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「エミリー。エミリー・アニングよ、何か言いたいことはあるか」

「ありません」

 私は悔しさのあまり、唇を強く噛んだ。
 豪華な床へと視線を落とし、目の前に座る王の話を聞く。

「それでは、これで王子ランスと公爵家令嬢エミリーの婚約を破棄とする!」

「はい......」

 王から告げられた言葉に、何も言い返すことは出来ない。
 王の発言は絶対であり覆すことは不可能だ。

 今、婚約者としてランス王子と始めて出会った場所にいる。
 だけど、今の状況はあの頃とは違う。
 輝かしい未来も消え、格好良く優しかった王子はもういない。

 全てアイツに奪われてしまったのだ。

「父上! 発言してもよろしいでしょうか」

「うむ。よかろう」

 王座の横に並んでいたランス王子が発言した。
 その後ろには、憎きアイツがいる。

「エミリー、サラに謝ってくれないか」

 は?
 どうして、どうして私がアイツに謝らなければならないの。
 私から全てを奪ったのに。

 サラ・ローズデール。
 男爵家の令嬢と言う身分を弁えず、王子さまに手を出した悪どい奴だ。
 欲しいものを手に入れる為なら、どんな嘘だってつくし、危ないことだってやる。

 私もサラにはめられてしまった。
 ランス王子と釣り合うはずがないサラに注意をして来た。
 だけどサラは、それを利用して私を悪者にしてランス王子に近付いたのだ。

「王子さま、それだけは出来ません」

「そんな性格だから僕は君との婚約を辞めたんだ!」

 今回の婚約破棄の理由は、表向きには私の性格が悪いかららしい。
 ランス王子に近付くサラに対して、行った行動に問題があったと判断された。
 押し飛ばしたり、大声での罵倒、などなど。

「最後に聞く。サラに謝ってくれ」

「どうしてもそれだけは出来ませんわ」

「そうか......僕は言ったからな。聞かなかったのは君だエミリー」

 ランス王子は、背中でサラを庇いながら睨みつけるようにそう言った。
 それは、以前まで私に向けていた優しい顔ではない。
 優しかったランス王子は、憎きサラに取られてしまった。

「父上、最後に一つだけよろしいでしょうか。」
「うむ、言ってみるが良い」

 普通であればこの場で王子が発言することは、あまり宜しくないことだ。
 だけど、ランス王子は王様から溺愛されていることもあり、許されている。

「サラ、前へ」
「は、はい。ランス王子さま」

 ランス王子は、背後にいたサラを前へと出した。

「この場にて宣言する! 私ランスは、サラと婚約すると!」

 王座の間にいた人たちは、驚きの表情を浮かべた。
 婚約破棄の知らせだけだと思っていたのに、婚約発表も同時にされたからである。

「ランスさま、その女は貴方には相応しくはありませんわ」

 私は、驚きと怒りのあまり声を出してしまった。
 サラは私の婚約を破棄させただけではなく、ランス王子を奪ったのだ。

「エミリー、そなたの発言を許した覚えはない」

 王さまから注意される。
 それを見てサラは他の人にバレないよう、私にニヤついた顔を見せてくる。

「サラ、私の婚約者になってくれないか」

 ランス王子は、片膝を地面に付けた。
 そのままサラの手を取って言った。

「ええ、喜んで」

 サラは私に見せつけるかのような笑顔で、答えた。
 それを見ていた周囲の人たちは、拍手で受け入れている。

 私は心がぎゅうっと締め付けられた。
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