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第二部:第二十八章 行いと見返り
(四)得たもの②
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全てを話し終えて、エラゼルは役目を果たしたというように、大きく息を吐き、背もたれに寄りかかった。
椅子に座ってからずっと、彼女はラーソルバールの手を握り続けている。それは不安からか、励ましか。
二人の間に有るものは、父親という存在には見えにくいもの。静かに見守るのが一番だと知っている。いや、放任に過ぎると娘に言われた事があったな、と思い出して気付かれぬよう苦笑する。
「娘に危害が及ぶ可能性を減らすことによる、貴女への影響を考えましたか?」
もう一人の娘であるが如く、その身を案じる。
ラーソルバールの身の安全を優先したばかりに、エラゼルがそれを肩代わりする事態になっては意味がない。
「特に不都合な点は無いと思います。有るとすれば、ファルデリアナを慕う者たちが何らかの行動を起こす事ですが、ファルデリアナ自身がそれを許さないでしょう。私自身、公爵家の娘としては常に危険が有るので、それとは切り離した話ですが」
「そこまで考えておられるのでしたら、問題ありません。それと……エラゼルさん、ご自宅への連絡や、明日の学校の事はどうされます?」
エラゼルは首を捻りつつ、迷うような表情を見せた。
「ある程度は放任なので、自宅への連絡は不要です。ですが本来であれば、ラーソルバールの治癒完了を修学院と、騎士学校、そして報せを待っている友に伝えに帰らねばならないのですが……。ここで眠ったままの大事な友を置いて帰るという選択をすることが、私にはできませんでした。出来れば、彼女が目覚めるまで傍に居たいと……」
帰れと言われているように感じたのか、エラゼルはうつむき加減に顔を背けると、ラーソルバールの顔を見つめる。
その様子を見ながら、クレストはゆっくりと立ち上がり、杖の音を響かせ歩き出す。
「では、私も汗を流してきます。それと、エラゼルさん用のベッドの手配をお願いしてきましょう。私はソファで寝ても良いのですが、若い娘さんと一緒の部屋で寝るのはどうかと思いますので、別室を用意してもらいます」
「あ……あの私は……」
エラゼルの言葉を待たずに、クレストは部屋を出て行ってしまった。
「優しい父上だな、ラーソルバール……」
友に語りかけたのか、それともひとり言か。エラゼルは小さく笑みを浮かべた。
翌朝、エラゼルはラーソルバールの寝台の真横に置いてもらった小さなベッドの上で目覚めた。
手を握ったまま横になっていたが、いつの間にか寝てしまっていたのだろう。
朝を迎えても、まだ目を開けない友に不安を覚える。もしこのまま目が覚めることが無かったら。ぞくりと背筋が寒くなる。
宿敵、追いかけてきた背中、友、真っ直ぐな姿への憧れ。こんな所で、こんなつまらない事件で失ってたまるものか。エラゼルは歯を食いしばると、涙で視界がぼやけた。
「いつまで寝ているのだ……」
愁いを帯びた手で、優しく友の頬を撫でる。
「ん……」
ラーソルバールの口元が微かに動き、小さな声を漏らした。
「ラーソルバール!」
エラゼルが呼びかける。その声に反応したように、ラーソルバールはゆっくりと瞼を開く。
「あぁ……エラゼル……やっと見つけた……」
ほっとしたような声を出し、ラーソルバールは微笑んだ。
「んっ……」
笑顔の花を咲かせると、エラゼルは袖で涙を拭い、勢い良くラーソルバールに抱きついた。
「心配かけおって! 起きるのが遅すぎる!」
「痛い、痛いよ……エラゼル」
「心配かけた罰だ、もう少し我慢しておれ!」
安心したのか、一度は拭ったはずの涙がとめどなく溢れ、エラゼルは声を上げて泣き出した。突然の事に少し驚いたラーソルバールだったが、友の身体に腕を回し優しく抱きしめ、小さく「ごめんね、迷子になってたの」と言って微笑んだ。
