235 / 439
第二部:第二十章 真実と虚構の存在
(二)偽りの名②
しおりを挟む
ホグアードに無理矢理ギルドの庭に連れてこられた一同。
庭という割には相当広い。色々と機材も揃っているようで、ラーソルバールはこれから何をさせられるのかと、憂鬱になる。
ここに来る途中、受付カウンター近くで前日の男達と目が合ったが、その直後に顔を背けられた。先程のエラゼルの騒動でも聞いたのだろうか。騒動を起こそうという気も無さそうだった。
「さて今、腕のいい連中をミディートに呼びに行かせている。ちょいとその相手をして貰いたい。勝てとは言わないが、それなりの格好をつけて貰いたい。仮にも『騎士団長に劣らぬ』などと書かれたのだからな」
その一文を書いた人物を恨むぞ。ホグアードに愛想笑いを向けつつ、ラーソルバールは心の中で怒りを燃やした。
ラーソルバールの心中など考えもしないホグアードは、腰に手を当て不敵に笑った。
「俺も昔は冒険者だったが、もう引退して長い。若い連中に劣るから、相手は勤まらんだろう。腹も出てきたしな。それに、議員の立場でそんな事をしたら周囲に怒られる」
「え、ホグアードさんはこの国の議員だったんですか?」
「知らなかったのか?」
正直に言って何も聞いていない。連絡漏れか、意図して隠したか。軍務省め、と更に怒りは募る。
「何も聞いておりません」
不機嫌を取り繕いもせずに、ラーソルバールは答えた。その様子に、周囲も苦笑いする。
「ああ、そうそう。ここからは認識票に記載された名前で通してもらう。何が有るか分からんからな」
ホグアードの顔が厳しいものに変わる。帝国に情報が漏れる可能性もある、という事だろう。
「お待たせしました! エドウィールさん達をお連れしました」
少し待ったところで、ミディートが数人の男達を連れて戻ってきた。いずれも歴戦の戦士と言った風格の有る者達で、腕試しには過ぎた人選だろうと思わせる。
「ウチの登録者の中でも、実績、能力ともに上位にいる者達だ。このギルドを国に例えるなら、将軍クラスの連中だ」
「わざわざ、どうもすみません……」
半分、嫌味を込めつつ頭を下げる。そんな上位の連中を連れてくるというのは、少々嫌がらせが過ぎるというものだ。中級相当のプレートらしいので、中級の相手を連れてくれば良いのではないか。
ラーソルバールだけではなく、同行する仲間達もその苛立ちが顔に出ていた。
「なんだ、ホグアードさんの依頼で来てみれば、こんな子供相手ですか? それも半分以上が女ときた」
「綺麗な嬢ちゃんばかりで戦えるのか?」
「相手はそこの黒髪の坊主か?」
男達は口々に勝手な事を言う。
「私がやろうか?」
エラゼルが進み出る。
「別に俺がやってもいいぜ」
黒髪の坊主と言われたガイザが不機嫌そうに言う。二人が共に怒りを抑えているのが分かる。
「そちらも複数いらっしゃるようですので、私ルシェと、エリゼスト、グラデアの三人がお相手します」
本来売られた喧嘩を買う性質ではないが、ここで面倒事を避けても前へ進めそうにないので止むを得ないと判断した。加えて、ホグアードの不敵な笑いが気に入らないので、一泡吹かせたかったということもある。
「武器は模擬専用でやるが、そこにあるどの武器を使っても構わん」
ホグアードの指差す先には一通りの武器が揃えられていた。剣はもとより三叉槍《トライデント》から鉄鞭、星球式鎚矛《モーニングスター》の模擬武器まで揃えられており、ラーソルバール達は驚いた。
「我々は皆、長剣で構いません」と答えたのは、片刃の剣が無かったからでもある。
剣を手にした時、馬鹿にされた分、きっちり返すという気持ちが三人の顔には滲み出ていた。
庭という割には相当広い。色々と機材も揃っているようで、ラーソルバールはこれから何をさせられるのかと、憂鬱になる。
ここに来る途中、受付カウンター近くで前日の男達と目が合ったが、その直後に顔を背けられた。先程のエラゼルの騒動でも聞いたのだろうか。騒動を起こそうという気も無さそうだった。
「さて今、腕のいい連中をミディートに呼びに行かせている。ちょいとその相手をして貰いたい。勝てとは言わないが、それなりの格好をつけて貰いたい。仮にも『騎士団長に劣らぬ』などと書かれたのだからな」
その一文を書いた人物を恨むぞ。ホグアードに愛想笑いを向けつつ、ラーソルバールは心の中で怒りを燃やした。
ラーソルバールの心中など考えもしないホグアードは、腰に手を当て不敵に笑った。
「俺も昔は冒険者だったが、もう引退して長い。若い連中に劣るから、相手は勤まらんだろう。腹も出てきたしな。それに、議員の立場でそんな事をしたら周囲に怒られる」
