5 / 7
5
しおりを挟む
「お帰りなさいなさいませ。お嬢様」
王都のタウンハウス。馬車を降りると執事のセバスチャンが迎えてくれる。
そう、我が家の執事の名はセバスチャン。前世の記憶が戻ってから初めて帰った時には思わずニヤリとしてしまったものだ。
「ただいま。セバス」
今日は週末。学園は休みで、私はデビュタントで着るドレスの為に帰ってきた。
「お帰りなさい。ロゼ」
「お姉さま!?」
自室へ続く廊下を歩いていると、昨年結婚した姉と出会した。
「どうなさったの?お姉さま。侯爵家で何かありましたの!?」
姉は学園時代、同級生だった侯爵家の嫡男と恋愛結婚した。
伯爵家の娘が侯爵家の、それも嫡男と釣り合わないのでは。と思う貴族もいるが、我がルーブル伯爵家は建国以来続く一応由緒ある古株貴族だ。王都から馬車で2時間ほどで着く領地は元は山々が連なり、平地があまりなかったそうだが、領主である代々の御先祖様達が先頭に立ち、開拓に開拓を重ね、今では農業、酪農をメインとした国の食料庫と呼ばれるまでとなっている。ちなみに代々領主は常に自領にいる為、国の要職に就いてはいないが、それなりに重用はされているらしい。
「心配しなくても我が侯爵家は円満よ。それより貴女、デビュタントにお祖母様のドレスを着るって本当なの!?」
「ええ。そのつもりですが?」
本来、デビューの際に着るドレスは令嬢にとっては一生に一度のもの、またデビュタントで自分の人生が決まるかもしれないという事もあり、一年程時間をかけて準備する場合もある。特に来年は王族も参加すると予想されるだけに、今から動き始めている高位貴族も多いだろう。
だけど、自分の人生がかかっているのは私も同じ。
来年のデビュタントでのデビューの可能性をを確実に潰す為には、今年デビューしておく必要がある。
けれど、今からドレスを新調するのは時間が足りないため、目をつけたのが、祖母がデビューした時に着ていたドレスだ。
「貴女、一生に一度しかないデビューなのに、本当にいいの?」
「領地のお祖母様には了解は頂きましたし、サイズもそのまま使えます。問題ありませんわ。それに、今ではもう手に入らない天然の魔蚕の絹で作られているプレミアもの。使わない手はありません!」
力強く言い切る私に、他の家族同様、呆れたような顔をする姉。
「ロゼ、どうして今年にしたの?来年なら第2王子殿下も出席されるだろうし、盛大にデビューが出来るのに」
「だからこそですわ。来年のデビュタントで王族や高位貴族とお近付きになりたい貴族は山といますでしょう?うちは短期間にお兄様が公爵家と、お姉様が侯爵家とそれぞれ婚姻を結んでいますし、貴族間のバランスも考えて、ルーブル伯爵家としては遠慮した方がいいのではないかと。それに私自身の交友関係や婚姻についてはお父様からは好きにしていいと言われてますし」
もっともらしい理由付けに姉達の結婚を引き合いにだした事に多少の罪悪感を感じつつ答えると、姉が眉をさげながら近付いてきて私の手を取る。
「ごめんなさい。私がリチャードと結婚したばかりに」
「いいえ!お姉様やお兄様のせいではありません。そもそも、華やかな場は性に合いませんし、ちょうど良かったのです」
ごめんね、お姉様。何かで埋め合わせはします!
