178 / 439
第一部:第十五章 その流れる先は
(四)勲章と褒賞①
しおりを挟む
(四)
私達が案内されたのは、それほど大きくない会議室のような場所だった。
国の紋章が壁に描かれている以外は、装飾も少なく殺風景で、窓の外の緑と空が見えていなければ、味気ない部屋だったろう。
机が片付けられ、椅子だけが用意されていて、皆が順に腰掛けた。
「少々お待ちください」
私達を案内してきた人は、それだけ言い残すとさっさと居なくなってしまった。
「愛想がないなあ。事務官ってのは皆がああなのかねえ」
リックスさんが私にだけ聞こえるように愚痴る。
それが可笑しくて思わず笑ってしまった。
「体の方はもういいのかい?」
今度は普通の声で聞かれた。
「完治です! 多分」
「そうか、良かった。君が倒れてて、隣の娘が泣いていた時はどうなるかと………」
言葉が詰り、リックスさんは顔を背けた、
恐らくエラゼルが睨んだのだろう。
間が悪く、ドアをノックする音が聞こえると、先程の事務官が扉を開けた。
開いた扉からは、すぐに軍務大臣ナスターク侯爵が入室してきた。
大臣自らのお出ましかと、思っていたら、国家治安大臣のウェルデリル伯爵までもが続いて入室してきた。新年会で、そのお顔を見た覚えがある。
手紙が連名であったため特段驚くことでは無いが、やはり大臣を二人も前にすると緊張する。
大臣ばかりを気にしていたら、見慣れぬ人も数人部屋に入ってきていた。
「気にしなくていい。公報の関係者と、街の情報業者だ」
私が彼らを眺めていた事に気付いたのだろう、軍務大臣が教えてくれた。
本来であれば、遠い存在の人であるはずだが、何度も直接会話をしているので、そう言った感覚は薄れつつある。
公私をしっかりと線引きしないといけない。
私は大臣二人に視線を戻した。
「本日君達に来て貰った理由は、既に書面で分かってくれていると思う。国として昨日の騒動で率先して街を守ってくれたことに対し、感謝の意を伝えるとともに、形ある礼をする事となった」
「国家治安省からも、身を危険にさらしてまで、街のために戦ってくれた事に対し、礼を述べなくてはならない。損害はゼロではないが、君達が居てくれなければ、もっと酷い結果になっていただろう」
そう言って、二人は息を合わせたように頭を下げた。
大臣が頭を下げるという異例の事に、騎士学校の生徒たちはどよめいた。
「私達はやるべき事をやっただけです。大臣であるお二方に頭を下げていただくようなものではありません」
横目で見ると、エラゼルは私の言葉に微笑を浮かべていた。
「例え、そうであったとしても、国としてはその行為に報いねばならない」
軍務大臣が軽く手を鳴らすと、情報業者らの陰から女性の事務官が進み出て、持っていたものを大臣に手渡した。
「まずは、感謝状。次に小さいが街の守護者としての勲章。これらは食べられず、腹の足しにはならないからな。それとは別に、わずかばかりだが褒賞金もある」
誰も声を発しないが、生徒達の息遣いが変わる。
「あの……よろしいでしょうか」
私は小さな声で、大臣に問いかけた。
私達が案内されたのは、それほど大きくない会議室のような場所だった。
国の紋章が壁に描かれている以外は、装飾も少なく殺風景で、窓の外の緑と空が見えていなければ、味気ない部屋だったろう。
机が片付けられ、椅子だけが用意されていて、皆が順に腰掛けた。
「少々お待ちください」
私達を案内してきた人は、それだけ言い残すとさっさと居なくなってしまった。
「愛想がないなあ。事務官ってのは皆がああなのかねえ」
リックスさんが私にだけ聞こえるように愚痴る。
それが可笑しくて思わず笑ってしまった。
「体の方はもういいのかい?」
今度は普通の声で聞かれた。
「完治です! 多分」
「そうか、良かった。君が倒れてて、隣の娘が泣いていた時はどうなるかと………」
言葉が詰り、リックスさんは顔を背けた、
恐らくエラゼルが睨んだのだろう。
間が悪く、ドアをノックする音が聞こえると、先程の事務官が扉を開けた。
開いた扉からは、すぐに軍務大臣ナスターク侯爵が入室してきた。
大臣自らのお出ましかと、思っていたら、国家治安大臣のウェルデリル伯爵までもが続いて入室してきた。新年会で、そのお顔を見た覚えがある。
手紙が連名であったため特段驚くことでは無いが、やはり大臣を二人も前にすると緊張する。
大臣ばかりを気にしていたら、見慣れぬ人も数人部屋に入ってきていた。
「気にしなくていい。公報の関係者と、街の情報業者だ」
私が彼らを眺めていた事に気付いたのだろう、軍務大臣が教えてくれた。
