上 下
18 / 37

17. ピンクの策略(?)から生まれる誤解

しおりを挟む

「……どうしてエレッセ様が王宮ここに?」

  自分の声がどこか引き攣っている気がする。
  表情も上手く笑えていない気がする。

「そんなの決まってますよぉ!  診察です、の」
「……!」

  エレッセ様はここ……と、を指してにっこり笑いながらそう言った。
 
「今日は念の為にと設けられた再診察の日だったんですけど、診断結果も出たので、ついでに殿下とお会いしてぇ……」
「ルフェルウス様に会ったの!?」 
 
  “診断結果”と聞いて私は思わず動揺し反応してしまった。
  毅然とした態度のままでいたかったのに。

  そんなエレッセ様は私の動揺を感じ取ったのか嬉しそうににんまりと笑う。

「ふふふ」
「……だから、ルフェルウス様に」
「ふっふふ~。そういう事ですよ。リスティ様」
「……」
「安心して下さいね!  私には困った時に助けてくれる人が、たーくさんいるんですから。大丈夫です!」
「!」

  助けてくれる人……それが誰の事を指しているのかは一目瞭然だった。





  その後の事はあまり覚えていない。
  私はそのまま部屋に戻ると、ルフェルウス様の上着を抱きしめながらしばらくの間、ぼんやりとしていた。
  やがてハッと我に返り、そろそろ屋敷に帰らなくてはと思ったのに全然足が動いてくれない。
  それでもどうにか気力だけで立ち上がった。

  ルフェルウス様には、
  上着のお礼と、大事な話があるので手が空いた時に時間を少しだけ下さい。
  とだけ書き残して私は王宮を後にした。



  (もう、お妃教育もおしまいね)

  勉強するのは好きだったので、それなりに楽しんでいたのだけど。
  寂しいなんて思うのはそのせい。
  ルフェルウス様と繋がりが切れてしまう事が寂しい……では断じて無い。

「あ、そっか。だから、マース様はわざわざ私の所へ来たのね」

  ちゃんとあの、身を引いてくれという話には根拠があったんだわ。
  ルフェルウス様の側近だもの。彼が知らないはずが無い。

  (エレッセ様にのせられた身勝手な言い分では無かったのだわ)



   ……そんな事を思いながら私は屋敷に帰った。




*****



「……リスティ。頼むからもう一度言ってくれないか?」
「ですから、私との婚約破棄をお願いします、と。いえ、この場合は了承致します……でしょうか?」
「!?」

  私のその言葉を聞いたルフェルウス様の顔がみるみるうちに青くなっていく。

「リスティ。この間、私は婚約破棄はしない、と言ったが?」
「そうですね、でも状況が変わりましたよね?」
「……?」

  あれ?
  どうして、ルフェルウス様、こんな反応になるのかしら?
  もう、話は聞いているはずよね?
  疑問に思いながらも私は話を続ける。

「やはり、こうなったからには、私はもうルフェルウス様の傍にはいない方がいいと思います」
「こうなった……?」

  また、反応が変だなと思いつつも話を続ける。

「マース様からルフェルウス様が妃は私以外に考えていないと口にしていたという話も聞きましたが……」
「は?  マースが?  何だって?  あいつ……」

  ルフェルウス様が少し動揺した。

「私は、ルフェルウス様とエレッセ様はお似合いだと思いますよ」
「!?  待て!  何故そこで、あのピンク色の女が出てくるんだ!?」
 
  ルフェルウス様が頭を抱えた。

  (よく分からない反応だわ……)

「……?  私の話はそれだけです。どうぞ話を進めて下さい。お忙しいのにお時間頂き、ありがとうございました」
「リスティ!」

  私は言いたい事は言えたので、一礼して部屋を出て行く。

  (婚約破棄……この間はつい口走っただけと言って無かった事になったけれど、今度は違う……)

  今度こそ私達の婚約関係はおしまいになる。

  (あれ?  でも、おかしいなぁ……やっぱり胸が痛い)


 

   ───後に私はこの時の事を激しく後悔する。

  この時の私はルフェルウス様にもっと確実にしっかりはっきりと話を聞くべきだった。

  決定的な言葉を口にしたくなくて曖昧な言い方をして濁してしまった。
  そのせいで、おかしな方向のまま話は進んでいった……
  ……私達の話は初めから噛み合っていなかったのに。



   ───これが、勘違いと誤解の始まりだった。




「は?  リスティ?  お前何を言っている?」
「ですから、近々、王家から……ルフェルウス様からお話があるはずです」

  その日の夜、私はお父様にルフェルウス様との婚約は無くなるはずだと伝えた。

「何を馬鹿な事を言っているんだ!  殿下との仲も悪いなんて話は聞いていないし、王妃教育もしっかり受けていて悪い評価も貰っていないはずだ!」
「……」

  しっかり報告した事は無かったのにお父様は私の日々の様子を知っていたらしい。
  油断も隙もない。

  (まぁ、それだけ私を王妃に……と期待してくれていたのでしょうけど) 

  けれど、残念ながらその期待には応えられない。

「ですが、ルフェルウス様……殿下は私以外の令嬢を娶る事になりますから」
「だから、何でそうなるんだ!」
「それはー……」

  私は現状をお父様に報告する。

「そんな話はどこからも聞いていないぞ!」
「だから、これから話が来ると言っているではありませんか」
「……ぐっ」

  お父様が押し黙る。

「そういうわけでお父様。私、しばらく学園も休もうと思います」
「何だと?」
「色々と騒ぎになる事は目に見えてますから。皆様の勉強の場を騒がせたくはないのです」

  (なんて言ってみるけれど、本当は私がルフェルウス様に会いたくないだけ)

  だって、エレッセ様と仲睦まじくする姿なんて見たくな──……

「おい!  リスティ?」
「と、とにかくお父様!  王家から破談の話が来たら素直に受けて下さいませね!  決して突っぱねたりしないで下さい!」

  それだけ言って私は部屋へと戻る。
  
  (私はどうして……)

  自分で自分の気持ちが分からず混乱した。





  そうして私は学園を休み、ルフェルウス様との接触も避けて過ごしていたのに。
  待てど暮らせど王家から“破談”の話がやって来ない。

「どういう事?」
「どういう事だ、リスティ」

  お父様にも詰め寄られる。
  だけど、そんなの私の方が聞きたい!

「なぁ、リスティ。お前の言っていたなんだがー……」

  と、お父様が何かを言いかけた時、執事が躊躇いがちに入室して来た。

「失礼致します、旦那様。実は……お客様がお見えです」
「客?  今日は訪問の予定は受けておらんぞ?  そんな失礼な奴は断れ」
「それが……お断りするのはちょっと……」

  そんな困るなんて、いったい誰が訪問したというの?

「どういう事だ?」
「その、お客様……いえ、訪問者はルフェルウス殿下なのでございます」
「「!!」」

  その言葉に私とお父様は顔を見合わせる。

  (ルフェルウス様……とうとう婚約破棄の話をしに来たのね)

  と思ったのに。
  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄!! 

❄️冬は つとめて
恋愛
国王主催の卒業生の祝賀会で、この国の王太子が婚約破棄の暴挙に出た。会場内で繰り広げられる婚約破棄の場に、王と王妃が現れようとしていた。

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

二人の妻に愛されていたはずだった

ぽんちゃん
恋愛
 傾いていた伯爵家を復興すべく尽力するジェフリーには、第一夫人のアナスタシアと第二夫人のクララ。そして、クララとの愛の結晶であるジェイクと共に幸せな日々を過ごしていた。  二人の妻に愛され、クララに似た可愛い跡継ぎに囲まれて、幸せの絶頂にいたジェフリー。  アナスタシアとの結婚記念日に会いにいくのだが、離縁が成立した書類が残されていた。    アナスタシアのことは愛しているし、もちろん彼女も自分を愛していたはずだ。  何かの間違いだと調べるうちに、真実に辿り着く。  全二十八話。  十六話あたりまで苦しい内容ですが、堪えて頂けたら幸いです(><)

【完結】4公爵令嬢は、この世から居なくなる為に、魔女の薬を飲んだ。王子様のキスで目覚めて、本当の愛を与えてもらった。

華蓮
恋愛
王子の婚約者マリアが、浮気をされ、公務だけすることに絶えることができず、魔女に会い、薬をもらって自死する。

だから、恋をする。

はるきりょう
恋愛
「だめだ」  通る声が一つ。低いその声は決して大きくないのに、絵梨の耳にしっかりと入った。 「お前、やっぱ、俺と付き合え」 「おいおい、健。もういいじゃん。別の罰ゲーム考えるからさ」 「いやだね。俺はこいつを惚れさせてやる。んでもって、俺からふってやるよ」  黒い笑みを浮かべた健に絵梨は一歩後ずさった。それを追いかけるように健が一歩を大きく出す。 「覚悟しろよ」 ※小説家になろうサイト様にも掲載しています。 ※以前投稿している「好きになったのは、最低な人でした。」の譲が少し出てきます。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

処理中です...