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隣国の王子様の退屈な舞踏会

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 退屈な舞踏会。
 周囲にいるのは、自分の身分に擦り寄ってくる女の子たちばかり。
 それでも帝国と王国の友好関係維持のためにも、参加せざるを得なかった。

「グリンさまは今日も格好いいですね」
「グリンさま、今日も素晴らしい格好をされていますね」
「流石帝国の王子様ですわ」

「皆さん、ありがとうございます。皆さんこそ美しい衣装に負けないくらいに輝いて見えますよ」

 私にかけられる言葉も、帝国、帝国の王子に対してのもの。
 地位や身分という、帝国という強大な存在があってこそのもの。
 目の前にいる彼女たちの中に、私を見ている人は本当にいるのだろうか。

 今すぐに逃げたしたいけれど、身分がそれを許してはくれなかった。
 社交的な定型文とも言える言葉だけを告げ、その場を乗り切る。

 私の周囲にいるのは、王国でも特に力を持っている貴族の娘たちだ。
 その身を見ても、宝石をこれでもかとふんだんに使ったとても趣味が良いとは言えない装飾品や服装をしている。

「あら、貴方の服装は素晴らしいですわね」
「ありがとうございますわ。貴方の宝石も素晴らしいですわ」

 貴族たちのマウントの取り合いをしているのを見てしまった。
 自身の力を、権力を周囲に示したいのだろう。
 帝国にもそういった人たちは多くいるので、分からなくもないけど......。


 しばらくして、女の子たちに一言伝えて、一人になっていた。
 私は、舞踏会会場のテラス席に当たる場所にいた。
 風にあたりながら、先程までを思い出すと疲れがドッと出て来る。

「はぁ......」

「おやおや、お疲れですな。マクニース殿」

 ため息を自然と漏らしていると、声をかけられた。
 そこには、一人の男性がいた。
 声の主は、着飾ってはいない服装ではあるけれど、品のある格好をしている。

「これはお恥ずかしい所を見られてしまいましたね」

「仕方ないことです。帝国の第一王子ともなれば、声をかける者も多いでしょうから」

「えーっと......」

 目の前の妙齢の男性の名が分からずに困っていると。
 それを察したのか、相手は優しい笑顔を浮かべる。

「これは失礼しましたな。王国貴族のアニングです」

「名が分からずに申し訳ないです......」

「なに、覚える人がたくさんいるので仕方ないことですよ」

 アニングを名乗る男性は、とても人柄の良く見えた。
 王子という身分のせいかもしれないけれど、嫌がる人は顔に出る。
 しかし、この男性は笑顔を崩さなかった。

「おっと、そろそろ我が国の王子が来る時間ですね。私は先に戻りますが、マクニース殿もそろそろ中へと......」

 そう言うと男性は、舞踏会のテラス席から中へと戻っていく。
 私もそれを追いかけるように、中へと入ることにした。
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