれ違いざまに小さな声で話して来た。
「今回見たことを誰かに話してご覧なさい。その首、二度とくっつくことはないですわよ」
サディさまはそのまま、去って行った。
私は冷や汗が出つつ、やり過ごせたことに安堵する。
セレナさまは泣いているが、この場合は見なかったことにしておいた方が良いと判断した。
手をかけることはせず、黙ってその場を後にする。
「凄い現場を見ちゃいました......。それにしてもサディさま、あんな態度で良いのでしょうか」
今日の私は、狭い所には入っていない。
王宮に勤めるメイドとしての、仕事を行っているのだ。
洗濯し終えた衣服などを、干すために運んでいる所だ。
その量は膨大なので、何往復もしなければならない重労働である。
私だっていつも変な所にいるのではない。
きちんと、メイドの責務を果たして過ごしている日もある。
決して、普段からサボっているわけではないのだ。
「もう、量が多すぎですよ~」
あまりの洗濯物の量に、愚痴の一つや二つ言いたくなってしまい、口から漏れる。
今運んでいる分だって、三回目だ。
それでも、後数回は運ばなければならないくらいの量はある。
それも、メイド仲間たちと協力して、だ。
かなりの量にうんざりする。
「全く、給金を増やして貰わないと割にあいませんよ」
文句は言いながらも、体は動かす。
「きゃあ!」
重い洗濯物を運んで何往復もしていると、物陰から悲鳴が聞こえて来た。
洗濯物も干す場所は、王宮の外れにあり、ここにはめったに人は来ない。
この場所に来るとしたら、私のようなかわいそうなメイドくらい。
誰かが怪我でもしていたら大変と思って、近付いて様子を見る。
「もう辞めて下さい!」
物陰に近付くと、可愛らしい女性の声が聞こえた。
上品ではあるけれど、どこか子供らしさの残る声だ。
「貴方が悪いのですわよ、セレナ・ガースン」
「私は何もしていませんわ、サディさんは何か勘違いをしていますわ」
物陰から覗き込んで、どのような状況なのかを確認することにした。
先程の悲鳴の主は、この王宮に勤めている人であれば誰もが知っている人だった。
セレナ・ガースン、ガースン公爵家の令嬢であり、王子の婚約者。
セレナさまと話しているサディと言われた人は、サディ・ロスメルさまに違いない。
ロスメル侯爵家の令嬢であり、この王宮にもよく出入りをしている。
どうしてこの二人がこんな場所にいるかは分からないけれど、あまり良くない状況ということは分かった。
だけど、平民である私にはどうすることも出来ない。
平民が貴族さまに口出しをしてしまえば、どんな仕打ちをされるか分かったものではない。
見せしめに罰を与えられた者、その場で切り捨てられた者、最悪の場合だと死刑になった者もいる。
圧倒的な権力を持つ貴族さまに逆らえば、どんな結果が待っているのか分からないのだ。
法律では平民に対する仕打ちは良いとはされていないとはいえ、現状はあまり変わってはいない。
見ることだけしか出来ないので、せめて見つからないように声を潜めた。
「貴方、公爵家なのをいいことに好き勝手やっているのが気に入らないのですわ」
「私は好き勝手になんて、していませんわ。公爵家ということも関係ありませんわ」
「それなら、王子との婚約は解消なさっては? 公爵家が関係ないのなら、貴方には関係のないことですわよね」
「そういう訳には行きませんわ......」
「あれ、公爵家の令嬢ともあろう方が、言っていることの矛盾にお気付き出ないのですか。それとも、やはり侯爵家相手だからと見下しているのかしら」
「そんなことありませんわ、サディさんはどうしてそんなに酷いことを言うのですか......」
サディさまは、セレナさま相手にめちゃくちゃなことを言っている。
困らせるようなことを言い、悲しんでいるサディさまを見て喜んでいるみたいだ。
それに対してセレナさまは、今にも泣き出しそうな顔をしている。
あの方は、優しすぎる性格をしている。
だから意地悪なことを言うサディさま相手には、相性が悪い。
「きゃあ、酷いです、酷いですわ。ぐす......」
サディさまが、セレナさまのことを押し飛ばした。
押し飛ばしたされた勢いで、セレナさまは尻餅をつく。
見ていて、とても痛そうだった。
「公爵家のことが関係ないって言うのなら、早く婚約を解消することですわ。口がダメなら、行動で証明して欲しいですわね、公爵家のお、じょ、う、さ、ま」
あ、やばい。
サディさまは、それだけ言うと尻餅をついているセレナさまもその場に残して、私の方へと向かって来た。
どうしようか焦っていると、サディさまはついには壁沿いに沿って曲がった。
そして、私と目が合った。
いや、合ってしまった、と言った方が良いかもしれない。
「あら、御機嫌よう」
良かった、盗み見ていたのがバレていないかもしれない。
私は、言葉を発することはせずにお辞儀をした。
そのままサディさまは歩き、私とすれ違いざまに小さな声で話して来た。
「今回見たことを誰かに話してご覧なさい。その首、二度とくっつくことはないですわよ」
サディさまはそのまま、去って行った。
私は冷や汗が出つつ、やり過ごせたことに安堵する。
セレナさまは泣いているが、この場合は見なかったことにしておいた方が良いと判断した。
手をかけることはせず、黙ってその場を後にする。
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