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本編

32話 帰還

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 森にある小屋。
 小屋には、この森の領主であるアルバート伯父おじ様が来ていた。

「リスターきょう、もう一度言ってくれないか。王都に戻れと聞こえたのだが、気のせいか?」

「いいえレオン王子殿下。その言葉の通りですよ」

 レオン王子殿下は、伯父様の言葉にあからさまに機嫌が悪くなった。
 それも仕方ありません。今、王都に戻ればどうなるかは目に見えて分かります。

「そう怒らないで聞いてほしい。さきほども言ったではないか、状況が変わったと」

「話しを聞こう」

 伯父様はそう言うと、ふところから一枚の紙を取り出した。
「これを」と言いながら、紙を差し出して来る。

「今の王家には、レオン王子殿下を捕まえるだけの力はありませんよ」

 レオン王子殿下は、話しを聞きながら渡された紙に目を通していく。

「先日、報告したアーヴァイン公爵領での動きが活発になり、その動きが王都にまで広がりました」

「反乱、いや革命......か」

「ええ、革命と言えるでしょうね」

 レオン王子殿下は、渡された紙を机に置いた。

「これは事実か?」

嘘偽うそいつわりのない事実のみが記載されています」

「そうか。いつかは、こうなるだろうとは思ってはいたが、こうも早いとは思いもしなかった」

 レオン王子殿下は、ため息をつきながら言葉を続ける。

「父上と兄上がここまでとは......」

「いづれはこうなることは目に見えていました」

「その、どうしてアーヴァイン公爵領の領民たちが王都に?」

 私は、気になった疑問を聞いてみた。
 王都と公爵領は、それほど離れてはいないけれど近くもありません。
 領民であれば、馬車に乗るのもそう簡単なことではないので、どうしたのでしょう。

 アルバート伯父様は、微笑ほほえみながら言いました。

「それはね、シルヴィア。君の父と妹が王家を頼って王都に逃げたからだよ」

「まぁ、お父様とセレナは無事だったのね。良かったですわ」

「シルヴィアは本当に優しい子だね......」

 伯父様は、私のことを真っ直ぐに見つめながら言いました。
 私は、昔からこの真っ直ぐな目が大好きです。
 伯父様は、子供の私にもいつも真剣に話しをしてくれたのを覚えています。

 私の方を見るのを辞めて、レオン王子殿下の方を向いた。
 そしてまた別の紙を取り出して、渡した。

「これは?」

「最近王都で出たものです」

 レオン王子殿下は、その紙を見るとガタンっと音を立てながらイスから立ち上がった。
 顔に手のひらを当てながら、大きなため息をついた。

「シルヴィア、俺は王都に行く」

「私もついて行きますわ」

 私は、置いて行かれないように立ち上がりながら言った。
 その様子を見て、レオン王子殿下は「はぁ」と言う。

「シルヴィアは決めたら変えないからな......」

「あら、どこかのやさぐれ王子よりはマシですわ」

 私は、嫌味を込めて言った。

「分かった、分かったよシルヴィア。一緒に行こう」

「ええ」

 レオン王子殿下は、笑いながら両手をあげて降参と言ってきた。

「シルヴィアとレオン王子殿下は仲が良いのだね......」

 伯父様は、どこか悲しそうに言う。

「よし、王都までの手配は任せてくれないか」

 こうして、私たちは王都へと行くことになりました。


 ◇


 王都付近まで来ると、私たちが乗っている馬車が急に止まりました。
 何かあったのでしょうか。

「すまないが、ここから先は通行止めにさせてもらっている」

「俺たちは王都に用があるんだ」

 外からは、御者ぎょしゃをしているクライヴと別の男性の声が聞こえてくる。
 何かを話し合っているようです。

「それなら、乗っている全員降りて顔を見せてもらおうか」

「なっ! 誰が乗っているのか分かっているのか!」

 クライヴがあわてたように言う。
 周囲にいる護衛メンバーたちは、剣を引き抜こうとした。
 それをレオン王子殿下は、馬車の中からとめる。

「やめろ。俺なら構わん」

 そう言うと、馬車から降りた。
 私たちも、一緒に降りることにしました。

「まさか、シルヴィア様っ!?」

 私が馬車から降りると、先程まで話していた男性は目をまん丸にして驚いた。
 それと同時に、周囲にいた他の人たちもざわざわとし始める。

「ってことは、あなたはレオン様ですか?」

「ああ、この俺がレオン・クライトンで間違いない」

「なんと言うことだ」

 レオン王子殿下が名乗ると、おおっーと言う歓声が聞こえてくる。
 歓声が聞こえたことで、周囲をよく見るといつもとは違うことに気がつきました。

 いつもの王都よりも人が多く、武装をしている人までいるようです。
 伯父様が言っていた通りで、革命が起ころうとしているのかもしれません。

「シルヴィア様、お会いできて光栄であります。それにレオン様も......」

 男性は、頭を下げる。
 それを見た周囲の人たちも、頭を下げ始める。

「私で良ければ、王都までご案内します。どうぞこちらに......」

「ありがとうございますわ」
「すまないな」

 私たちは、再び馬車へと乗り込んで案内されるがままに進み始める。
 私たちが乗る馬車が進むごとに、周囲からは歓声があがる。

「シルヴィア様が帰って来たぞぉぉーー」

「おおっーー」

 あちこちで、大きな声が聞こえてくる。
 騒がしくはありますが、悪い気はしませんでした。

 歓声があがる中、王都を進みました——。
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