85 / 439
第一部:第七章 部隊演習
(四)宴と戦慄の記憶②
しおりを挟む
寮に戻ってきた時には、すっかり日も沈んでいた。
皆、慌ただしく風呂に駆け込み汚れを落とすと、すぐに食堂へと急いだ。おかげでラーソルバールの希望だった「ゆっくり風呂に」という願いは叶わなかった。
食堂でエフィアナやアルディスと待ち合わせをしていたため、時間をかけている訳にはいかなかったからだ。
帰りの馬車で眠っているラーソルバールを支えていたエフィアナは、疲れているにかとのかと思いきや、意外にもご機嫌な様子だった。演習で勝ったからではなく、久し振りにラーソルバールと一緒に居た事が楽しかったらしい。
夕食のプレートを揃え、テーブルの一角を陣取ると、小さな宴が催された。
宴といっても、当然酒が出るわけでは無い。シェラ、フォルテシアを含めた五人の食卓だった。
エミーナは一班だったので、別のグループと一緒に食事をしている。
「無理言ってごめんなさい。本当は班での食事予定だったんじゃない?」
ラーソルバールはテーブルに額がつきそうな程頭を下げた。
「負けた側は結構険悪になる事が多いから、一緒にって感じにはなる事は少ないんだ」
「その代わり、我々の横にいつの間にか二班の連中が居るだろ」
エフィアナが苦笑した。
「当たり前だ、今日の勝利の立役者が居なくてどうする」
上機嫌で一人の学生が立ち上がった。二班の班長だったドラッセだった。
「負けた人間もここに居るんだぞ、ちょっとは配慮してくれよ……」
アルディスが無表情でパンを千切った。
「たまには負けるのもいいもんだろ?」
「俺はいいさ、けどこの娘たち二人は違う」
冷たい視線がドラッセを襲う。
「ごめんね、無神経な奴で」
エフィアナが追い討ちをかける。
シェラが微妙な雰囲気にオロオロした様子を見せたが、フォルテシアの表情は変わらないように見えた。
親友の素振りを見かねたラーソルバールが口を開く。
「周りは気にしないで、食べようよ」
無難な言い方しか出来なかった。
ラーソルバールはもともと人付き合いが上手な方ではないので、こういう場には弱い。少しはエラゼルのように堂々としていれば良いのだろうか、と一瞬考えた。
だが、この一言でようやく皆が落ち着いて食事を始めることができた。
「そういえばラーソルの見たという、オーガなんだが、この近辺での目撃例はほとんど無いよな」
隣の席の騒々しさを無視して、アルディスが切り出した。
「そうですね、常闇の森近辺ならそうでも無いのでしょうが」
スープを飲んで少し落ち着いたのか、シェラがアルディスの言葉に同意する。生物学を得意とする、彼女らしい言葉だった。
「常闇の森から迷い出た、と言うには遠すぎるしね」
エフィアナの言葉にラーソルバールは引っかかるものを感じた。
迷い出たのではなく、連れて来られたのだとしたら。
誰が、何のために……。
嫌な予感がした。
皆、慌ただしく風呂に駆け込み汚れを落とすと、すぐに食堂へと急いだ。おかげでラーソルバールの希望だった「ゆっくり風呂に」という願いは叶わなかった。
食堂でエフィアナやアルディスと待ち合わせをしていたため、時間をかけている訳にはいかなかったからだ。
帰りの馬車で眠っているラーソルバールを支えていたエフィアナは、疲れているにかとのかと思いきや、意外にもご機嫌な様子だった。演習で勝ったからではなく、久し振りにラーソルバールと一緒に居た事が楽しかったらしい。
夕食のプレートを揃え、テーブルの一角を陣取ると、小さな宴が催された。
宴といっても、当然酒が出るわけでは無い。シェラ、フォルテシアを含めた五人の食卓だった。
エミーナは一班だったので、別のグループと一緒に食事をしている。
「無理言ってごめんなさい。本当は班での食事予定だったんじゃない?」
ラーソルバールはテーブルに額がつきそうな程頭を下げた。
「負けた側は結構険悪になる事が多いから、一緒にって感じにはなる事は少ないんだ」
「その代わり、我々の横にいつの間にか二班の連中が居るだろ」
エフィアナが苦笑した。
「当たり前だ、今日の勝利の立役者が居なくてどうする」
上機嫌で一人の学生が立ち上がった。二班の班長だったドラッセだった。
「負けた人間もここに居るんだぞ、ちょっとは配慮してくれよ……」
アルディスが無表情でパンを千切った。
「たまには負けるのもいいもんだろ?」
「俺はいいさ、けどこの娘たち二人は違う」
冷たい視線がドラッセを襲う。
「ごめんね、無神経な奴で」
エフィアナが追い討ちをかける。
シェラが微妙な雰囲気にオロオロした様子を見せたが、フォルテシアの表情は変わらないように見えた。
親友の素振りを見かねたラーソルバールが口を開く。
「周りは気にしないで、食べようよ」
無難な言い方しか出来なかった。
ラーソルバールはもともと人付き合いが上手な方ではないので、こういう場には弱い。少しはエラゼルのように堂々としていれば良いのだろうか、と一瞬考えた。
だが、この一言でようやく皆が落ち着いて食事を始めることができた。
「そういえばラーソルの見たという、オーガなんだが、この近辺での目撃例はほとんど無いよな」
隣の席の騒々しさを無視して、アルディスが切り出した。
「そうですね、常闇の森近辺ならそうでも無いのでしょうが」
スープを飲んで少し落ち着いたのか、シェラがアルディスの言葉に同意する。生物学を得意とする、彼女らしい言葉だった。
「常闇の森から迷い出た、と言うには遠すぎるしね」
エフィアナの言葉にラーソルバールは引っかかるものを感じた。
迷い出たのではなく、連れて来られたのだとしたら。
誰が、何のために……。
嫌な予感がした。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました
山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。
でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。
そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。
長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。
脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、
「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」
「なりすましヒロインの娘」
と同じ世界です。
このお話は小説家になろうにも投稿しています
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話
ルジェ*
ファンタジー
婚約者である第二王子レオナルドの卒業記念パーティーで突然婚約破棄を突きつけられたレティシア・デ・シルエラ。同様に婚約破棄を告げられるレオナルドの側近達の婚約者達。皆唖然とする中、レオナルドは彼の隣に立つ平民ながらも稀有な魔法属性を持つセシリア・ビオレータにその場でプロポーズしてしまうが───
「は?ふざけんなよ。」
これは不運な彼女達が、レオナルド達に逆転勝利するお話。
********
「冒険がしたいので殿下とは結婚しません!」の元になった物です。メモの中で眠っていたのを見つけたのでこれも投稿します。R15は保険です。プロトタイプなので深掘りとか全くなくゆるゆる設定で雑に進んで行きます。ほぼ書きたいところだけ書いたような状態です。細かいことは気にしない方は宜しければ覗いてみてやってください!
*2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる