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9話

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「うむ、その言葉を聞きたかった」

 私がグリンさまと婚約したいことを伝えると、王はうなずきながらそう答えた。
 その表情は、どこか嬉しそうだ。

「意地悪な質問をしてすまなかったね。実を言うと、アニング公爵家のことは知っていたんだ」

「えっ! どういうことですの」
「どういうことですか、父上!」

 先程までとは違って、王は優しい声でそう言った。
 衝撃の事実に私は驚いたけれど、それはグリンさまも同じだったみたいだ。

「グリン、貴方が把握出来る情報を帝国が知らないはずがありませんのよ」
「それを知っていて黙っていたのですか、全くずるい人たちです」

 グリンさまは笑いながら、王と妃に言った。
 その光景を見るだけで、目の前の三人の関係性知ることが出来る。

 親子として、王と王子として良い関係を築いていた。
 王国とはまるで違うその関係性は、とても微笑ましく思える。

「王国での出来事はある程度把握していたのだ。エミリーには悪いことをしたな」

「そ、そんな、そんなことはありませんわ。もったいないお言葉です」

「エミリーを助け出そうにも、帝国側が動けば国際問題になりかねんかった。その点では、グリンは良くやってくれた」

「私を助け出そうと......。どうしてですの」

 帝国は、王国の事情を知っていただけではなかったみたいだ。
 私のことも知った上で、何とかしようとしてくれていた。

「エミリーは、王国での出来事をどれくらい知っているのだ」

「出来事、ですか」

 どういうことなのかと考えていると、王は笑う。
 その表情に悪意はなく、まるで子でも見ているかのような顔だ。

「まぁ、今はまだ知らないか。それも後々分かることだろう」

「分からなくて、申し訳ないですわ」

「なに、そう謝ることではない」

 王はそこまで言うと、深く座っていた椅子から立ち上がった。
 堂々とした立ち振る舞いは、帝国の王の威厳を示しているようだった。
 王は小さく、こほんと咳をした。


「それで、婚約の件だったな」

「はい、父上」

「良いだろう、認めよう」

「ありがとうございます父上!」
「ありがとうございます!」

 まさか今日認めて貰えるとは思ってもいなかったので、とても嬉しい。
 だけど——。

「そう言う顔をするでないエミリーよ。そなたの父と話がしたい。この際だからちょうど良い」

 王から、私たちは退室するように言われた。
 それと同時に私の父、元アニング公爵を呼ぶようにとも言われた。

 私とグリンさまは、顔を見つめ合いながら笑い合った。
 そして、仲良く部屋から出た。
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