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第一部:第一章 夢への第一歩
(四)共に一歩③
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「そういや、もう一人の馬鹿は?」
思い出したようにガイザが続けた。
「フォッチョが来るわけないでしょ、昨日たまたま道で会ったら『大臣になったら、お前を妾にしてやるから、有りがたく思え』と言う位だもん、大臣狙いで、騎士には興味ないでしょ」
言うなり、ラーソルバールはむくれた。
即座に相手を睨んで、追い払っただろう事は、想像に難くない。
「あれが大臣になったら最悪だわ。って…ええと、フォッチョってのは、エンガス卿の馬鹿デブ息子ね」
今度はシェラのために、説明を入れることを忘れない。かなり酷い言い様ではあるが。
「エンガス卿? あー、袖の下局長か」
公務の消耗品購入の際に、商人から賄賂を受け取って私腹を肥やしている、という噂のある貴族である。
今のところ証拠が上がらず、そのままとなっている。当然評判は良くない。
「二人ともラーソルにご執心でね……」
呆れたようにガイザが話を続けると、ラーソルバールはムッとしたように起き上がった。
「会えば妾だ側室だのと……、失礼でしょ!」
「本妻ならいいのか?」
「そこじゃない!」
そのまま笑っていたら、危うくラーソルバールから、拳骨を食らうとところだった。
「仲がいいねぇ。」
二人を見てシェラは微笑んだ。
「そんなことない!」
二人が同時に否定したので、思わず三人で笑ってしまった。
ひとしきり笑って落ち着くと、シェラはハーブが僅かに香る茶を美味しそうに飲み、クッキーをつまむ。ラーソルバールも続くようにクッキーに手を伸ばした。
ほのかに甘いクッキーは、疲れた体には特別なご褒美だった。
「さて、全部終わったし、ゆっくりお茶とお菓子を満喫しようか」
そう言うガイザも、クッキーには目がない事をラーソルバールは知っている。
ラーソルバールは、一個目のクッキーをお茶で流し込むと、シェラの顔を見つめた。
「何かついてる?」
視線に気づくと、シェラは慌てて口の回りに手をあてる。
そんな仕草を見て、ラーソルバールは満面の笑みを浮かべた。
「ううん、違うよ。いい一日だったなぁって」
試験の他に、良い友ができた事が嬉しかった。 今日だけでなく、この先も一緒に居てくれるといいな、純粋にそう思えた。
暫し歓談した後、鐘の音が城下に響いた。
「さて、合格発表の時間だぞ!」
ガイザは待っていたかのように立ち上がった。
「そんなに気合入れてると、落ちた時恥ずかしいよ」
そう言うラーソルバール自身も、待ちに待ったその時が訪れ、高揚が抑えきれずにいた。
対照的にシェラは不安を隠すような、どこかぎこちない笑顔を作っている。
「大丈夫。シェラだって、手応えは有ったんでしょ。筆記だって良かったみたいだし。浮かない顔してると、くすぐっちゃうよ!」
ハッとした表情で、ラーソルバールに向き直るシェラ。
「ダメダメ! 私、くすぐられるの弱いの!」
「何と! ……ひっひっひ、ほらいくよー。」
「イヤー、やめてー!」
この賑やかさも、鐘の音が響いた後では周囲の喧騒に紛れ、人目を引くものにはならない。
皆が不安を押し殺していたのだろうか。鐘の音が期待と不安を混合し、噴出させたようで、そこかしこから、奇声や雄叫びのようなものが聞こえ始めた。
慌しい人の流れは、合格発表が貼り出される正門近くの学舎前へと向かっていく。
何かを呟きながら歩く者や、自信満々に胸を張って歩く者。それぞれが試験を終え、誰もが違った思いを抱えている。
流れに続いて歩いていくと、間もなく合格発表の掲示場所に着いた。
掲示には四桁の数字が、いくつも列記されていた。
受付番号三番。
先頭から探すことで、ラーソルバールはすぐに自分の番号を見つけることができた。
番号を見つけた瞬間、今まで手を伸ばしても届かなかった、どうしても手に入れたかった物に、ようやく指先が触れる事ができた気がした。
こみ上げて来る喜びの感情を抑えきれず、人に気付かれぬよう小さく拳を握った。そして、共に新たな一歩を踏み出す仲間たちが、笑顔に変わる瞬間を見て胸を撫で下ろすと、明日から変わるかもしれない生活に、思いを馳せていた。
