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第二部:第十九章 シルネラ共和国へ
(四)国境を越えて③
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街中は多くの人々で賑わっていた。
旅に必要な雑貨を補充し、シェラの……いや、エラゼルの目的である菓子店も発見し、明日一日では消費しきれないと思われる量を購入した。菓子でいっぱいになった大きな袋を抱え、上機嫌でエラゼルは店を後にする。
「それ持ったまま、夕食?」
フォルテシアに聞かれたエラゼルは、平然とした顔で「これが夕食でも構わんが」と言い放ち、周囲を呆れさせた。
当然、それが夕食になるはずもなく、ディナレスの勘に従って決めた店での食事となった。
適当に注文し、出てきた料理は見たことの無いものが多く、感心しつつも舌鼓を打ちながら全て平らげた。
「運動不足なのに、そんなに食べてたら太りそうだね」
ディナレスは食事を次々と胃袋に収める騎士学校の面々を見て、苦笑した。
食事を終え、宿に戻る頃には既に暗くなっていたが、街の家々に灯る明かりが夜道を照らし、苦もなく歩ける。
「明日はようやく首都シルネリアだね」
シェラが嬉しそうに言う。この街も栄えているが、首都はさらに大きく美しい所なのだろうか。旅行ではないと分かっていながらも、期待に胸弾む。
「では、ゆっくり寝て明日に備えようか」
エラゼルは優しく微笑んだ。その手に一杯の荷物を抱えて。
宿に戻るとそれぞれが明日への支度を行う。
風呂に入って着替えると、半ば休暇のような一日も終わりを告げる。
ラーソルバールがランタンの火を消し、布団を被った時だった。
「ラーソルバール」
「ん?」
エラゼルが暗闇の中、話しかけてきた。
「お前は抱え込みすぎだ」
「ん……?」
唐突に言われたので、何を意図しているのか一瞬分からなかった。
「騎士になるのだろう? 人の死などこれからいくらでも接する事になるのだから、いちいち落ち込んではいられぬはずだ。その悲しみもお前の優しさから来るのだろうから、それは良い。だが、その感情は出すべきときに出せばよい」
「うん……」
優しく語りかける言葉が心に響く。
「騎士という立場なら、その姿を見せることも仕事なのではないか? 泣いてばかりの騎士が、人に希望や安心を与えられるか?」
「そうだね……、分かった。ありがとう、エラゼル」
エラゼルの言う通りだ。『きしさま』は泣いてばかりで良いはずがない。一歩一歩階段を昇っているつもりでいたが、いつも心は置き去りにしてきた。
「……兄妹同然の者を失った悲しみは、私には分からん。だが、この旅を率いて行くのはお前の役目なのだろうから、落ち込んでいて貰っては困る」
「私は誰かを引っ張るとかいう柄じゃないんだけどね……。だから、エラゼルが替わってくれればいいなって、心のどこかで思ってたのかも」
エラゼルは布団から手を出し、ラーソルバールの頬に触れる。
「私は私、ラーソルバールのやるべき事は私には出来ぬ。きっと、人にはそれぞれが与えられた役割が有るのだろうな」
エラゼルの言葉に、ラーソルバールは小さく「うん」と言った後、エラゼルの服をつかんだ。
「ごめん、今は少しだけ泣かせて……」
夜の闇に紛れたその涙は、ほんの少しだけエラゼルの袖を濡らした。
翌朝、身支度を整えると、朝食用に買っておいたパンを千切って口に放り込む。
カウンターで待っていたシェラ達と合流すると、宿の主人に礼を述べて表へ出る。大きく背伸びをして、太陽を仰いだ。
「さあ、シルネリアへ!」
迷いを断ち切ったかのように、ラーソルバール晴れやかな笑顔を浮かべた。
旅に必要な雑貨を補充し、シェラの……いや、エラゼルの目的である菓子店も発見し、明日一日では消費しきれないと思われる量を購入した。菓子でいっぱいになった大きな袋を抱え、上機嫌でエラゼルは店を後にする。
「それ持ったまま、夕食?」
フォルテシアに聞かれたエラゼルは、平然とした顔で「これが夕食でも構わんが」と言い放ち、周囲を呆れさせた。
当然、それが夕食になるはずもなく、ディナレスの勘に従って決めた店での食事となった。
適当に注文し、出てきた料理は見たことの無いものが多く、感心しつつも舌鼓を打ちながら全て平らげた。
「運動不足なのに、そんなに食べてたら太りそうだね」
ディナレスは食事を次々と胃袋に収める騎士学校の面々を見て、苦笑した。
食事を終え、宿に戻る頃には既に暗くなっていたが、街の家々に灯る明かりが夜道を照らし、苦もなく歩ける。
「明日はようやく首都シルネリアだね」
シェラが嬉しそうに言う。この街も栄えているが、首都はさらに大きく美しい所なのだろうか。旅行ではないと分かっていながらも、期待に胸弾む。
「では、ゆっくり寝て明日に備えようか」
エラゼルは優しく微笑んだ。その手に一杯の荷物を抱えて。
宿に戻るとそれぞれが明日への支度を行う。
風呂に入って着替えると、半ば休暇のような一日も終わりを告げる。
ラーソルバールがランタンの火を消し、布団を被った時だった。
「ラーソルバール」
「ん?」
エラゼルが暗闇の中、話しかけてきた。
「お前は抱え込みすぎだ」
「ん……?」
唐突に言われたので、何を意図しているのか一瞬分からなかった。
「騎士になるのだろう? 人の死などこれからいくらでも接する事になるのだから、いちいち落ち込んではいられぬはずだ。その悲しみもお前の優しさから来るのだろうから、それは良い。だが、その感情は出すべきときに出せばよい」
「うん……」
優しく語りかける言葉が心に響く。
「騎士という立場なら、その姿を見せることも仕事なのではないか? 泣いてばかりの騎士が、人に希望や安心を与えられるか?」
「そうだね……、分かった。ありがとう、エラゼル」
エラゼルの言う通りだ。『きしさま』は泣いてばかりで良いはずがない。一歩一歩階段を昇っているつもりでいたが、いつも心は置き去りにしてきた。
「……兄妹同然の者を失った悲しみは、私には分からん。だが、この旅を率いて行くのはお前の役目なのだろうから、落ち込んでいて貰っては困る」
「私は誰かを引っ張るとかいう柄じゃないんだけどね……。だから、エラゼルが替わってくれればいいなって、心のどこかで思ってたのかも」
エラゼルは布団から手を出し、ラーソルバールの頬に触れる。
「私は私、ラーソルバールのやるべき事は私には出来ぬ。きっと、人にはそれぞれが与えられた役割が有るのだろうな」
エラゼルの言葉に、ラーソルバールは小さく「うん」と言った後、エラゼルの服をつかんだ。
「ごめん、今は少しだけ泣かせて……」
夜の闇に紛れたその涙は、ほんの少しだけエラゼルの袖を濡らした。
翌朝、身支度を整えると、朝食用に買っておいたパンを千切って口に放り込む。
カウンターで待っていたシェラ達と合流すると、宿の主人に礼を述べて表へ出る。大きく背伸びをして、太陽を仰いだ。
「さあ、シルネリアへ!」
迷いを断ち切ったかのように、ラーソルバール晴れやかな笑顔を浮かべた。
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