「え、ホグアードさんはこの国の議員だったんですか?」
「知らなかったのか?」
正直に言って何も聞いていない。連絡漏れか、意図して隠したか。軍務省め、と更に怒りは募る。
「何も聞いておりません」
不機嫌を取り繕いもせずに、ラーソルバールは答えた。その様子に、周囲も苦笑いする。
「ああ、そうそう。ここからは認識票に記載された名前で通してもらう。何が有るか分からんからな」
ホグアードの顔が厳しいものに変わる。帝国に情報が漏れる可能性もある、という事だろう。
「お待たせしました! エドウィールさん達をお連れしました」
少し待ったところで、ミディートが数人の男達を連れて戻ってきた。いずれも歴戦の戦士と言った風格の有る者達で、腕試しには過ぎた人選だろうと思わせる。
「ウチの登録者の中でも、実績、能力ともに上位にいる者達だ。このギルドを国に例えるなら、将軍クラスの連中だ」
「わざわざ、どうもすみません……」
半分、嫌味を込めつつ頭を下げる。そんな上位の連中を連れてくるというのは、少々嫌がらせが過ぎるというものだ。中級相当のプレートらしいので、中級の相手を連れてくれば良いのではないか。
ラーソルバールだけではなく、同行する仲間達もその苛立ちが顔に出ていた。
「なんだ、ホグアードさんの依頼で来てみれば、こんな子供相手ですか? それも半分以上が女ときた」
「綺麗な嬢ちゃんばかりで戦えるのか?」
「相手はそこの黒髪の坊主か?」
男達は口々に勝手な事を言う。
「私がやろうか?」
エラゼルが進み出る。
「別に俺がやってもいいぜ」
黒髪の坊主と言われたガイザが不機嫌そうに言う。二人が共に怒りを抑えているのが分かる。
「そちらも複数いらっしゃるようですので、私ルシェと、エリゼスト、グラデアの三人がお相手します」
本来売られた喧嘩を買う性質ではないが、ここで面倒事を避けても前へ進めそうにないので止むを得ないと判断した。加えて、ホグアードの不敵な笑いが気に入らないので、一泡吹かせたかったということもある。
「武器は模擬専用でやるが、そこにあるどの武器を使っても構わん」
ホグアードの指差す先には一通りの武器が揃えられていた。剣はもとより三叉槍《トライデント》から鉄鞭、星球式鎚矛《モーニングスター》の模擬武器まで揃えられており、ラーソルバール達は驚いた。
「我々は皆、長剣で構いません」と答えたのは、片刃の剣が無かったからでもある。
剣を手にした時、馬鹿にされた分、きっちり返すという気持ちが三人の顔には滲み出ていた。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました
山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。
でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。
そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。
長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。
脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、
「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」
「なりすましヒロインの娘」
と同じ世界です。
このお話は小説家になろうにも投稿しています
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話
ルジェ*
ファンタジー
婚約者である第二王子レオナルドの卒業記念パーティーで突然婚約破棄を突きつけられたレティシア・デ・シルエラ。同様に婚約破棄を告げられるレオナルドの側近達の婚約者達。皆唖然とする中、レオナルドは彼の隣に立つ平民ながらも稀有な魔法属性を持つセシリア・ビオレータにその場でプロポーズしてしまうが───
「は?ふざけんなよ。」
これは不運な彼女達が、レオナルド達に逆転勝利するお話。
********
「冒険がしたいので殿下とは結婚しません!」の元になった物です。メモの中で眠っていたのを見つけたのでこれも投稿します。R15は保険です。プロトタイプなので深掘りとか全くなくゆるゆる設定で雑に進んで行きます。ほぼ書きたいところだけ書いたような状態です。細かいことは気にしない方は宜しければ覗いてみてやってください!
*2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる