320 / 439
第二部:第二十七章 違う場所
(二)エイルディア修学院②
しおりを挟む
教官がやってきて、一通りの説明を受けることになったが、基本的には配布された資料の要点を話しただけで終わった。
だが資料に記載が無く、気になっていた点がひとつある。
「制服はどうしたらいいんですか?」
「ああ、このまま騎士学校のもので通って貰う。誇りを持って向こうの生徒と問題を起こさぬよう仲良くやってくれ。あとは、質問はないか?」
以降は質問もあげる者はおらず、この日は午前中で終了となった。
「明日からは、朝起こしに行った方がいい?」
朝が弱いラーソルバールを気にするように、シェラが尋ねる。
「大丈夫、いつまでも起こして貰うわけにはいかないし」
休暇期間を含め、この一ヶ月で生活リズムが狂ったという自覚は有る。休暇中に戻そうと努力をしたのだが、完璧に戻ったとは言い難い。とはいえ甘えてばかりも居られない。
大丈夫、朝の鐘で起きればいいんだ。そう自分に言い聞かせた。
翌朝、ラーソルバールは予定通り鐘の音で目覚めた。
いつもなら、ここからもう少し寝てしまうところだが、通学に時間がかかることが分かっている以上、それも出来ない。
さっさと着替えを済ませると、食堂に駆け込み朝食をとる。急いで歯を磨き顔を洗ってから、普段はしない化粧を施す。修学院は化粧を含め、身だしなみを整える事も必要なのだと、教官が言っていた。
薄化粧程度にとどめ、軽く紅をさす。
「どうよ!」
エレノールやシェラが施してくれるようにはいかないが、見よう見まねでそこそこの出来にはなった、と鏡の前で自画自賛する。
仕上がりに満足すると、筆記具だけを鞄に入れ、部屋を出る。
「遅いぞー!」
寮のロビーには既に友人達が待っており、最後となった到着にシェラが怒ったふりをしてみせた。
「えー、まだ大丈夫でしょ?」
「初日なのだから、十分に余裕を持って行かねばならぬだろう?」
「真面目っ子どもめ」
苦笑いしながらも、言っている事を否定するつもりはない。
王城の北側に位置する騎士学校から、西側に有る修学院への移動となる。道中は逆行するように歩く、騎士学校に向かう修学院の生徒達とすれ違う。
二校のみの交流であり、他の学校は関与しないと聞いている。
「エラゼル様だわ!」
すれ違う学生達から、時折こんな声が漏れる。改めて、デラネトゥス家の令嬢の知名度を思い知らされる。更に、すれ違い様に振り返る男子生徒も多い。明日からは、花束を渡しに来る者も出てくるのではないかと思わせる程だった。
エイルディア修学院に到着すると、校門近くに居た数人がエラゼルに気付いたようで、ゆっくりと寄って来た。
「エラゼル、お久しぶりですね」
先頭にいた一人が声をかけてきた。
「あぁ、ファルデリアナ。何年ぶりですか」
「そうねぇ……、三年? でしょうか」
三年ぶりに会ったにも関わらず、エラゼルが相手を覚えている。相手もエラゼルを知っていて、互いに呼び捨てで……。
うん、間違いなくどこかの公爵家のご令嬢だ。ラーソルバールは即座に理解すると、邪魔にならぬようにするのが一番だと判断した。
「先に行ってます」
相手に失礼にならぬよう頭を下げ、シェラやフォルテシア達とともに、逃げるように校舎に向かい、人ごみに紛れた。
「あ、こら!」
引き留めそこなったエラゼルは苦笑いを浮かべる。
「あら、お邪魔だったかしら?」
「いえ、気を使って頂かなくても構いません」
「お仲間に冷たいのですね……」
ファルデリアナは冷たく笑う。彼女はラーソルバール達を、ただの取り巻きだと思っているに違いない。エラゼルは直感した。
「冷たい……? 彼女達は友人ですから、互いに気を使う必要が無いだけです」
「うふふ……貴女から友人という言葉が出るとは、思っておりませんでしたわ」
冷たい視線がエラゼルを刺す。ファルデリアナの後ろに居る娘達は、どう反応して良いやら戸惑うかのような表情を浮かべている。
「何か問題でもありますでしょうか?」
苛立ちを隠さず吐き捨てるように言いながら、ファルデリアナの目を見る。
「いいえ、遅くなるといけませんから、私達も参りましょうか」
赤みを帯びた茶髪をかき上げ、エラゼルから視線を外すと、ファルデリアナは数名を引き連れて校舎へと歩いて行った。
だが資料に記載が無く、気になっていた点がひとつある。
「制服はどうしたらいいんですか?」
「ああ、このまま騎士学校のもので通って貰う。誇りを持って向こうの生徒と問題を起こさぬよう仲良くやってくれ。あとは、質問はないか?」
以降は質問もあげる者はおらず、この日は午前中で終了となった。
「明日からは、朝起こしに行った方がいい?」
朝が弱いラーソルバールを気にするように、シェラが尋ねる。
「大丈夫、いつまでも起こして貰うわけにはいかないし」
休暇期間を含め、この一ヶ月で生活リズムが狂ったという自覚は有る。休暇中に戻そうと努力をしたのだが、完璧に戻ったとは言い難い。とはいえ甘えてばかりも居られない。
大丈夫、朝の鐘で起きればいいんだ。そう自分に言い聞かせた。
翌朝、ラーソルバールは予定通り鐘の音で目覚めた。
