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32. “その日”が来るまで
しおりを挟む「そのまさかだよ、ミリアンヌ。その麻薬は過剰摂取するとやがて死に至る」
「!!」
「それも今すぐにどうこうなるものでは無く、この麻薬はジワジワとゆっくり体内を蝕んでいくものだ」
「え、それってつまり……」
「他の者達と違って、短期間に過剰摂取していたお前の身体は今もどんどん蝕まれていっている所だな」
ミリアンヌさんの顔が引き攣った。
対するフォレックス様の顔はとてもいい笑顔。
「……嘘……で、しょう?」
青ざめたミリアンヌさんが震える声で聞くけれど、フォレックス様は無情な言葉を返すだけだった。
「こんな事で嘘をついてどうする?」
「だって、私は家の庭にあった花を使って香水を作った、だけ……麻薬なんて……」
「……家の庭の花だったのか」
ミリアンヌさんのその言葉にフォレックス様は、彼女の家の庭の花達を調べろと指示を飛ばす。
「リーツェへの殺害未遂。麻薬成分を含んだ香水の作成と使用、あぁ、あとその香水を作成する為に無水エタノールを学園の医務室から盗んでいたな。窃盗罪も追加か……」
「っっ! どうして……それを!?」
ミリアンヌさんは驚愕していた。
あの日の盗みはバレていないと思っていたらしい。
「単なる偶然ではあったがその場にいたからに決まっているだろう? 人がいないと思ったのかろくな確認もせずに堂々と盗んでいたな」
「あ、あの時……医務室にフォレックス、様が……?」
「正確には俺とリーツェが、だが」
「リーツェ……様……も?」
ミリアンヌさんは、またあんたなの? という目を私に向けた。
「やっぱり、リーツェ様は私の邪魔をするのね……」
「どうしてそうなるの!」
「だって……もうシナリオは滅茶苦茶……全部リーツェ様のせいよ! やっぱり、あなたがおかしくさせたのよ!!」
「私のせいにしないで! 全部あなたの自業自得でしょう!?」
睨まれたので私も睨み返しながら答える。
そこにフォレックス様が私を庇うように間に入った。
「リーツェを睨んでも無駄だ! この事はとっくに学園にも報告済みだ」
「な!」
「まぁ、お前が今後学園に通う事はもう無いだろうが」
「!!」
窃盗罪以前に、もうミリアンヌさんの退学処分は免れない。
それに薬に蝕まれた身体では……
自身もその事を察したのか真っ青な顔をしたミリアンヌさんはまたしても叫ぶ。
「あぁ、もう! それならいっそ一思いに今、さっさと処刑しちゃってよ! そうすればきっとまた……!」
「遅効性の麻薬で良かったよ。俺は今すぐお前に死なれると困ると思っていたんだ」
「え……?」
ミリアンヌさんは、何で? と小さな声で呟く。
「この世界には説明出来ない変な力が働いているのは本当の事だろう。それがお前の為の働きなのかは知らないが。だが、俺はもう戻されるのは勘弁だ!」
「……っ」
「お前の事だ。今、ここで処刑でもされて死んでしまえばまた戻るはず。そう思っているんだろ?」
「そ、そうよ! だって私が幸せになる為の世界なんだから、私が理不尽に死ぬ事になれば……きっと!」
ミリアンヌさんは前回の人生で幸せになる事が出来ずにフォレックス様の手によって処刑されてしまった。
だから、今度こそ自分が幸せになる為に時は巻き戻り、また同じ目にあえば再び同じ事が起こるはずだと主張したいらしい。
「そのこと事態は否定しない。実際思い返せば、この巻き戻りはお前の刑が執行されたすぐ後に起きた事だったからな」
「……でしょう!?」
その言葉にミリアンヌさんの顔が気色ばむ。
期待を持ったのだと思う。
でも、当然だけどそんな事を許すフォレックス様では無い。
「だからだよ。そんな事は絶対にさせない! 俺はこの先の未来をリーツェと共に生きていくと決めているんだ!」
フォレックス様は私を抱き寄せながらそう宣言した。
「フォレックス様……」
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私が微笑みながら答えるとフォレックス様も嬉しそうに笑った。
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「ふふ、そうね!」
まだ子供すらいないのに何故か孫の代まで話が飛び、そんな未来を想像しながら思わず笑い合っていたら、またしてもミリアンヌさんが叫び声をあげた。
「っっっ! 何ですぐイチャイチャし始めるのよぉぉ!! しかも何なのよ、その妄想はぁぁ!」
「何度も言わないと分からないのか? リーツェを愛してるからだ。愛しいリーツェとの未来を想像する事の何が悪いんだ?」
フォレックス様は大真面目な顔をしてそんな事を語る。
「ふざけないでよ! 私には未来が無いような事を言っておいて……!」
「だって無いだろう? お前の未来。これは全て自業自得だ」
「ひ、酷い……」
ミリアンヌさんがガクッと項垂れた。
「そう言えば、前回の最期に言っていたな。エンディング目前だったのに、と。確か完全にハッピーエンドとなるはずだった……とも言っていたか」
「あ、あれは……」
ミリアンヌさんの顔を見る限り本当に口にしたのだろう。
そしてその顔はどこか焦っているようにも見える。
「だから思ったんだ。お前の言っていたその日に意味があるのだろうとな。だから、その日が過ぎるまではお前には生きていてもらわないと困るんだよ」
「……っっ」
フォレックス様は最後にとてもいい笑顔でミリアンヌさんに言った。
「丁度いい頃合だろうな。まさにその日が過ぎる頃にはいい具合にお前の身体も弱っているだろう」
「っっっ!」
それは明らかな死刑宣告で。
ミリアンヌさんの顔には絶望の色が浮かんだ。
──今度は楽には死なせない。せいぜいその時まで苦しめ。
フォレックス様の目は間違いなくそう言っていた。
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