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本編

27話 森の獣

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 森での生活に慣れ始めた頃。
 私は、自分に出来ることは何かないのかという、あせりを感じていました。

「私だって、何か出来ることがあるはずですわ」

 クライヴたち護衛メンバーは、小屋周辺の警戒けいかいと食料調達。
 サラとセバスチャンは、小屋とその周囲の清掃や雑務。
 レオン王子殿下は、今後について頭を使っています。

 そんな中、私だけがやることがなく暇をしていました。
 何かしなくてはという焦りから、私にでも出来そうなことを考える。

「そうですわ!」

 レオン王子殿下とサラが持って来た毒キノコを思い出しました。
 キノコ類は、毒を持つものも多く危険でも、他のものなら食べられるものもあるかもしれません。

 それに、鬱蒼うっそうとした森といっても、小屋周辺は開かれて日も当たります。
 クライヴたちが警戒していることもあり、比較的安全です。

「レオン様にはダメだと言われてますけど、小屋の近くでしたら大丈夫ですわよね」

 遠くに行かなければ大丈夫。
 そんな気持ちで、小屋周辺で何か食べられるものはないかを探すことにしました。

 私は、そんなことを考えながら森へと入って行った。


 ◇


 小屋から少し歩いたところ。
 この辺りは、直接小屋を見ることも出来るので、安全なはずです。

「この葉っぱは、食べられるかもしれないですわ」

 私は、どこかで見たことのあるような、無いような葉っぱをった。
 鬱蒼とした森なだけあって、あちこちに草木がしげっていることもあり、草に困ることはありません。

「この果実も多分いけますわね......」

 見たことはない果実を手に取り、カゴの中へと入れました。
 一つ、二つ、三つと果実を入れていく。

 私は、食材探しに夢中になってあちこちを歩き回りました。


「これくらいあれば大丈夫ですわね。そろそろ帰りま......」

 私は、そろそろ小屋へと帰ろうと周囲を見て、何かおかしいことに気が付きました。

「小屋が見えませんわ......」

 先程までは、見えていたはずの小屋が見えません。
 どうやら、集めるのに夢中になっているうちに、森の奥へ奥へと進んでしまったみたいです。

「急いで戻らないと......」

 私は、急いで小屋へと戻ることにしました。

「こっちでいいのかしら?」

 でも、いくら歩いても小屋が見えて来ることはありません。
 歩き回っているうちに、どの方向に行けば良いのかが分からなくなってしまいました。

 歩き疲れてどうしようか考えていると、ガサゴソと茂みの中から音が聞こえて来た。

 グルルル、とうな声をあげてけものけものが出て来る。
 するどい爪と牙があり、どう見ても危険な獣なのは間違いありません。

「きゃぁぁぁあ」

 私は、おそろしさのあまり悲鳴をあげました。
 逃げることは出来ず、その場にひざをついて倒れ込んでしまった。

 その間も獣は唸り声をあげながら、少しずつ近付いて来る。
 私は何をすることも出来ずに、ただ黙って震えながら見ていることしか出来ませんでした。

 とうとう獣がすぐそばまで来て、おそいかかって来た。
 私は、目をつぶった。

 ......いくら待っても、襲われることはありません。
 おそるおそる目を開けると。

「大丈夫かシルヴィア、こんな危険な森に入っては危ないだろう」

「レオン様!」

 目を開けると、そこにはレオン王子殿下がいました。
 レオン王子殿下は、私をかばうように獣に背を向けて、両手を包み込むような形をしてくれていました。

 私は、おそろしさと安心感のあまり涙を流す。

「ぐっ......」

「レオン様、どうしたのです?」

「なんでもないシルヴィア」

 レオン王子殿下は、どこか苦しそうな声を出す。

「もしかして、私を庇って怪我を!?」

「シルヴィアを守れたんだ、これくらいはどうってことないよ」

「そんな、私のせいでレオン様が......」

「それよりもシルヴィア、とうとうやばそうだ」

 レオン王子殿下の言葉通り、獣が再び襲いかかろうと距離をつめて来ていた。
 私たちは、二人で抱きしめ合う。

「せめて、シルヴィアだけでも」 

「そんなのはダメですわ! レオン様も......」

 獣が飛びかかって来たのを見て、レオン王子殿下は私を庇うように力を込めて抱きついて来る。

 ザシュッと何か切り裂く音が聞こえる。

「全く、何をやっているんだ二人とも」

「「クライヴ!」」

 声のする方を見ると、クライヴが獣を倒してくれていました。

「森は危険だと言ってたんだがな」

 クライヴは、やれやれと言った表情をしている。

「レオン様、お怪我は大丈夫ですか?」

「セバス、お前も来ていたのか。少し痛むが、これくらい大丈夫だ」

「レオン様、肩を」

「すまない......」

 レオン王子殿下は、セバスチャンに肩を貸してもらいながら立ち上がる。

「さぁ、小屋に帰るぞ」

 私たちは、クライヴに守られながら小屋へと帰ることにしました。

 ちなみに、あの獣は晩御飯のお肉としていただきました。
 恐ろしい見た目とは裏腹に、味はとても美味しかったです。
 私の採って来たものも食卓へと並び、食べることになりました。

 恐ろしい目には合いましたけど、レオン王子殿下に守ってもらえてよかったです——。
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