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第2章 ハルシュライン編

第35話 平和な船旅

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これはハルシュライン王国での3時間後の出来事。

「待ってください女王様、これは娘のことを思うあまりのこと。どうかお許しを」

アルストロメリアの侯爵と共謀し、結婚相手を捻じ曲げたハルシュライン王国公爵は現在、女王であるアーデルハイドによって拘束されていた。

「いえ、あなたを許すことはできません。私の娘が傷つき嘆いているのです。ですから、あなたには死んでもらいます」

そういうとアーデルハイドは兵士たちに命令し、公爵家の血筋を全て断ってしまったのだった。




「アリス、まさか女王様を脅すとは……」

「あれくらいしなければレイ君を迎えに行けませんでした」

現在、船に乗っているのはアリス、ウィル、第3王子のリーベルトである。
また、騎士団や文官、メイドたちも乗船しており、その数は600人もの大所帯である。
これには理由があり、アリスがハルシュライン王国に行くことを止められないと悟った女王が、最終手段として用意したのが超大型船1隻、大型船2隻、中型船6隻の船団である。

アルもアリスを守るために着いて行こうとしたが。第1王子としての身分を考え、大人しく留守番をすることに決めたのだ。

(それにしても、船で3日は短いのか長いのかよくわからないですね)

「そういえば、アルストロメリア王国がある大陸はなんていう名前なんですか?」

アリスは無知を隠さずにウィルに質問をする。

「アルストロメリア王国がヴェルディア大陸にある国で、ハルシュライン王国がラインシュヴエルト大陸にある国です」

「なんか覚えにくそうな大陸名ですね」

「アリスはこれから常識を覚えていきましょうね」

アリスは自分がウィルに子供扱いされているのを感じ、暇なので悪戯をすることにする。

「ならウィルは女の子との恋愛を覚えなければなりませんね」

「なっ……なにを言っている……のですかアリス」

ウィルは恥ずかしそうに顔を赤くして動揺する。
そんな様子をメイドや騎士団の面々は温かいまなざしで見つめる。

「それにしても、船旅とは暇なものですね」

「こればかりは、どうにもなりません」

「なにか、しませんか」

「ならば、釣りでもしませんか」

ウィルが取り出したのは釣り竿ではなく網である。

「あのウィル、それは釣りではないのでは?」

「すいません、船が大きすぎて釣り糸は届きません。ですので、底引き網漁にしようかと」

(なんか、これじゃない感がすさまじいが暇なのでやってみることにする)

「ウィル、それならば投げてください」

「はい、わかりました」

ウィルは底引き網を海に投げ入れる。

「あの、ウィル。これ、どのくらい待つのでしょうか」

「私にもわかりません」

「騎士様。姫様、引き上げはこちらでいたしますので、取れた魚を見お楽しみください」

船員さんがそういってくらたので、アリス達は紅茶を飲みながら待つ。

アリスは暇すぎて、甲板で働く人々を眺める。
この船は魔道具なので魔力を自然界から吸収して動くため、帆がないので船員たちは船の掃除をしている。
他におもしろいものはないかと考えていると、アリスの目に甲板に寝て空を見上げるリーベルトが映った。

(なんか、心ここにあらずという感じですね)

アリスはリーベルトに近づき声をかける。

「あのどうかしましたか」

「あぁ、アリスさんですか……」

ローベルトはアリスを一瞬確認して、またすぐに空を見つめる。

(なんか、このままではダメそうですね)

「あのリーベルト君はエレオノーラさんのことが心配ですか?」

「はい、心配です。あのレイが近くにいるだけで殺意が湧いてきます」

(レイ君、再開したときにリーベルトに殴られると思います。止められなくてすいません)

「リーベルト君はそんなにエレオノーラさんのことが信用できませんか?」

「信用しています。でも、なにかあったらと思うと胸が締め付けられるんです!」

リーベルトは起き上がり胸を押さえて叫ぶ。
その声にウィルも駆け寄ってくる。

「落ち着いてください。リーベルト様、ここであなたが考えすぎて身体を壊してしまえば、結果的にエレオノーラ様が嘆き悲しみます。そんな姿は見たくはないでしょう?」

(おぉ、さすがは大人なウィルです。やはり言うことが違いますね)

「そうですね。さすがはウィルです。かないませんね」

「それではリーベルト君、おやつにしましょう」




リーベルトとウィルは後悔し、他の者たちは顔を青くしていた。
底引き網漁で様々な魚が取れる中、アリスは蛸を見つけたのだ。
これにアリスは喜び、現在調理中である。

「え~と、今回はタコのカルパッチョですね」

アリスは玉ねぎとタコを切り、オリーブオイルとレモン汁、塩、黒コショウ、ニンニクのすりおろしを入れ、混ぜ合わせる。

「うん、いい感じですね。あれ、なぜ皆は私から目を逸らすのですか?」

「アリス、生き物の命で遊ぶものではないよ」

ウィルはふざけてアリスが作ったと勘違いし注意する。

「なら私が食べます……もぐもぐ……我ながら完璧です」

周りがあまりの衝撃に固まる中、アリスはタコの刺さったフォークをウィルの口に近づける。

「アリス、さすがにこれは……」

ウィルはタコの見た目を思い出し、気持ち悪さに震える。

「婚約者の手料理ですよ。食べられますよね」

笑顔でタコを差し出すアリスの圧力に負け、ウィルは勇気を出してタコを食べる。

「んぐぅ……もぐもぐ……あれ美味しい」

ウィルは衝撃を受ける。
タコがここまで美味しいものだとは思ってもおらず、アリスからフォークを受け取ると、美味しそうにタコを食べる。

「みなさんも食べてください。美味しいですよ」

アリスは皿に入らなかったタコ20匹を使ったカルパッチョを皆に振る舞う。

「あれ、タコって美味しいんですね」

「あぁ、うまいなぁ」

「このコリコリ感がたまりませんね」

「酒が飲みたくなるな」

「うぐぅ……ごふぅ」

「美味しい」

「これは商売になるな」

皆は口々にタコの美味しさを語るが、中には苦手な者もいて海に吐き出すものもいる。

しかし、アリスがタコを食べたことによりアルストロメリア王国ではタコは食べ物と認識されるようになっていくのだった。
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