168 / 439
第一部:第十四章 崩れゆくもの
(四)闇の門③
しおりを挟む
ゆっくりと姿を見せるのは、異形の者だった。
「私が両方引き付ける!」
グランザーさんはまずオーガに切りつけると、出現したばかりの怪物に視線をやる。
敵から間隔をとって、私達の前に壁のように立つ。
嘴と翼、手足には鋭い鉤爪。
物語にしか出てこないような、不気味な姿だった。
悪魔だろうか。だが、そういった魔力を感じる事はない。
むしろ生を感じない無機質な物。
初めて見る相手に動揺する。
「あれは恐らくガーゴイルだ……」
「これが?」
どこかの遺跡に有るような物だと思っていただけに、エラゼルの一言は驚きだった。
その言葉を残し、エラゼルは先に出てきたオーガに攻撃を加えるため、わたしの横から離れた。
ガーゴイルが翼を動かし、離陸する。地上から離れてしまえば、今の私達には魔法以外の攻撃手段は無い。
攻撃するときだけ降りてくる相手ほど、厄介なものはない。
その気になれば、私達の乗ってきた馬車も瞬時に襲える。
今更だが、乗ってきた馬車の御者が心配になって振り返る。
戦闘に加わろうとはしないものの、馬を抑えつつ剣を抜いていて自衛のための用意はできているようだ。御者とは言え、騎士団所属なのだろう。
いざとなれば、逃げるよう指示されているのかもしれない。
体の動かない私としては、足手まといにならないよう、下がりたいがそれさえもままならない。
エラゼルとグランザーさんが苦戦する中、私にできる事があるのだろうか。
ふと気になった。
ガーゴイルのようなものを、ただ嫌がらせのためだけに使うものだろうか。
かなり新しい物のように見えるため、遺跡の中に有った物を持ってきたのではなく、自ら作ったのかもしれない。
実験済みでなければ、その出来栄えの確認がしたいはず。
であれば本人がまだ居るか、手下の監視者がこの辺りに居るはずだ。彼自身が誰かの駒として使われていた可能性もある。とすると、さらに強力な相手が居る可能性が高い。
だが、うまくいけばガーゴイルを無力化できるかもしれない。
(探せ、探せ…)
迷い、気が焦る。
グランザーさんの剣を手にして体を支え、周囲の気配を探る。
住民達の不安そうな視線を感じるが、他に気配はない。
ここの住民に扮して混ざっているのか。
このままでは、二人が危ない。
そう思った時だった。
背後から魔法が飛んできて、私の横をすり抜けた。
魔法はそのままオーガとガーゴイルに直撃する。
ガーゴイルは弾かれて、地面に落下する。
「大丈夫ですか!」
声のした方を振り返ると、魔法院の制服を来た人達の姿が見えた。
それを見た瞬間に、力が抜け、私は地面にへたり込んだ。
「助かった……のかな」
この後、二人は魔法院の人たちと協力して難なくガーゴイルを破壊し、オーガを倒した。
門からこれ以上の怪物が出ないよう、魔法院の人達は急いで門を閉ざす。
その手際の良さは見事だった。
感心して見ていたら、魔法院の人達が私を見て微笑んだ。
「ああ、夜に試行錯誤した結果ですよ。ミルエルシさん」
まるで私を知っているかのような口ぶりで言うのだが、生憎と私にはその記憶が無い。
エラゼルも魔法院の人達を知っているかのような応対をしている。
グランザーさんと一緒に出来事の聴取をされている。
「ああ、私はキゴーア三月法官です。夜の事件の指揮を取ったのは私です」
三月法官とは、騎士の三月官と同等の階級とされている。
また偉い人だ、と少し身構える。
「あの…、ひとつよろしいですか?」
近くに寄って小声で話しかける。
「何でしょう」
「周囲にこの戦いを観察しているような人物はいませんでしたか?」
「…? それはどういう意味ですか」
ガーゴイルについての疑問点と併せて話すと、キゴーアさんは私の考えに理解を示してくれた。
「貴女の仰る事は分かりました。ただ、そういった気配は察知できませんでしたね。まだ潜んでいる可能性があるということも踏まえて対処しましょう。実験済みとすると厄介ですがね…」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
今の私に出来ることはない。
無自覚に怪我人が動き回れば、邪魔になる。あとは魔法院の人に任せるしかない。
私はその場に座り込んだ。
やがて聴取を終えた二人が戻ってくると、私はエラゼルに支えられ、馬車に乗り込んだ。
馬車は、魔法院の人達が見送る中、救護院へ向けて再度走り出す。
私の心は不安と怒りと悲しみが混ざりあって、大きく乱れていた。
「私が両方引き付ける!」
グランザーさんはまずオーガに切りつけると、出現したばかりの怪物に視線をやる。
敵から間隔をとって、私達の前に壁のように立つ。
嘴と翼、手足には鋭い鉤爪。
物語にしか出てこないような、不気味な姿だった。
悪魔だろうか。だが、そういった魔力を感じる事はない。
むしろ生を感じない無機質な物。
初めて見る相手に動揺する。
「あれは恐らくガーゴイルだ……」
「これが?」
どこかの遺跡に有るような物だと思っていただけに、エラゼルの一言は驚きだった。
その言葉を残し、エラゼルは先に出てきたオーガに攻撃を加えるため、わたしの横から離れた。
ガーゴイルが翼を動かし、離陸する。地上から離れてしまえば、今の私達には魔法以外の攻撃手段は無い。
攻撃するときだけ降りてくる相手ほど、厄介なものはない。
その気になれば、私達の乗ってきた馬車も瞬時に襲える。
今更だが、乗ってきた馬車の御者が心配になって振り返る。
戦闘に加わろうとはしないものの、馬を抑えつつ剣を抜いていて自衛のための用意はできているようだ。御者とは言え、騎士団所属なのだろう。
いざとなれば、逃げるよう指示されているのかもしれない。
体の動かない私としては、足手まといにならないよう、下がりたいがそれさえもままならない。
エラゼルとグランザーさんが苦戦する中、私にできる事があるのだろうか。
ふと気になった。
ガーゴイルのようなものを、ただ嫌がらせのためだけに使うものだろうか。