心の中で誓いながら、手を繋いだ姉をサロンに誘導する。
うちは一昨年、公爵家の三女のソフィー様とお兄様の婚姻が成立している。おっとりしている兄の何をどう気に入ったのか、学園時代一学年下のソフィー様の熱烈なアタックにより学生時代に婚約が成立、ソフィー様の卒業を待って結婚した。
そしてお姉様は侯爵家長男のリチャード様よりこれまた熱愛な求婚を受けて学生時代に婚約、昨年2人の卒業と共に結婚した。
領地を平和に治める事に尽力する両親としては、特に子供達の結婚に何も言い含めてはいないのに、高位貴族と婚姻を結んだ兄と姉に驚いたものだった。
王都のタウンハウス。馬車を降りると執事のセバスチャンが迎えてくれる。
そう、我が家の執事の名はセバスチャン。前世の記憶が戻ってから初めて帰った時には思わずニヤリとしてしまったものだ。
「ただいま。セバス」
今日は週末。学園は休みで、私はデビュタントで着るドレスの為に帰ってきた。
「お帰りなさい。ロゼ」
「お姉さま!?」
自室へ続く廊下を歩いていると、昨年結婚した姉と出会した。
「どうなさったの?お姉さま。侯爵家で何かありましたの!?」
姉は学園時代、同級生だった侯爵家の嫡男と恋愛結婚した。
伯爵家の娘が侯爵家の、それも嫡男と釣り合わないのでは。と思う貴族もいるが、我がルーブル伯爵家は建国以来続く一応由緒ある古株貴族だ。王都から馬車で2時間ほどで着く領地は元は山々が連なり、平地があまりなかったそうだが、領主である代々の御先祖様達が先頭に立ち、開拓に開拓を重ね、今では農業、酪農をメインとした国の食料庫と呼ばれるまでとなっている。ちなみに代々領主は常に自領にいる為、国の要職に就いてはいないが、それなりに重用はされているらしい。
「心配しなくても我が侯爵家は円満よ。それより貴女、デビュタントにお祖母様のドレスを着るって本当なの!?」
「ええ。そのつもりですが?」
本来、デビューの際に着るドレスは令嬢にとっては一生に一度のもの、またデビュタントで自分の人生が決まるかもしれないという事もあり、一年程時間をかけて準備する場合もある。特に来年は王族も参加すると予想されるだけに、今から動き始めている高位貴族も多いだろう。
だけど、自分の人生がかかっているのは私も同じ。
来年のデビュタントでのデビューの可能性をを確実に潰す為には、今年デビューしておく必要がある。
けれど、今からドレスを新調するのは時間が足りないため、目をつけたのが、祖母がデビューした時に着ていたドレスだ。
「貴女、一生に一度しかないデビューなのに、本当にいいの?」
「領地のお祖母様には了解は頂きましたし、サイズもそのまま使えます。問題ありませんわ。それに、今ではもう手に入らない天然の魔蚕の絹で作られているプレミアもの。使わない手はありません!」
力強く言い切る私に、他の家族同様、呆れたような顔をする姉。
「ロゼ、どうして今年にしたの?来年なら第2王子殿下も出席されるだろうし、盛大にデビューが出来るのに」
「だからこそですわ。来年のデビュタントで王族や高位貴族とお近付きになりたい貴族は山といますでしょう?うちは短期間にお兄様が公爵家と、お姉様が侯爵家とそれぞれ婚姻を結んでいますし、貴族間のバランスも考えて、ルーブル伯爵家としては遠慮した方がいいのではないかと。それに私自身の交友関係や婚姻についてはお父様からは好きにしていいと言われてますし」
もっともらしい理由付けに姉達の結婚を引き合いにだした事に多少の罪悪感を感じつつ答えると、姉が眉をさげながら近付いてきて私の手を取る。
「ごめんなさい。私がリチャードと結婚したばかりに」
「いいえ!お姉様やお兄様のせいではありません。そもそも、華やかな場は性に合いませんし、ちょうど良かったのです」
ごめんね、お姉様。何かで埋め合わせはします!
心の中で誓いながら、手を繋いだ姉をサロンに誘導する。
うちは一昨年、公爵家の三女のソフィー様とお兄様の婚姻が成立している。おっとりしている兄の何をどう気に入ったのか、学園時代一学年下のソフィー様の熱烈なアタックにより学生時代に婚約が成立、ソフィー様の卒業を待って結婚した。
そしてお姉様は侯爵家長男のリチャード様よりこれまた熱愛な求婚を受けて学生時代に婚約、昨年2人の卒業と共に結婚した。
領地を平和に治める事に尽力する両親としては、特に子供達の結婚に何も言い含めてはいないのに、高位貴族と婚姻を結んだ兄と姉に驚いたものだった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】
ゆうの
ファンタジー
公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。
――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。
これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。
※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。
悪役令嬢は所詮悪役令嬢
白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」
魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。
リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。
愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。
悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる