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第二部:第二十五章 任務の終わりと成果

(四)小さな戦い①

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(四)

「何だって!」
 ジャハネートの荒ぶる声が指揮官室に響く。
 フォルテシアとその父ダジルは雨中に馬を走らせ、二刻もかからずに宿舎に戻ってきた。そして、全身ずぶ濡れのまま指揮官室に駆け込むと、街で聞いた話をそのままジャハネートに報告したのだった。
「あのクソオヤジ……」
「……デンティーク子爵を御存知なのですか?」
「知ってるよ。何度も社交界で顔を合わせてる。政務は問題ないし、陛下にも従順。だが、無類の女好きでね、若い女に見境が無いクズだ。アタシも何度、あの下衆い男を叩き切ってやろうと思った事か……」
 そう言いつつ、机を殴り付ける。
「すると、連れていかれた娘は手篭にされるという噂は……」
「本当だろうね。だからわざわざ『シルネラの冒険者』という、いつどこで死んでも居なくなったとしても、おかしくないような連中を狙ったんだろうさ」
 フォルテシアはぐっと拳を握り締め、怒りに震える。仲間を、大事な友を穢されてたまるものか、と。
「ただ、奴の領地の中、恐らく屋敷だ。下手に手出しは出来ない。騎士団を伴って行くことも出来るが、踏み込む理由が無い。憶測だけでは動けないね……」
「では……」
 フォルテシアは泣きそうになりながら、ジャハネートの顔を見る。
「行かないとは言ってない 。アタシの大事な未来の部下達に手を出そうってんだ、黙って見てる訳無いだろ。大義名分さえあれば、すぐにでもぶっ殺してやりたいところだよ。……だが、アンタの気持ちは良く分かる、ここで手をこまねいている場合じゃないね。作戦はあとで練るとして、動く事が先決だ。そんじゃ、まずクローベル中隊長、配下百名を連れてアタシに同行しな」
「了解致しました!」
 ジャハネートの言葉に、フォルテシアは少しだけ安堵し、涙を流す。
「じゃあ、フォルテシア。もう一回街へ行こうか」
 父は娘の肩に手を乗せ、安心させるように笑ったあと、部屋から飛び出していった。
「ジャハネート様……」
「そう情けない顔するんじゃないよ。あの娘達がいつまでも大人しくしてる訳無いだろ?」
「……はい!」
 フォルテシアは涙を拭うと、ジャハネートに微笑んで見せた。
「あとは、踏み込む口実だが……」
 腕を組み、ジャハネートが思案する様子を見せた時、フォルテシアがぽんと手を叩いた。
「ジャハネート様、こういうのはいかがでしょうか……」

 その頃、ラーソルバール達は手枷をされ、それぞれ別の部屋に監禁されていた。途中から目隠しをされていたので、ここが何処なのかは分からないが、状況を見れば、明らかに通常の取り調べではない事が分かる。
 エラゼルが馬車内で「子爵は無類の女好きだから近寄るなと、姉妹全員が父に厳命されいた」と教えてくれたが、自分達はまさに子爵の欲求を満たすための犯罪行為に巻き込まれた、と見て良いだろう。
 多少の事なら、騎士学校では護身術も学んでいるので、自分やエラゼル、シェラは何とか出来るかもしれないが、ディナレスはどうだろうか。そして、引き離されたガイザやモルアールは無事だろうか。
 不安を抱えつつ、狭い室内を見回して使えそうなものを探すが、有るのは小さなベッドと、ランタン、他には何もない。だが金属で出来ているランタンは、上手く使えば役に立つかもしれない。
 ここでやはり思うのが、エラゼルのように攻防共に役立つような魔法が使えるようになっていれば、ということ。
「はぁ……、幼少期のツケは重いなぁ」
 ため息をついたところで、ごつごつと壁に何かが当たるような小さな音がする事に気付いた。音のする側の部屋に入れられたのはエラゼル。とすれば。
(打音暗号?)
 打音暗号とは騎士学校で学んでいる意思疎通用のもので、こういう拘束された場合や、敵に気付かれずに行動する際に使用する。まだ学習過程なので、複雑なものは出来ないのだが、それでもこうした緊急事態には役に立つ。
『敵・倒す・武器・奪う・扉・魔法・破壊』
 どのような展開になるか読めないがものの、エラゼルのやろうとしている事は理解できた、が……。
『相手・動き・見る・魔法・任せる』
 そう返しながら、我ながら情け無い、とラーソルバールは苦笑した。
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