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第一部:第八章 心機一転
(四)デラネトゥス家にて②
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皆が誰かと立ち話をし、主役の登場を待っている。
だが、ラーソルバールの元には誰も来ない。王子と話したとはいえ、他の人々にしてみれば、誰とも分からぬ者の近くには寄りたくないという事だろうか。
暇なので、誰か見た事のある人は居るだろうかと、周囲を見渡す。あれは軍務大臣で、あれは外務大臣。冷静になって見てみれば、多少は分かるものだ。と思ったのだが、こちらが知っていても、向こうはこちらを知っている訳では無い。
「よう、ラーソルバール」
呆けていたところに、思わず声を掛けられたので、飛び上がりそうになるほど驚いた。
声のした方へ振り向くと、そこにはフェスバルハ家の長男アントワールが立っていた。
「遅くなってすまなかったな」
「え、何で、アントワール様がここに?」
状況が理解できない。招待されていたとは聞いていない。
「父上もグリュエルも居るぞ。エレノールから聞いてなかったか?」
「え? エレノ……」
アントワールの言葉で、今日来る前に彼女から「心配しなくても味方が居るから大丈夫です」と、意味ありげに言われた事を思い出した。
(いや、何で素直に教えてくれないのさ……小悪魔め……)
心の中で、小さく怒りをぶつけた。
「あはは……」
素直に言って良いか分からず、空笑いで誤魔化した。
「なんだ、またエレノールのいたずらか」
呆れるようにアントワールが笑った。
害にならない程度のいたずらは、彼女にとっては日常茶飯事なのだろう。それが伯爵家の生活に少しだけ彩を持たせているのかもしれない。
実際に、エレノールがフェスバルハ伯爵家にも招待状が届いているのを知ったのは、ラーソルバールの招待状を見て帰った後だった。
エレノールはラーソルバールの件を伯爵に伝え、指示を仰いだ。それを受けてフェスバルハ伯爵は、王都の別邸に到着後「後援の無いラーソルバールを助けよ」と、エレノールをミルエルシ家に送って仕度させたのである。
「おお、ラーソルバール嬢、美しく仕上げられてきたな」
フェスバルハ伯爵が他の貴族との挨拶を終え、アントワールのもとへやってきた。次男のグリュエルのお披露目も兼ねているのだろう。
「フェスバルハ伯爵、お久しぶりでございます。色々とお世話になり、有り難く思っておりますし、色々とご迷惑をおかけし、申し訳なく思ってもおります」
ラーソルバールは深々と頭を下げた。
感謝してもしきれない。それだけの恩義があると思っている。
「何を仰るか。私がこの場に居られるのも、先日の件があればこそだ。例を言わねばならぬのはこちらの方だ」
快活に笑うが、場を弁え大きな声は出さない。
「それにな……」
伯爵はラーソルバールの耳元に顔を寄せる。
「陛下から内々に、年末に入れ替えとなる大臣就任の打診を頂いた」
小声で伝えられた内容にラーソルバールは驚き、喜んだ。
「まことでございますか!」
「しぃー、声が大きい」
伯爵に窘められ、ラーソルバールは口元に手を当てた。
「それはおめでとうございます……お受けになられるのですよね」
精一杯の慶びと様々な感謝を込めつつも、余所に聞こえぬよう小さな声で祝辞を述べる。
「重責だが、そのつもりだ……」
伯爵の言葉を聞いて、先程まで重かった気分が、一気に明るくなった。
陛下への陳情を依頼するなどという、大それた事をしたのだ。迷惑を掛けたと思っていた中にも、良い影響を与えていた事が有ったと知って、少し気が楽になった気がした。
「おや、フェスバルハ殿、美しいお嬢さんと楽しそうですな。確か、貴方に娘さんはいらっしゃらなかったと思うが」
声を掛けてきたのは、ナスターク侯爵、現軍務大臣だった。
だが、ラーソルバールの元には誰も来ない。王子と話したとはいえ、他の人々にしてみれば、誰とも分からぬ者の近くには寄りたくないという事だろうか。
暇なので、誰か見た事のある人は居るだろうかと、周囲を見渡す。あれは軍務大臣で、あれは外務大臣。冷静になって見てみれば、多少は分かるものだ。と思ったのだが、こちらが知っていても、向こうはこちらを知っている訳では無い。
「よう、ラーソルバール」
呆けていたところに、思わず声を掛けられたので、飛び上がりそうになるほど驚いた。
声のした方へ振り向くと、そこにはフェスバルハ家の長男アントワールが立っていた。
「遅くなってすまなかったな」
「え、何で、アントワール様がここに?」
状況が理解できない。招待されていたとは聞いていない。
「父上もグリュエルも居るぞ。エレノールから聞いてなかったか?」
「え? エレノ……」
アントワールの言葉で、今日来る前に彼女から「心配しなくても味方が居るから大丈夫です」と、意味ありげに言われた事を思い出した。
(いや、何で素直に教えてくれないのさ……小悪魔め……)
心の中で、小さく怒りをぶつけた。
「あはは……」
素直に言って良いか分からず、空笑いで誤魔化した。
「なんだ、またエレノールのいたずらか」
呆れるようにアントワールが笑った。
害にならない程度のいたずらは、彼女にとっては日常茶飯事なのだろう。それが伯爵家の生活に少しだけ彩を持たせているのかもしれない。
実際に、エレノールがフェスバルハ伯爵家にも招待状が届いているのを知ったのは、ラーソルバールの招待状を見て帰った後だった。
エレノールはラーソルバールの件を伯爵に伝え、指示を仰いだ。それを受けてフェスバルハ伯爵は、王都の別邸に到着後「後援の無いラーソルバールを助けよ」と、エレノールをミルエルシ家に送って仕度させたのである。
「おお、ラーソルバール嬢、美しく仕上げられてきたな」
フェスバルハ伯爵が他の貴族との挨拶を終え、アントワールのもとへやってきた。次男のグリュエルのお披露目も兼ねているのだろう。
「フェスバルハ伯爵、お久しぶりでございます。色々とお世話になり、有り難く思っておりますし、色々とご迷惑をおかけし、申し訳なく思ってもおります」
ラーソルバールは深々と頭を下げた。
感謝してもしきれない。それだけの恩義があると思っている。
「何を仰るか。私がこの場に居られるのも、先日の件があればこそだ。例を言わねばならぬのはこちらの方だ」
快活に笑うが、場を弁え大きな声は出さない。
「それにな……」
伯爵はラーソルバールの耳元に顔を寄せる。
「陛下から内々に、年末に入れ替えとなる大臣就任の打診を頂いた」
小声で伝えられた内容にラーソルバールは驚き、喜んだ。
「まことでございますか!」
「しぃー、声が大きい」
伯爵に窘められ、ラーソルバールは口元に手を当てた。
「それはおめでとうございます……お受けになられるのですよね」
精一杯の慶びと様々な感謝を込めつつも、余所に聞こえぬよう小さな声で祝辞を述べる。
「重責だが、そのつもりだ……」
伯爵の言葉を聞いて、先程まで重かった気分が、一気に明るくなった。
陛下への陳情を依頼するなどという、大それた事をしたのだ。迷惑を掛けたと思っていた中にも、良い影響を与えていた事が有ったと知って、少し気が楽になった気がした。
「おや、フェスバルハ殿、美しいお嬢さんと楽しそうですな。確か、貴方に娘さんはいらっしゃらなかったと思うが」
声を掛けてきたのは、ナスターク侯爵、現軍務大臣だった。
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