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第一部:第十章 エラゼルとラーソルバール(中編)

(三)エラゼルという名の脅威①

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(三)

 大会四日目を迎えると、試合会場の熱気も増してきていた。
 生徒の関係者だけでなく、この日からは騎士団長が何名か観戦にやってくる、という話になっている。
 騎士団長は特別室からの観戦で、生徒達との接触は基本的に無い。
 また学校へも特別な通路を使用するため、生徒達と顔を合わせることも無い。これは生徒たちが群がる事による混乱を避けるための措置だった。
 この日は、三回戦、四回戦、五回戦と立て続けに行われる。
 翌日は準々決勝、準決勝、決勝が行われるが、こちらのほうが試合間隔が短く、厳しい。
 騎士たる者、この程度で音を上げるべからず、といったところだろうか。
 三回戦、ラーソルバール、エラゼル、グレイズらは即時に試合を決め、ガイザ、ジェスター、ミリエル、フォルテシアも危なげなく勝ち上がった。
 シェラは、開始直後に魔法をしようとした瞬間を突かれ、危ういところだったが、「誰かさんの凶悪な攻撃に比べれば、ゆっくり見えた」そうで、ギリギリのところで剣で受け流し、体勢を立て直した。
 以後は相手に遅れをとることなく、堅実な戦いを見せて、勝利を手にした。
 三回戦を終える頃には昼食時間は過ぎてしまっていたが、まだ試合の有る面々は合間を利用して、軽い食事を屋台で買って済ませている。
 四回戦を迎える頃、シェラは一人沈んでいた。
 次の対戦相手が、エラゼルだからだ。
 自分は三回戦で負けると思っていたのか、勝ち上がってくるはずのエラゼルと、直接対戦することを想定していなかったらしい。
「エラゼルさんにとって、ラーソルは敵なんでしょ? 一緒に居る私は……」
「敵みたいなもん?」
 ラーソルバールは他人事のように言ってみせる。
「ふぇぇ……」
「冗談だよ、エラゼルはそんな所にこだわらないよ」
「そうだといいなぁ…」
 この後シェラは試合場へ、とぼとぼと心配そうに歩いていった。
 その姿を見て、フォルテシアが少し笑ったように見えた。

 シェラが試合場に着くと、エラゼルは既に脇に有る椅子に座っており、前の試合が終わるのを待っていた。
 特に目が合うこともなく、シェラは不安を抱えたまま、試合を迎える事になる。
「お手柔らかにね、エラゼルさん」
 シェラは少し縮こまったようにして挨拶をする。
「そなたはラーソルバール・ミルエルシの横にいる者か。生憎と私には手加減というものが出来ぬ。死ぬ気でかかって参れ」
 元より期待していなかったシェラだったが、おかげで腹が座った。
 開始の合図とともに、シェラは大きく後ろにステップをとり、魔法の詠唱を始めた、
「ラン・シェルラータ…我が身に宿る灯火に、更なる力を!」
 少しでも抵抗するため、速度強化ヘイストを発動させた。
「良い判断だ。私相手に何処まで持ちこたえられるか」
 ニヤリと笑い、エラゼルはシェラとの差を詰めると、一気に突きの連撃を繰り出した。
 そこはラーソルバールとの訓練を重ねた身、速度強化の力も借りて、全て凌ぎきる。
 周囲も想定外の出来事に、思わず歓声と拍手を飛ばす。
「次はこれだ」
 試すように切りつけるが、シェラも剣で受け流す。そのまま反撃を試みるも、それよりも早く、次の一撃が飛んでくる。
「速度強化の上を行く?」
 剣を何とか弾き返して、距離を取る。
「所詮、速度強化など、己の力に多少の上乗せがある程度。基礎が違えば、何もせずとも対応できる。ほれ、そんな事をしていると効果時間が切れてしまうぞ」
 エラゼルは手招きで挑発した。
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