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第二部:第二十章 真実と虚構の存在

(一)ギルド③

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 この後、酒場ではなく落ち着いた食堂を見つけ、夕食となった。小国とはいえ、流石は首都と思える程に食事は洗練されており、味も申し分ない上に価格も安かった。この日感じたのは、ヴァストール王国内に比べ、物価が安いということ。
 首都近くに多くの農耕地が見られた事から、農産物が経済を下支えしているのだろうということが分かる。
 そして、ディナレスが呆れる程食べた後、一行は宿に戻ってきていた。
 この日は全員が一室に集まり、翌日のギルド内での対応について話し合う事にした。酒場前のような事が無いとも限らない。その際には、過度な反応や挑発を避けるよう申し合わせる。但し、仲間の誰かに危害が及ぶ可能性が有れば、実力行使もやむを得ないと決め、解散となった。

 翌朝、全員が真偽両方の身分証を持ち、冒険者ギルドを訪れた。
 昨日シェラが覗いた時よりは、人数も少なく中は幾分か落ち着いている。
 あまり内部を見回すと、新人か田舎者かと思われるので、そのような行動は控えるよう示し合わせている。それでも十代半ばの男女だけで構成された一団は、ギルドでは珍しいようで人目を集めた。
「お見かけしない方々ですが、何かご用でしょうか」
 受付前まで来たときに、先に話しかけられた。
「はい。諸事情によりまして……。この書状をギルドの責任者にお渡し頂ければ、お分かり頂けると思います」
 受付の女性は怪訝な顔をする。いきなり責任者に取り次げと言われて、はいそうですかと返せるものではない。
「こちらは初めての方ですよね」
「そうですが、そうではありません」
 意味が分からず、益々表情を曇らせる。
「多くはお話し出来ないので、これでご理解頂けますか?」
 ラーソルバールはこっそりと全員分の認識票をカウンターの上に置く。
「偽造……ではありませんね。確かに本物です……。あ!」
 受付の女性が何かを思い出したように声を上げた瞬間だった。
「おい、ガキ共! ミディートさんを困らせるんじゃねえよ。……ん?」
 ミディートとは恐らく受付の女性の名だろう。男は視線をカウンターテーブルの上にやる。
「あ、デットーラさん、違いま……」
「ミディートさんは黙っててくれ。そこに有る認識票、中級以上の実力者が持つもんだ。お前らのようなガキが持つ物じゃねえ。大方偽造品か誰かから盗んだ物だろうさ! それを置いて出て行きな!」
 ミディートの言葉を遮り、男は大声でわめき散らす。
「何だ何だ?」
 周囲に居た者達も、何事かと寄ってくる。
 もとより騒ぎが好きな喧嘩っ早く、血の気の多い者達が多い場所だけに、ラーソルバールたちはすぐに周囲を取り囲まれた。

「わめけば良いというものではない」
 エラゼルがすっと前に進み出る。
「そのような態度では品性を問われるぞ?」
 ああ、挑発してますね、エラゼルさん。ラーソルバールは思わず苦笑いした。
「ちょっと……いやだいぶ綺麗な顔してるからって調子に乗るんじゃねえ!」
 男は一瞬ためらいを見せたが、衆目を集めている手前、引き下がれない。
「いや、ちょっと待って……」
 ラーソルバールが止めようとするが、エラゼルは意に介さない。
「相手が我々の実力を見たいと言っているのだ。十分の一程も見せてやれば納得するだろう?」
 あー、だめだ。と、ラーソルバールは頭を押さえた。エラゼルがこうなった時には止められないという事を、ラーソルバールが一番良く知っている。
「十分の一だと? この俺をなめてるのか?」
 ラーソルバールのため息を余所に、エラゼルは不敵に笑う。怒りに狩られた男が、掴みかかった次の瞬間、エラゼルは右肘を男のみぞおちに叩き込むと、そのまま掌底で顎を跳ね上げた。
 男は何が起きたかも分からぬまま、仰向けに倒れ、意識を失った。
「すげえ!」
「何だ今の!」
 体格差をものともせず、男を一瞬で倒した事で周囲が騒然となる。エラゼルの美貌も相俟って、ギルド内は歓声に包まれた。
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