いつもなら、ここからもう少し寝てしまうところだが、通学に時間がかかることが分かっている以上、それも出来ない。
さっさと着替えを済ませると、食堂に駆け込み朝食をとる。急いで歯を磨き顔を洗ってから、普段はしない化粧を施す。修学院は化粧を含め、身だしなみを整える事も必要なのだと、教官が言っていた。
薄化粧程度にとどめ、軽く紅をさす。
「どうよ!」
エレノールやシェラが施してくれるようにはいかないが、見よう見まねでそこそこの出来にはなった、と鏡の前で自画自賛する。
仕上がりに満足すると、筆記具だけを鞄に入れ、部屋を出る。
「遅いぞー!」
寮のロビーには既に友人達が待っており、最後となった到着にシェラが怒ったふりをしてみせた。
「えー、まだ大丈夫でしょ?」
「初日なのだから、十分に余裕を持って行かねばならぬだろう?」
「真面目っ子どもめ」
苦笑いしながらも、言っている事を否定するつもりはない。
王城の北側に位置する騎士学校から、西側に有る修学院への移動となる。道中は逆行するように歩く、騎士学校に向かう修学院の生徒達とすれ違う。
二校のみの交流であり、他の学校は関与しないと聞いている。
「エラゼル様だわ!」
すれ違う学生達から、時折こんな声が漏れる。改めて、デラネトゥス家の令嬢の知名度を思い知らされる。更に、すれ違い様に振り返る男子生徒も多い。明日からは、花束を渡しに来る者も出てくるのではないかと思わせる程だった。
エイルディア修学院に到着すると、校門近くに居た数人がエラゼルに気付いたようで、ゆっくりと寄って来た。
「エラゼル、お久しぶりですね」
先頭にいた一人が声をかけてきた。
「あぁ、ファルデリアナ。何年ぶりですか」
「そうねぇ……、三年? でしょうか」
三年ぶりに会ったにも関わらず、エラゼルが相手を覚えている。相手もエラゼルを知っていて、互いに呼び捨てで……。
うん、間違いなくどこかの公爵家のご令嬢だ。ラーソルバールは即座に理解すると、邪魔にならぬようにするのが一番だと判断した。
「先に行ってます」
相手に失礼にならぬよう頭を下げ、シェラやフォルテシア達とともに、逃げるように校舎に向かい、人ごみに紛れた。
「あ、こら!」
引き留めそこなったエラゼルは苦笑いを浮かべる。
「あら、お邪魔だったかしら?」
「いえ、気を使って頂かなくても構いません」
「お仲間に冷たいのですね……」
ファルデリアナは冷たく笑う。彼女はラーソルバール達を、ただの取り巻きだと思っているに違いない。エラゼルは直感した。
「冷たい……? 彼女達は友人ですから、互いに気を使う必要が無いだけです」
「うふふ……貴女から友人という言葉が出るとは、思っておりませんでしたわ」
冷たい視線がエラゼルを刺す。ファルデリアナの後ろに居る娘達は、どう反応して良いやら戸惑うかのような表情を浮かべている。
「何か問題でもありますでしょうか?」
苛立ちを隠さず吐き捨てるように言いながら、ファルデリアナの目を見る。
「いいえ、遅くなるといけませんから、私達も参りましょうか」
赤みを帯びた茶髪をかき上げ、エラゼルから視線を外すと、ファルデリアナは数名を引き連れて校舎へと歩いて行った。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
婚約破棄は結構ですけど
久保 倫
ファンタジー
「ロザリンド・メイア、お前との婚約を破棄する!」
私、ロザリンド・メイアは、クルス王太子に婚約破棄を宣告されました。
「商人の娘など、元々余の妃に相応しくないのだ!」
あーそうですね。
私だって王太子と婚約なんてしたくありませんわ。
本当は、お父様のように商売がしたいのです。
ですから婚約破棄は望むところですが、何故に婚約破棄できるのでしょう。
王太子から婚約破棄すれば、銀貨3万枚の支払いが発生します。
そんなお金、無いはずなのに。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました
山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。
でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。
そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。
長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。
脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、
「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」
「なりすましヒロインの娘」
と同じ世界です。
このお話は小説家になろうにも投稿しています
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる