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8話 一緒にお散歩

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 アレックス主催のお茶会の最後に、明日一緒に出かけないかと誘われました。
 幸い、王都には数日間は滞在する予定だったので、私は行くことにしました。

 お茶会から王都の屋敷に帰宅後、執事からの許可ももらいました。

「私の方から旦那さまと奥さまに伝えておきますので、お嬢さまはアレックス王子と楽しんで来てください」

「ええ、ありがとう」

「それと護衛についてですが......必要はなさそうですね」

 アレックスは王国の王子だ。
 いくら私たち二人で出かけたいと言っても、護衛が付いてくるのは間違いない。
 私が用意しなくても、王子の側なら安全なはずです。

「一つ、お願いしたいことがあるのだけど——」



 ◇


 出かける当日の朝になった。
 アレックスは、私が泊まっている屋敷にまで迎えに来てくれるみたいです。

「お嬢さま、アレックス王子が来ました。それと、頼まれいたものですが、用意が出来ませたのでお忘れないように」

「あら、ありがとう。では行ってくるわね」

 執事への感謝を伝えて、玄関へと向かいます。
 屋敷の扉を開けると、白馬にまたがるアレックスがいた。
 太陽の光が当たり、金髪は輝いて見え、いつもとは違って見えました。

「やぁローラ」
「アレックスさま、今日はよろしくお願いしますわ」

「馬は二頭連れて来たんだ。ローラはそっちの黒い方に乗ってくれ」

 アレックスがまたがっている白馬とは別に、もう一頭全身真っ黒の馬がいた。
 その毛並みは、普段からの手入れを感じさせられるものとなっていました。

「大丈夫だとは思うが、馬には乗れるか?」
「ええ、乗れますわ。領地で習いましたもの」
「それは良かった、では僕について来てくれ」

 そう言ってアレックスの白馬は、前へと進んで行く。
 私が乗った馬は、特に指示を出さなくても勝手について行ってくれましまた。

 とても頭の良い子のようです。




 私たち二人は、王都を出て森へと進んでいました。
 進むごとに深くなる森、次第に道とは言えない場所を歩くようになりました。

 アレックスは、一体どこへと行こうとしているのでしょうか。
 私には全く見当もつきません。

「よし」

 目の前を歩いていた、白馬の足が止まった。
 続いて私の乗る真っ黒な馬の足も止まりました。

「アレックス......さま?」

「ローラ、前を見てごらん」

 落馬らくばしないように集中していたので、前方は良く確認していませんでした。
 言われた通りに、前を見た。

 そこには湖がありました。
 だけどそれは、ただの湖ではありません。
 美しく日の光を浴びて、きらめく水面に、水底が見えるほどの透明な水。

「う、美しいですわ」

「ふふ、ローラに気に入ってもらえたみたいで、良かった」

「こんなにきれいな湖、見たことがありません」

「ここは僕が昔から気に入っている場所だ。ローラと二人で、この光景を見たいと思ったんだ」

 どうやら、目的地はここだったようです。
 王都から少し離れていて、決して楽な道とは言えません。
 けど、それでもこの光景を見るためなら、その過程も惜しくはありませんでした。

「さぁ、手を取って」

「ありがとうございますわ」

 先に馬から降りたアレックスは、私と手を取って、降りるのを手助けしてくれました。

「馬は置いて、もう少し近づこう。もっと良い場所があるんだ——」






 アレックスおすすめの場所へと行った私たちは、布を広げて地面へと座りました。

「アレックスさま、食事にしませんか?」

「もうそんな時間だったのか。時間が経つのが早く感じるね」

 屋敷を出た頃に昇り始めていた日は、天高くにあった。
 私は、執事に頼んで作らせた弁当を取り出しました。

「これ、作らせたものを持って来ましたわ」

「お、ありがたい。誰から食事をもらうことなんて始めてだ」

 アレックスはとても嬉しそうに、そう言った。

 弁当には、サンドイッチと軽く食べられるおかずのようなものが入っている。
 一緒に持って来た水筒には、水が入れてある。

「すまないローラ。疑っているわけではないが、父上との約束で僕はこれで食べなければいけないんだ」

 アレックスはそう言うと、マイスプーンを取り出して、器用にサンドイッチを食べ始めました。

「仕方ありませんわ、王国の王子さまですもの。何かがあったからでは遅いですわ」

 あのスプーンは、銀で出来ている物だろう。
 銀製であれば、毒の判別が出来ると言われているので、常備しているのかもしれません。

 私が持って来た物ではあるけれど、アレックスは王子です。
 その身分から、常に暗殺の危機にさらされているに違いありません。

 私たちは、食事を食べながら雑談をしました。
 昨日のお茶会でのこと、文通でのこと、文通では語らなかったこと。
 多くを話しました。

 アレックスと話していると、とても楽しくて自然と笑みが増えます。
 それは、向こうも同じみたいです。

「ローラ、昨日は大勢でお茶会をしたけど、今度は少人数でもやりたいと思うんだ。君さえ良ければ、来てくれないか?」

「えっ! 良いのですか? 私の家族は私も含めて、お茶には詳しくありませんの!」

「それなら、ローラが好きそうなお茶をうんとそろえておくよ」

 アレックスは笑いながら言いました。
 私も釣られて笑います。

 二人でしばらく笑っていると、アレックスは真剣な表情になりました。
 先程までとは違う、真剣しんけんな表情をしています。
 一体、どうしたのでしょうか。

「ロ、ローラ」

「どうしたのですか?」

「文通もやってお茶会にも招待してみて、そして今日のことでやっと分かった。僕は君のことが好きだ、愛している」

「えっ......」

 いきなりの告白に、驚いてしまいました。

「ローラ、僕の妻、いや婚約してはくれないか?」

 アレックスと一緒にいるのは、とても楽しい。
 二人で過ごす未来はきっと、素晴らしいものになるかもしれません。

 だけど。

「す、少し時間を頂いても良いですか?」

「あ、ああ......」

 天高く昇っていた日は、既に落ちて沈もうとしていた——。
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