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取り戻せた愛しい人 (フォレックス視点)
しおりを挟む不覚にも、リーツェや皆の前で泣いてしまった。
ずっと願っては砕かれ諦めたくても諦められず、それでも手を伸ばし続けたリーツェが……俺を愛している、そう言った。
俺を好きになった事で奪われたリーツェの記憶。
記憶を取り戻したリーツェはもう大丈夫だと言って笑った。
(リーツェが今度こそ本当に俺の元に……戻って来た……)
その事を実感したら、涙が自然と溢れていた。
俺の事を好きだ、愛していると伝えてくれるリーツェの事がますます愛しくて堪らない。
焦がれて手に入れて奪われて失って、何度絶望を味わってもそれでも諦めきれなかったリーツェがこうして俺の腕の中にいる。
俺は嬉しくて何度も何度もリーツェの唇を奪う。
「あふっ……フォ、フォレックス様……あの、息が……」
「……うん」
息が苦しいんだろうな、と言うのは分かっている。
それでも止められない。
(やっと堂々とリーツェに触れられる)
スチュアートの婚約者だった頃のリーツェにも隙あらば触れては来たけれど、どうしても限度があった。俺との不貞を疑われてリーツェが叩かれるなんて冗談じゃないからだ。
だが、今こうして無事にスチュアートと婚約破棄したリーツェは、記憶も取り戻し再び俺の求婚を受け入れてくれた。
あとは、ミゼット公爵の許可さえ貰えれば、今度こそ名実共に俺の婚約者だと大っぴらに出来る!
(婚約期間なんていらないくらいさっさと結婚してしまいたい)
こういう時は王族は面倒だな、と思わなくもないが、公爵令嬢のリーツェを手に入れられる身分である事は有難いわけだし……と、ごちゃごちゃ考える。
「……フォレックス様?」
難しい顔をした俺をリーツェが甘く蕩けた顔をしながら見つめて呼んでくる。
(可愛いな……本当に可愛い)
でも、そんな蕩けそうな目で俺を見たらダメだぞ! リーツェ!
俺だけの知ってる、知る事の出来るその顔、その声……
止まらなくなる……
「リーツェ……」
「?」
俺はリーツェの首筋に顔を近付けてそっとそこに唇を寄せる。
チュッと吸いつくようなキスを落としそこに俺の跡を残す。
リーツェは案の定、動揺した。
「!? フォレックス様!? な、何を……!?」
「んー……リーツェに俺の跡を残したくて?」
「だ、だからと言って、い、今のは! さ、さすがに……!」
真っ赤になるリーツェも可愛いなぁ。
そんな顔をされても、もっとしたくなるだけなんだけどなぁ……
でも、リーツェの嫌がる事はしたくない。
(今はこれで充分だ)
「ごめんごめん」
「その顔! 絶対に悪いなんて思ってないですよね!?」
「ははは」
さすが、リーツェ。
「リーツェ、可愛い」
「え? いえ、そういう事ではなくてですねっ…………あっ!」
俺は愛しい愛しいリーツェを抱き寄せ、再び唇を重ねる。
リーツェの温もりを感じながら辛かったあの前回の人生の記憶に思いを馳せた。
────……
冷たくなったリーツェと対面しスチュアートを問い詰めた所であの女と対峙し、処刑台に送ってやる! と宣言した俺は必死にアイツらを追い詰める事だけに専念した。
すると不思議と初めに聞き取った人達の、リーツェの罪とされていた証言が段々と曖昧になって来る。
『いえ。多分、あれはリーツェ様だったかと……思います……が? ん?』
『あれ? でも、本当にリーツェ様だったかな? なんか違う様な気も』
何かが剥がれかけている。そう思った。
そうして俺は見つけた。
重要参考人を。
『た…………確かに、わ、私が……ミリアンヌさん……を階段から突き落としました……』
震える声でそう話す女。
この女こそ、リーツェの最大の罪とされた“ミリアンヌへの階段突き落とし”の実行犯だった。
『今まで、雲隠れしていたくせに随分と素直に認めるんだな』
『……』
この女を匿っていたのはスチュアートだった。
スチュアートが妙な動きをしており調べさせた所、どうも女性を囲っているとの報告が届いた。
あの女に夢中なはずのスチュアートが他の女を? どういう事だ?
ますます不思議に思い調べさせ、ようやくこの女の存在が発覚した。
『で、ですが……ほ、本当はよく覚えて……いないの……です』
『はぁ?』
『気付いたらミリアンヌさんを……突き飛ばしていて……そこにスチュアート殿下がやって来て……“お前はリーツェ・ミゼット公爵令嬢に頼まれてこんな事をしたんだな!?”と詰め寄られて……何故か、はい……と答えていました』
『……』
『その証言を……公の場でするのなら、罪には問わない……スチュアート殿下にそう言われて……ミリアンヌさんも、それなら水に流すわ、と……』
『……』
『“いいか! 絶対にそう言うんだぞ。言わなかったらどうなるか……分かるな?”……二人は……私を……そう脅して……』
どうやら利用されたらしいこの女は、震えながらそう証言した。
そして、この女の証言を皮切りに他にもリーツェの罪とされていたものの証拠がボロボロと崩れだしていく。
その証拠を持って俺はスチュアートとミリアンヌを宣言通り処刑台に送る事が出来たのだが。
『何でよ!? 嘘でしょ! どうして私がこんな目にあうのよ!?』
その瞬間までミリアンヌはずっと叫んでいた。
『どこで狂ったの!? もうエンディング目前だったのよ!! 明日……プロポーズされるはずで……そしたら完全なハッピーエンドに……何でよぉ……これじゃバッドエンドと同じじゃないのーー』
最期まで言ってる事が意味不明の女だった。
そうして、ミリアンヌとスチュアートの最期を見届けた俺はリーツェが眠る墓を訪ねた。
手を合わせながら俺は報告する。
『リーツェ……全部終わったよ。とりあえずアイツらは地獄に送っておいたから。地獄だから、リーツェとは顔を合わせる事はないと思うが……』
復讐を終えても残るのは虚しい気持ちだけ。
だって、こんな事をしてもリーツェは帰って来ない。
『俺はこの先、リーツェのいない人生を生きていかなきゃならないのかな?』
スチュアートがいなくなった事で、王位継承権は俺に移った。
俺達は二人兄弟。他に兄弟はいない。もう俺しかいない……
『リーツェが王妃になってくれるんだったら俺はどんな事でも頑張れる気がするのにな……って、うわ、何だ!? 眩しっ……!』
そんな一言を呟いた後、突然眩しい光に包まれた。
そして次に目をあけると───
─────……
「フォレックス様、どうかしましたか?」
「ん?」
目の前でリーツェが不思議そうな顔をして俺を見ている。
頬が赤いのは襲いすぎたからか。
夢じゃない。俺の腕の中にいるリーツェは夢じゃない……
巻き戻り、生きているリーツェと会えて、そして今こうしているのは、決して俺の夢ではない。
(だって、リーツェはこんなにも温かい)
「リーツェが俺の腕の中にいる幸せを噛み締めていた」
「……」
俺がそう答えるとリーツェはちょっとはにかんだ笑顔を見せながら言った。
「私と同じですね」
と。
その笑顔はめちゃくちゃ可愛くて俺は再び泣きそうになった。
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