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24. 伯爵令息との話 (ルフェルウス視点)

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「ピンク頭……の話とやらも気になるが、リスティの話とは何だ?」

  ピンク頭の女の件なら、毎日のように行われる縦ロールとのいがみ合いの苦情だろうか?
  だが、リスティの話とは何だ?

「殿下。もし違ったら大変失礼な話かもしれませんが……」
「何だ。構わず言ってくれ」
「ありがとうございます。それでは遠慮なく。殿下、最近マゼランズ公爵令嬢……リスティ様は学園を休まれておりますよね?」
「……」

  やはり、そろそろ不審に思う者も出てくる時か。

「リスティ様は……行方を晦ましたのではありませんか?」
「……何故、そう思う?」

  私の返しに、エドワードは目を伏せながら言った。

「リスティ様と、少しだけお話をさせてもらった時間があったからそう思ったのです」
「リスティと?」
「はい」

  エドワードは頷いた。

「それは、私への伝言を預かった時の事か?」
「いえ、その後の事でございます。その時のリスティ様は……」
「リスティは……?」

  聞かなくても答えは一つだと思ったが聞かずにはいられない。

「酷く疲れた様子で、階段で足を踏み外しそうに……」
「!!」
「咄嗟に助けたので、怪我はありませんよ?」
「そ、そうか……ありがとう……」

  階段から?
  酷く疲れた様子……
  あぁ、私は本当にリスティの事、分かっていなかったんだな。
  
  (これで、好きだとか……よく言えたもんだ)

  自分のバカさ加減に腹が立つ。

「その後、少しお話をさせてもらいましたが……リスティ様の様子がどこか危うい感じがしましたので」
「危うい?」
「そうです。だから気になりました」
「……」

  私が「そうか……」と、呟きながら目を伏せるとエドワードは更に言った。

「殿下。リスティ様は殿下の気持ちに全く気付いておられませんでしたね」
「……あぁ。私がずっとはっきり言えずにいたせいだ」

  そして、リスティをたくさん悩ませてしまい、ようやく口にしたけれど逃げられた。

  (当然だ……)

「そうですか……好きな女性を前にして戸惑う気持ちは……俺も分かります」
「エドワード?」
「我儘で自分勝手な事ばかりする面倒な奴だと思ってたのに……泣き顔が可愛いなんて反則だし……反省した後は真っ直ぐな素直ないい子に育つし……何だよあれ、いちいち可愛すぎるんだよな……こっちの気持ちも知らずにさ……」
「おい、エドワード?」

  何だ?  誰の話をしてるんだ?? 
  正直言って怖いんだが。

「ハッ!  失礼しました……こっちの話です」
「そうか……」

  まぁ、この流れから言ってエドワードの”好きな女性”の話なのだろうが。

「この様子だと、リスティ様とは話が出来なかったようですね」
「……そうだな。そして私は大きく間違えた」
「殿下。リスティ様が疲れていた原因の一つであろう、ピンク……ファンファ男爵令嬢の事ですが」

  そう言えばリスティの話とあの女の話と言っていたな。

「……あの諍いの苦情か?」
「いや…………まぁ、それは無くはないですが、俺はあのピンク……ファンファ男爵令嬢をどうにかして欲しいのです」
「どういう事だ?」

  エドワードは語る。
  私が側近達を謹慎させた事で、ミッチェルが学園に来なくなったピンク頭は、次々と他の令息に迫っているのだと。

  (あぁ、縦ロールとの諍いで言っていたのはこれか)

「つまり……」
「俺も声をかけられた内の一人です」
「なるほど」
  
  あのピンクを断罪したいその気持ちは、激しく同意だ。
  あの女のやってきた事を罪に問うとすると……
  そんな事を頭の中で考えた時、エドワードがある物を差し出した。

「殿下。こちらを」
「これは?」
「ピンク……ファンファ男爵令嬢の行いについて、俺が調べまとめたものです。殿下は学園を休む事も多々ありましたから、知らない事も多いでしょう。そう思い出来る限り調べて来ました」
「……」

  エドワードは何故ここまでするのだろう?
  気にはなったが、内容の方が気になり手を取った。
  そして、目を通す。

  主に縦ロールとの諍いが多いが……
  そこで、ある一点に目が止まる。

「なぁ、エドワード。が気になるのだが、あの女は本当にそう口にしていたのか?」
「え? はい。そうですね。口にしているのは俺も聞きましたよ」
「……」

  (どういう事だ?  は私が受けた報告とは違う)

  つまり、あのピンク頭は常に嘘をついていた事になる。
  きっと、リスティも耳にして……
  いや、あの女の事だ。リスティに直接言っている可能性も……

「だが、そんな嘘をついて何になる…………あ!」

  ──そうですね、でも状況が変わりましたよね?

  ──やはり、こうなったからには、私はもうルフェルウス様の傍にはいない方がいいと思います。

  リスティが婚約破棄を口にした時、話が変だとは思った。
  こうなった……とは何だ?  そう思ったのに流してしまった。
  リスティはこのピンクの嘘を真に受けた状態で話をしていたのか!

  (本当にバカだな私は……)

「どうかしましたか?」
「いや……」

  やっと分かった。リスティが何故ピンク頭の女を推していたのか。
  だから……

「本当に私達は話し合いが全く足りていなかったのだと改めて思わされただけだ」

  リスティもリスティで、きっと混乱させられたのだろう。
  あのピンク頭は計算かどうかまでは知らないが、そこをうまく突いてきたんだ。
  それ以外にもあの女はリスティに対して酷い事を……
  そんな、疲れ切っていた所にさらに私が追い討ちをかけたのか。

「ありがとう、エドワード」
「いえ、これがお役に立てれば幸いです」
「しっかり使わせてもらうさ」

  ピンク頭の断罪はこれを元に進めるとして、やはり気になるのはリスティの行先だ。

  (……ん?  そう言えば)

  そこで、私はふと思い出す。

「なぁ、エドワードは、ニフラム伯爵家の者……だな?」
「そうですが?」
「それならばもう一つ……頼まれてくれないだろうか?」
「何でしょうか?」
「実は……」

  首を傾げるエドワードに私は頼み事をした。

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