上 下
155 / 439
第一部:第十三章 思惑

(四)会の終わり②

しおりを挟む
 ダンスなどの時間も有ったのだが、エラゼルという虫除けのおかげか、寄ってくる者も居ない。公爵家の娘というだけではなく、「デラネトゥスの三女は気難しい」という噂も、虫除けに貢献したようだ。
 目立つ事が苦手なラーソルバールにとっては、非常に有り難い事だといえた。

 ラーソルバールは、暇そうにしていたシェラとガイザに、踊ってくるよう薦めたのだが断られた。「そんな恥ずかしい事ができるか」と、いう事らしい。
 自分と似たようなものか、とラーソルバールは苦笑する。
 ちらりと横を見ると、エラゼルは平然とした顔をしている。
「踊りたくなった?」
 ラーソルバールの問いに、エラゼルは首を横に振る。
「落ち着いて、友と一緒にいる方が気が楽だ」
 そう言って微笑んだ。
 誕生会では否応無く主役を演ずる事になったが、本来はそういう性格なのだろう。
 であれば、王太子と踊った時の心中やいかに。後でそれとなく聞いてみようと、エラゼルの顔を見ながら思うラーソルバールだった。

 その面倒事を持ってきそうな王子達も、次々と挨拶にやってくる人々の応対で席に縛り付けられ、動くに動けない様子。
 恐らくは、会が終わるまでそのままだろう。ラーソルバールは胸を撫で下ろした。
「父上はもう挨拶とかはいいの?」
「ああ、私は知人は多くないからね。今日はラーソルのおかげで色々な方にお会いすることが出来た。感謝しているよ」
 迷惑をかけたと思っていた父からの、思わぬ言葉に驚き、ラーソルバールは「はい」い言って頭を下げた。
 涙が出そうになり、堪えるために頭を上げることが出来なかった。
 それを見透かしたように父がは言葉を続ける。
「ああ、ラーソルの顔を売り込んで、婚約話取り付けるの忘れてた……痛っ!」
 ラーソルバールは顔を上げずに、無言で父の腹を殴った。

「ごめんね、シェラ、ガイザ、エラゼル。退屈だったでしょ」
 会が間もなく終わるという頃、ラーソルバールは三人に謝った。
「いや、暇は暇だったが、想定してよりは楽に終えることが出来そうで良かったよ。どうせ三男なんかは見向きもされないしな」
 ガイザはそう言って笑う。
「私も父の所に居たら、婚約がどうのと、うるさく言われてただろうから、助かったんだよ」
 面倒な話を持ち出されるよりは、親に干渉されない場所に逃げているのが丁度良かったのかもしれない。
  シェラは笑顔を向けるとラーソルバールに抱きついた。
「む……」
 エラゼルが眉をしかめた。
 シェラに先を越されて悔しいが、何となく素直になれずにいるその姿を見て、ラーソルバールは右腕を伸ばす。
「し……仕方ないな。どうしてもというなら……」
 エラゼルは、シェラと反対の右側から抱きついた。
「こういう時に父上と居ると、他者への挨拶だけでも疲れるのに、態度が悪いだの、婚約はどうするのかと、うるさいのだ。今日はここに逃げてきたようなものだ」
 気が緩んだのか、エラゼルが珍しくむくれた様子を見せる。
 ラーソルバールはエラゼルの頭を撫でると、小さな声で「今日は傍に居てくれてありがとう」と囁いた。
「お互い様だ」
 エラゼルもラーソルバールの背中をポンポンと叩く。その顔は嬉しそうに微笑んでいた。
「なんだかなあ、女の子の考えてる事はよく分からんな」
 ガイザが笑うと、隣にいた父も「全くだ」と言って一緒に笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

パーティー会場で婚約破棄するなんて、物語の中だけだと思います

みこと
ファンタジー
「マルティーナ!貴様はルシア・エレーロ男爵令嬢に悪質な虐めをしていたな。そのような者は俺の妃として相応しくない。よって貴様との婚約の破棄そして、ルシアとの婚約をここに宣言する!!」 ここ、魔術学院の創立記念パーティーの最中、壇上から声高らかに宣言したのは、ベルナルド・アルガンデ。ここ、アルガンデ王国の王太子だ。 何故かふわふわピンク髪の女性がベルナルド王太子にぶら下がって、大きな胸を押し付けている。 私、マルティーナはフローレス侯爵家の次女。残念ながらこのベルナルド王太子の婚約者である。 パーティー会場で婚約破棄って、物語の中だけだと思っていたらこのザマです。 設定はゆるいです。色々とご容赦お願い致しますm(*_ _)m

殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話

ルジェ*
ファンタジー
 婚約者である第二王子レオナルドの卒業記念パーティーで突然婚約破棄を突きつけられたレティシア・デ・シルエラ。同様に婚約破棄を告げられるレオナルドの側近達の婚約者達。皆唖然とする中、レオナルドは彼の隣に立つ平民ながらも稀有な魔法属性を持つセシリア・ビオレータにその場でプロポーズしてしまうが─── 「は?ふざけんなよ。」  これは不運な彼女達が、レオナルド達に逆転勝利するお話。 ********  「冒険がしたいので殿下とは結婚しません!」の元になった物です。メモの中で眠っていたのを見つけたのでこれも投稿します。R15は保険です。プロトタイプなので深掘りとか全くなくゆるゆる設定で雑に進んで行きます。ほぼ書きたいところだけ書いたような状態です。細かいことは気にしない方は宜しければ覗いてみてやってください! *2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!

処理中です...