かなり新しい物のように見えるため、遺跡の中に有った物を持ってきたのではなく、自ら作ったのかもしれない。
実験済みでなければ、その出来栄えの確認がしたいはず。
であれば本人がまだ居るか、手下の監視者がこの辺りに居るはずだ。彼自身が誰かの駒として使われていた可能性もある。とすると、さらに強力な相手が居る可能性が高い。
だが、うまくいけばガーゴイルを無力化できるかもしれない。
(探せ、探せ…)
迷い、気が焦る。
グランザーさんの剣を手にして体を支え、周囲の気配を探る。
住民達の不安そうな視線を感じるが、他に気配はない。
ここの住民に扮して混ざっているのか。
このままでは、二人が危ない。
そう思った時だった。
背後から魔法が飛んできて、私の横をすり抜けた。
魔法はそのままオーガとガーゴイルに直撃する。
ガーゴイルは弾かれて、地面に落下する。
「大丈夫ですか!」
声のした方を振り返ると、魔法院の制服を来た人達の姿が見えた。
それを見た瞬間に、力が抜け、私は地面にへたり込んだ。
「助かった……のかな」
この後、二人は魔法院の人たちと協力して難なくガーゴイルを破壊し、オーガを倒した。
門からこれ以上の怪物が出ないよう、魔法院の人達は急いで門を閉ざす。
その手際の良さは見事だった。
感心して見ていたら、魔法院の人達が私を見て微笑んだ。
「ああ、夜に試行錯誤した結果ですよ。ミルエルシさん」
まるで私を知っているかのような口ぶりで言うのだが、生憎と私にはその記憶が無い。
エラゼルも魔法院の人達を知っているかのような応対をしている。
グランザーさんと一緒に出来事の聴取をされている。
「ああ、私はキゴーア三月法官です。夜の事件の指揮を取ったのは私です」
三月法官とは、騎士の三月官と同等の階級とされている。
また偉い人だ、と少し身構える。
「あの…、ひとつよろしいですか?」
近くに寄って小声で話しかける。
「何でしょう」
「周囲にこの戦いを観察しているような人物はいませんでしたか?」
「…? それはどういう意味ですか」
ガーゴイルについての疑問点と併せて話すと、キゴーアさんは私の考えに理解を示してくれた。
「貴女の仰る事は分かりました。ただ、そういった気配は察知できませんでしたね。まだ潜んでいる可能性があるということも踏まえて対処しましょう。実験済みとすると厄介ですがね…」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
今の私に出来ることはない。
無自覚に怪我人が動き回れば、邪魔になる。あとは魔法院の人に任せるしかない。
私はその場に座り込んだ。
やがて聴取を終えた二人が戻ってくると、私はエラゼルに支えられ、馬車に乗り込んだ。
馬車は、魔法院の人達が見送る中、救護院へ向けて再度走り出す。
私の心は不安と怒りと悲しみが混ざりあって、大きく乱れていた。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました
山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。
でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。
そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。
長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。
脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、
「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」
「なりすましヒロインの娘」
と同じ世界です。
このお話は小説家になろうにも投稿しています
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
パーティー会場で婚約破棄するなんて、物語の中だけだと思います
みこと
ファンタジー
「マルティーナ!貴様はルシア・エレーロ男爵令嬢に悪質な虐めをしていたな。そのような者は俺の妃として相応しくない。よって貴様との婚約の破棄そして、ルシアとの婚約をここに宣言する!!」
ここ、魔術学院の創立記念パーティーの最中、壇上から声高らかに宣言したのは、ベルナルド・アルガンデ。ここ、アルガンデ王国の王太子だ。
何故かふわふわピンク髪の女性がベルナルド王太子にぶら下がって、大きな胸を押し付けている。
私、マルティーナはフローレス侯爵家の次女。残念ながらこのベルナルド王太子の婚約者である。
パーティー会場で婚約破棄って、物語の中だけだと思っていたらこのザマです。
設定はゆるいです。色々とご容赦お願い致しますm(*_ _)m
殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話
ルジェ*
ファンタジー
婚約者である第二王子レオナルドの卒業記念パーティーで突然婚約破棄を突きつけられたレティシア・デ・シルエラ。同様に婚約破棄を告げられるレオナルドの側近達の婚約者達。皆唖然とする中、レオナルドは彼の隣に立つ平民ながらも稀有な魔法属性を持つセシリア・ビオレータにその場でプロポーズしてしまうが───
「は?ふざけんなよ。」
これは不運な彼女達が、レオナルド達に逆転勝利するお話。
********
「冒険がしたいので殿下とは結婚しません!」の元になった物です。メモの中で眠っていたのを見つけたのでこれも投稿します。R15は保険です。プロトタイプなので深掘りとか全くなくゆるゆる設定で雑に進んで行きます。ほぼ書きたいところだけ書いたような状態です。細かいことは気にしない方は宜しければ覗いてみてやってください!
*2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる