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第二部:第二十六章 価値
(二)その価値②
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「さて、闇の門も実際に見せてもらったし、持ち帰ってきた物も含め、報告と成果はこれ以上無いものだった。我が国を混乱に陥れた忌々しい男も、最後を遂げたというのであれば、多少溜飲を下げる事もできる。だが、それが帝国の人間ではなく、ジェレティアンの息子だったというのは、背筋が寒くなる思いだ」
軍務大臣の言葉に、魔法院の人々も無言で頷く。彼らの中には、かつて宮廷魔術師であったジェレティアンと面識が有る者も居るのだろう。思うところがあるような表情を浮かべつつも、彼らは沈黙を保った。
「それと、先程クローベル君から報告を受けたデンティーク子爵の件だが、ジャハネート団長の越権行為であると批判も上がる可能性もあるが、内容を聞くに火急であったし、対応には一切の問題も無かったと、私の方からは報告しておくので、安心したまえ」
その言葉を聞いてラーソルバールは、ほっと胸を撫で下ろした。自分達のせいで、ジャハネートが罰せられるような事があっては、申し訳が無いという思いが有ったからである。
特にジャハネートに相談を持ちかけたフォルテシアは、誰よりも責任を感じており、軍務省に着いた時からずっと顔を強張らせていた。だが不安が解消された事で、大きく息を吐いた後、誰にでも分かる程の安堵の表情を浮かべた。
「君たちがその事件に巻き込まれていた訳だから証拠も十分、デンティーク子爵に一切の情状酌量の余地は無い。後ほど、ブルテイラから調査報告も上がってくるだろうが、まずは陛下にも事件の一報を入れておかねばならんな。特にエラゼル嬢が被害に遭ったと知ったら、嬢を可愛がっておられる陛下は激怒される事であろうな」
その言葉でエラゼルが苦笑いを浮かべた。
「はぁ……、陛下にはご心労をおかけする事になりそうなので、私の事は伏せていただけると有難いのですが」
本気とも冗談ともつかぬ言葉を投げ掛ける。
「これを軽い処分で済ませるようだと、他に示しがつかん。権力に任せた行きすぎた行為は、抑制せねばならんからな。エラゼル嬢や、ミルエルシ準男爵の名を出して、厳罰に処して貰うのが望ましい。恐らく君達は事件の一部分に過ぎないであろうしな」
ラーソルバールは黙って頭を下げる。異論を挟む必要が無いと判断したからだ。
「最後に、今回の働きに報いる件だが、それは陛下に報告した後となる旨、理解して欲しい。だが先ずは大臣として礼を言う。お疲れ様、そして有難う。危険な仕事を押し付けてしまって、誠に申し訳なかった」
軍務大臣としてだけでなく、ナスターク侯爵個人としても思うところが有ったのだろう。テーブルに額が付きそうな程に、深々と頭を下げた。それは目下の者に対しての行為としては異例のもの。
その様を見て、軍務省の面々と魔法院の人々も大臣に続いた。
大臣は自分達がどこまでの成果を持ち帰ると予想していたのだろうか。或いは危険だと判断した時点で、大人しく帰ってくると思っていたのだろうか。いずれそれを聞く機会が訪れるかもしれないが、今は何も聞くべきでは無いだろう。
ラーソルバールは様々な思いを抱えつつも、静かに頭を下げた。そして仲間達もそれに倣い頭を下げる。
まず何よりも、大事な仲間を誰一人欠くこと無く、無事に帰って来られた事を喜びたい。頭を上げ、仲間と顔を見合わせて喜びを分かち合うと、自然とラーソルバールを中心に笑顔の輪ができた。
軍務大臣の言葉に、魔法院の人々も無言で頷く。彼らの中には、かつて宮廷魔術師であったジェレティアンと面識が有る者も居るのだろう。思うところがあるような表情を浮かべつつも、彼らは沈黙を保った。
「それと、先程クローベル君から報告を受けたデンティーク子爵の件だが、ジャハネート団長の越権行為であると批判も上がる可能性もあるが、内容を聞くに火急であったし、対応には一切の問題も無かったと、私の方からは報告しておくので、安心したまえ」
その言葉を聞いてラーソルバールは、ほっと胸を撫で下ろした。自分達のせいで、ジャハネートが罰せられるような事があっては、申し訳が無いという思いが有ったからである。
特にジャハネートに相談を持ちかけたフォルテシアは、誰よりも責任を感じており、軍務省に着いた時からずっと顔を強張らせていた。だが不安が解消された事で、大きく息を吐いた後、誰にでも分かる程の安堵の表情を浮かべた。
「君たちがその事件に巻き込まれていた訳だから証拠も十分、デンティーク子爵に一切の情状酌量の余地は無い。後ほど、ブルテイラから調査報告も上がってくるだろうが、まずは陛下にも事件の一報を入れておかねばならんな。特にエラゼル嬢が被害に遭ったと知ったら、嬢を可愛がっておられる陛下は激怒される事であろうな」
その言葉でエラゼルが苦笑いを浮かべた。
「はぁ……、陛下にはご心労をおかけする事になりそうなので、私の事は伏せていただけると有難いのですが」
本気とも冗談ともつかぬ言葉を投げ掛ける。
「これを軽い処分で済ませるようだと、他に示しがつかん。権力に任せた行きすぎた行為は、抑制せねばならんからな。エラゼル嬢や、ミルエルシ準男爵の名を出して、厳罰に処して貰うのが望ましい。恐らく君達は事件の一部分に過ぎないであろうしな」
ラーソルバールは黙って頭を下げる。異論を挟む必要が無いと判断したからだ。
「最後に、今回の働きに報いる件だが、それは陛下に報告した後となる旨、理解して欲しい。だが先ずは大臣として礼を言う。お疲れ様、そして有難う。危険な仕事を押し付けてしまって、誠に申し訳なかった」
軍務大臣としてだけでなく、ナスターク侯爵個人としても思うところが有ったのだろう。テーブルに額が付きそうな程に、深々と頭を下げた。それは目下の者に対しての行為としては異例のもの。
その様を見て、軍務省の面々と魔法院の人々も大臣に続いた。
大臣は自分達がどこまでの成果を持ち帰ると予想していたのだろうか。或いは危険だと判断した時点で、大人しく帰ってくると思っていたのだろうか。いずれそれを聞く機会が訪れるかもしれないが、今は何も聞くべきでは無いだろう。
ラーソルバールは様々な思いを抱えつつも、静かに頭を下げた。そして仲間達もそれに倣い頭を下げる。
まず何よりも、大事な仲間を誰一人欠くこと無く、無事に帰って来られた事を喜びたい。頭を上げ、仲間と顔を見合わせて喜びを分かち合うと、自然とラーソルバールを中心に笑顔の輪ができた。
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