エラゼルはそのまま堰を切ったように泣き続け、泣き声に気付いたクレストが部屋の扉を叩くまで、それは止まる事はなかった。
椅子に座ってからずっと、彼女はラーソルバールの手を握り続けている。それは不安からか、励ましか。
二人の間に有るものは、父親という存在には見えにくいもの。静かに見守るのが一番だと知っている。いや、放任に過ぎると娘に言われた事があったな、と思い出して気付かれぬよう苦笑する。
「娘に危害が及ぶ可能性を減らすことによる、貴女への影響を考えましたか?」
もう一人の娘であるが如く、その身を案じる。
ラーソルバールの身の安全を優先したばかりに、エラゼルがそれを肩代わりする事態になっては意味がない。
「特に不都合な点は無いと思います。有るとすれば、ファルデリアナを慕う者たちが何らかの行動を起こす事ですが、ファルデリアナ自身がそれを許さないでしょう。私自身、公爵家の娘としては常に危険が有るので、それとは切り離した話ですが」
「そこまで考えておられるのでしたら、問題ありません。それと……エラゼルさん、ご自宅への連絡や、明日の学校の事はどうされます?」
エラゼルは首を捻りつつ、迷うような表情を見せた。
「ある程度は放任なので、自宅への連絡は不要です。ですが本来であれば、ラーソルバールの治癒完了を修学院と、騎士学校、そして報せを待っている友に伝えに帰らねばならないのですが……。ここで眠ったままの大事な友を置いて帰るという選択をすることが、私にはできませんでした。出来れば、彼女が目覚めるまで傍に居たいと……」
帰れと言われているように感じたのか、エラゼルはうつむき加減に顔を背けると、ラーソルバールの顔を見つめる。
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「では、私も汗を流してきます。それと、エラゼルさん用のベッドの手配をお願いしてきましょう。私はソファで寝ても良いのですが、若い娘さんと一緒の部屋で寝るのはどうかと思いますので、別室を用意してもらいます」
「あ……あの私は……」
エラゼルの言葉を待たずに、クレストは部屋を出て行ってしまった。
「優しい父上だな、ラーソルバール……」
友に語りかけたのか、それともひとり言か。エラゼルは小さく笑みを浮かべた。
翌朝、エラゼルはラーソルバールの寝台の真横に置いてもらった小さなベッドの上で目覚めた。
手を握ったまま横になっていたが、いつの間にか寝てしまっていたのだろう。
朝を迎えても、まだ目を開けない友に不安を覚える。もしこのまま目が覚めることが無かったら。ぞくりと背筋が寒くなる。
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「いつまで寝ているのだ……」
愁いを帯びた手で、優しく友の頬を撫でる。
「ん……」
ラーソルバールの口元が微かに動き、小さな声を漏らした。
「ラーソルバール!」
エラゼルが呼びかける。その声に反応したように、ラーソルバールはゆっくりと瞼を開く。
「あぁ……エラゼル……やっと見つけた……」
ほっとしたような声を出し、ラーソルバールは微笑んだ。
「んっ……」
笑顔の花を咲かせると、エラゼルは袖で涙を拭い、勢い良くラーソルバールに抱きついた。
「心配かけおって! 起きるのが遅すぎる!」
「痛い、痛いよ……エラゼル」
「心配かけた罰だ、もう少し我慢しておれ!」
安心したのか、一度は拭ったはずの涙がとめどなく溢れ、エラゼルは声を上げて泣き出した。突然の事に少し驚いたラーソルバールだったが、友の身体に腕を回し優しく抱きしめ、小さく「ごめんね、迷子になってたの」と言って微笑んだ。
エラゼルはそのまま堰を切ったように泣き続け、泣き声に気付いたクレストが部屋の扉を叩くまで、それは止まる事はなかった。
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