思い出したようにガイザが続けた。
「フォッチョが来るわけないでしょ、昨日たまたま道で会ったら『大臣になったら、お前を妾にしてやるから、有りがたく思え』と言う位だもん、大臣狙いで、騎士には興味ないでしょ」
言うなり、ラーソルバールはむくれた。
即座に相手を睨んで、追い払っただろう事は、想像に難くない。
「あれが大臣になったら最悪だわ。って…ええと、フォッチョってのは、エンガス卿の馬鹿デブ息子ね」
今度はシェラのために、説明を入れることを忘れない。かなり酷い言い様ではあるが。
「エンガス卿? あー、袖の下局長か」
公務の消耗品購入の際に、商人から賄賂を受け取って私腹を肥やしている、という噂のある貴族である。
今のところ証拠が上がらず、そのままとなっている。当然評判は良くない。
「二人ともラーソルにご執心でね……」
呆れたようにガイザが話を続けると、ラーソルバールはムッとしたように起き上がった。
「会えば妾だ側室だのと……、失礼でしょ!」
「本妻ならいいのか?」
「そこじゃない!」
そのまま笑っていたら、危うくラーソルバールから、拳骨を食らうとところだった。
「仲がいいねぇ。」
二人を見てシェラは微笑んだ。
「そんなことない!」
二人が同時に否定したので、思わず三人で笑ってしまった。
ひとしきり笑って落ち着くと、シェラはハーブが僅かに香る茶を美味しそうに飲み、クッキーをつまむ。ラーソルバールも続くようにクッキーに手を伸ばした。
ほのかに甘いクッキーは、疲れた体には特別なご褒美だった。
「さて、全部終わったし、ゆっくりお茶とお菓子を満喫しようか」
そう言うガイザも、クッキーには目がない事をラーソルバールは知っている。
ラーソルバールは、一個目のクッキーをお茶で流し込むと、シェラの顔を見つめた。
「何かついてる?」
視線に気づくと、シェラは慌てて口の回りに手をあてる。
そんな仕草を見て、ラーソルバールは満面の笑みを浮かべた。
「ううん、違うよ。いい一日だったなぁって」
試験の他に、良い友ができた事が嬉しかった。 今日だけでなく、この先も一緒に居てくれるといいな、純粋にそう思えた。
暫し歓談した後、鐘の音が城下に響いた。
「さて、合格発表の時間だぞ!」
ガイザは待っていたかのように立ち上がった。
「そんなに気合入れてると、落ちた時恥ずかしいよ」
そう言うラーソルバール自身も、待ちに待ったその時が訪れ、高揚が抑えきれずにいた。
対照的にシェラは不安を隠すような、どこかぎこちない笑顔を作っている。
「大丈夫。シェラだって、手応えは有ったんでしょ。筆記だって良かったみたいだし。浮かない顔してると、くすぐっちゃうよ!」
ハッとした表情で、ラーソルバールに向き直るシェラ。
「ダメダメ! 私、くすぐられるの弱いの!」
「何と! ……ひっひっひ、ほらいくよー。」
「イヤー、やめてー!」
この賑やかさも、鐘の音が響いた後では周囲の喧騒に紛れ、人目を引くものにはならない。
皆が不安を押し殺していたのだろうか。鐘の音が期待と不安を混合し、噴出させたようで、そこかしこから、奇声や雄叫びのようなものが聞こえ始めた。
慌しい人の流れは、合格発表が貼り出される正門近くの学舎前へと向かっていく。
何かを呟きながら歩く者や、自信満々に胸を張って歩く者。それぞれが試験を終え、誰もが違った思いを抱えている。
流れに続いて歩いていくと、間もなく合格発表の掲示場所に着いた。
掲示には四桁の数字が、いくつも列記されていた。
受付番号三番。
先頭から探すことで、ラーソルバールはすぐに自分の番号を見つけることができた。
番号を見つけた瞬間、今まで手を伸ばしても届かなかった、どうしても手に入れたかった物に、ようやく指先が触れる事ができた気がした。
こみ上げて来る喜びの感情を抑えきれず、人に気付かれぬよう小さく拳を握った。そして、共に新たな一歩を踏み出す仲間たちが、笑顔に変わる瞬間を見て胸を撫で下ろすと、明日から変わるかもしれない生活に、思いを馳せていた。
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