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第二部:第十九章 シルネラ共和国へ

(四)国境を越えて①

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(四)

 村での戦闘を終えた後、七人は村の人々に囲まれ、感謝の言葉を重ねられた。
 それでも自責の念は有る。もう少し早く対応が出来ていれば、死者を出さずに済んだかもしれない。あの時の行動は誤っていなかったか、いや、そもそも熊の処理をもっと早くしておけば……。後悔しつつ、頭を下げる。
「遅くなって申し訳ありませんでした。私たちがもう少し早く来ていたら……もっと早く対処が出来ていたら…」
 ラーソルバールの両頬を涙が伝った。
「何を泣かれる、お嬢さん。貴女方が来なければ、この村の誰もが死んでいたかも知れない。感謝こそすれ、恨む理由など無い。恨むとすれば、我々の無力さだよ」
 老婆がラーソルバールの手を取って笑顔を向ける。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
 老婆の手に涙の雫が落ちる。
「婆さんの言う通りだ。我々が弱かった。そして、こういう兵士達を野に放つ原因になった、愚かで自分勝手な貴族が悪いのであって、お嬢さんは何も悪くない」
「有難うよ、死んだ者の為に涙してくれて」
「ああ、本当に、あんた達には感謝してもしきれない、何か礼をさせてくれ」
 村の人々の言葉に、ラーソルバールは黙って首を横に振った。責められない事のほうが辛い気さえもする。その気配を察したのだろうか、エラゼルが背後に立つ。
 無理矢理にでもこの場から離した方が良い、と考えたのかもしれない。
「さあ、行くぞ」
 エラゼルの手が、優しく肩に置かれる。ラーソルバールはその手を握り締めると、涙を拭った。
「大変申し訳ありません。先を急ぎますので、これで失礼させて頂きます」
 深々と頭を下げると、七人は礼をさせて欲しいと引きとめる声を振り払って、馬車へと走った。

 馬車に戻ると、皆疲れ果てたように転がり込む。
「お待たせしてすみませんでした。出発してください」
 シェラが息を切らしながら御者に依頼する。
「あいよ、終わったのかい?」
 手綱を動かすと、馬車が動き出す。風が馬車の中を抜け、火照った体に心地よい。
「ええ、なんとか。でも、ヘトヘトです」
「お疲れ様。馬も休めたし、少し急ごうか。今日のうちに国境近くまで行かなきゃならないし」
 馬車は少しだけ速度を上げた。

「疲れた……」
 フォルテシアが大きく息を吐いた。生死に関わる戦闘をしただけに、身体的疲労よりも精神的な疲労の方が大きかったのだろう。そのぐったりした様子が、エラゼルを笑わせた。
「時折、鉄面皮のような輩かと思わせるが、存外表情豊かだな」
「……エラゼルの方が鉄面皮」
 ラーソルバール以外では、フォルテシアが一番遠慮をせずにエラゼルに物を言う。エラゼルもそれを気にする様子も無い。
「ふふふ……」
 涙を浮かべていたラーソルバールも、二人のやりとりを聞いていて、思わず笑い出す。それにつられて、全員が緊張が解けたかのように、笑い出した。
「実際、見て分かった。アレは確かにものが違う。エラゼルも似たようなもんだが……」
 笑い声の中、モルアールは小声でガイザに話しかける。ラーソルバールの強さに懐疑的だったモルアールも、実際の戦闘を目の当たりにしては、その強さを認めるしかなかった。怪我人を出すことなく、賊退治を終えた事は、驚きを通り越して呆れるしかなかった。
 苦笑を浮かべながら返ってきた答えは「だろ?」という短いものだった。
 
 夕闇に包まれた頃、ようやく目的にたどり着いた。
 時間が時間だけに宿は三部屋しか取れず、部屋割りに少々もめることになる。
 公爵家のエラゼルが一人部屋で、あとは女四人、男二人で良い、という話になったが、ラーソルバールはエラゼルは無理矢理拉致される形で連れて行かれる形で、決着となる。「こういう日は、ラーソルバールが凹むから、私が付いていないと駄目だ」というのがその理由だった。
 もっともらしい理由に誰も異論を唱えず、引きずられるように部屋に連れて行かれるラーソルバールを、五人は苦笑いしながら見送った。
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