本来であれば、遠い存在の人であるはずだが、何度も直接会話をしているので、そう言った感覚は薄れつつある。
公私をしっかりと線引きしないといけない。
私は大臣二人に視線を戻した。
「本日君達に来て貰った理由は、既に書面で分かってくれていると思う。国として昨日の騒動で率先して街を守ってくれたことに対し、感謝の意を伝えるとともに、形ある礼をする事となった」
「国家治安省からも、身を危険にさらしてまで、街のために戦ってくれた事に対し、礼を述べなくてはならない。損害はゼロではないが、君達が居てくれなければ、もっと酷い結果になっていただろう」
そう言って、二人は息を合わせたように頭を下げた。
大臣が頭を下げるという異例の事に、騎士学校の生徒たちはどよめいた。
「私達はやるべき事をやっただけです。大臣であるお二方に頭を下げていただくようなものではありません」
横目で見ると、エラゼルは私の言葉に微笑を浮かべていた。
「例え、そうであったとしても、国としてはその行為に報いねばならない」
軍務大臣が軽く手を鳴らすと、情報業者らの陰から女性の事務官が進み出て、持っていたものを大臣に手渡した。
「まずは、感謝状。次に小さいが街の守護者としての勲章。これらは食べられず、腹の足しにはならないからな。それとは別に、わずかばかりだが褒賞金もある」
誰も声を発しないが、生徒達の息遣いが変わる。
「あの……よろしいでしょうか」
私は小さな声で、大臣に問いかけた。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました
山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。
でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。
そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。
長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。
脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、
「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」
「なりすましヒロインの娘」
と同じ世界です。
このお話は小説家になろうにも投稿しています
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
パーティー会場で婚約破棄するなんて、物語の中だけだと思います
みこと
ファンタジー
「マルティーナ!貴様はルシア・エレーロ男爵令嬢に悪質な虐めをしていたな。そのような者は俺の妃として相応しくない。よって貴様との婚約の破棄そして、ルシアとの婚約をここに宣言する!!」
ここ、魔術学院の創立記念パーティーの最中、壇上から声高らかに宣言したのは、ベルナルド・アルガンデ。ここ、アルガンデ王国の王太子だ。
何故かふわふわピンク髪の女性がベルナルド王太子にぶら下がって、大きな胸を押し付けている。
私、マルティーナはフローレス侯爵家の次女。残念ながらこのベルナルド王太子の婚約者である。
パーティー会場で婚約破棄って、物語の中だけだと思っていたらこのザマです。
設定はゆるいです。色々とご容赦お願い致しますm(*_ _)m
殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話
ルジェ*
ファンタジー
婚約者である第二王子レオナルドの卒業記念パーティーで突然婚約破棄を突きつけられたレティシア・デ・シルエラ。同様に婚約破棄を告げられるレオナルドの側近達の婚約者達。皆唖然とする中、レオナルドは彼の隣に立つ平民ながらも稀有な魔法属性を持つセシリア・ビオレータにその場でプロポーズしてしまうが───
「は?ふざけんなよ。」
これは不運な彼女達が、レオナルド達に逆転勝利するお話。
********
「冒険がしたいので殿下とは結婚しません!」の元になった物です。メモの中で眠っていたのを見つけたのでこれも投稿します。R15は保険です。プロトタイプなので深掘りとか全くなくゆるゆる設定で雑に進んで行きます。ほぼ書きたいところだけ書いたような状態です。細かいことは気にしない方は宜しければ覗いてみてやってください!
*2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる