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27. 甦る記憶と三度目の求婚
しおりを挟む「リ、リ、リーツェ!?」
何を!? とフォレックス様が顔を真っ赤にして動揺している。
いつものカッコいい姿も好きだけど、こういう所も好きだわ。そう思う。
好き! フォレックス様の事が大好き!!
そう口にしたかったけれど、フォレックス様との約束だから私は口を噤む。
──少しずつでいい。俺を見て?
──スチュアートではなく、俺を見て欲しい。
あの言葉の後にフォレックス様は私の耳元でそっと囁いた。
──だけど、お願いだ。決して──……
“決して俺の事を好きだとは口にしないでくれ”
言われた時は意味が分からなかった。
自分を見てくれと懇願しておきながら、なぜ、好きだと言われたくないのか。
(でも、今なら分かる……)
時が戻ったり、私の記憶が支離滅裂になったり……この世界はどこか謎の見えない不思議な力が働いている。
フォレックス様もこれまでにきっとこれは……と思う事があったのだろう。
それが、私から“好きだ”と言われてはいけないという事なのだと思った。
おそらく私はフォレックス様に“好きだ”と言ってしまうと記憶がおかしくなるのではないかしら。
(好きな人に好きと言えないなんて、これは何の罰なのよ)
悔しい。
スチュアート様と婚約している時は当然この気持ちは口に出来ず、晴れて婚約破棄となっても許されないなんて。
この世界はよっぽど私の事が嫌いらしい。
それでもフォレックス様に伝えたい。
(頬にキスなら親愛の意味にも受け取れるからきっと大丈夫。おかしな事にはならない)
手探り状態な今の私にはこれが精一杯だった。
「ほ、本当に、急にどうしたの? リーツェ……」
「……」
私はそっと唇を離すとフォレックス様の目を見て微笑んだ。
「……! リーツェ、その顔」
フォレックス様がハッと何かに気付いた様子を見せる。
「顔? 私はいつも通りですよ?」
「うん……そうだね。でも、本当に頭……痛くないんだよね?」
「えぇ。今まで痛みが頻繁に起きていた事が嘘みたいにスッキリしていますけど?」
「……なら、もういいのかな」
そう言ったフォレックス様はじっと私を見つめた後、くいっと私の顎を持ち上げる。
「?」
(なに……?)
そう思う間もなく、フォレックス様の顔が近付いて来て私の唇にそっと柔らかいものが触れた。
「!!」
──初めて……のようで多分、初めてではない、私とフォレックス様の口付けだった。
(私の心と身体が“懐かしい”そう言っている……)
──あぁ、そうだった。
私とフォレックス様は互いを想い合っていて……それで婚約を決めて……
どこかバラバラだった私の記憶が埋まっていく。
初めて好きだと言われた時のこと。
私が自分の気持ちに気付いて想いを告げた時のこと。
こうして、初めてキスをした時のこと。
そして───……
「……リーツェ。俺は君が好きだよ」
「っ!」
唇を離したフォレックス様がそう口にする。
「ずっとずっとずっと……好きだよ。例えリーツェが何度忘れてしまっても」
「あの、フォレックス様、私……」
互いに見つめ合っていたら、
ウォッホンと大きな咳払いか聞こえて私達はハッと我に返る。
「……」
「……」
おそるおそるそちらに顔を向けると……
陛下と王妃様がやれやれ顔でこっちを見ていた。
「「!!」」
(そうだった! この部屋には陛下と王妃様と……ついでに元婚約者も居たんだった!!)
「バカ息子に説教をしている間に、もう一人の息子はどうしてるのかと思って見てみれば……まさかのラブシーン……」
「お互いしか見えてなかったわねぇ。若いわぁ」
陛下は呆れ王妃様は楽しそうに笑い、スチュアート様は青ざめてその場でプルプルと震えていた。
(俺の前で何してんだー! とか言い出しそうなそうな顔をしているわ)
「も、申し訳ない」
「申し訳ございません!」
私とフォレックス様は、二人揃って頭を下げる。
そんな私達をやれやれと見下ろしながら、陛下はフォレックス様に声をかけた。
「フォレックス」
「はい」
「ちゃんと正式に申し込んだのか?」
「……い、え……それは、まだ」
フォレックス様の目が泳ぐ。何かを躊躇っている様子だ。
「人前であそこまでイチャイチャしておいて今更何を躊躇っているんだ! する気があるなら早くしろ」
「うっ……」
「いいのか? 今なら我と王妃が証人となれるぞ? また何かおかしな事が起きても我と王妃が証人になれると思うが今を逃して良いのか?」
「……っ」
その言葉を受けて、フォレックス様の顔つきが変わる。
そして、大きく深呼吸をした後、私の前に跪くと私の手を取りながら言った。
「リーツェ・ミゼット公爵令嬢」
「は、はい」
「俺の気持ちは、さっきも伝えた通りだ。俺は君の事が昔からずっとずっと大好きで……愛している」
「……は、い」
私が思い出した記憶も、間違いないと言っている。
フォレックス様はずっと子供の頃から私の事を真っ直ぐ見続けてくれていた。
「だから、どうか俺の……フォレックス・ラッフェンバルの妃となって欲しい」
「!」
フォレックス様は私の手の甲にキスを落としながらそう言った。
「フォレックス様……」
「はは……プロポーズは何度しても……その恥ずかしいものだな……」
「!」
フォレックス様は恥ずかしそうに小さな声でそう呟いた。
「……初めては、子供の頃の『もしも僕がリーツェの中の1番になれたらその時は僕のお嫁さんになって!』でしたね?」
「っっ!」
「よく意味が分からないまま、あの時の私は頷いてしまったんですけどね」
子供すぎたわ……私。
「二度目は薔薇の花束と共に言ってくれました……私はそれを笑顔で受け入れた。フォレックス様の婚約者になれる事が……とても嬉しかった」
「リーツェ……覚えて……いる、のか?」
私の記憶を確認するフォレックス様の声が震えている。
その顔はまさか信じられない……そう言っているみたいだ。
「覚えています……いえ、違いますね。全部、思い出しました」
「リーツェ!」
私の手を握っているフォレックス様の力がぐっと強くなった。
「ありがとうございます、フォレックス様。ずっとずっと私を……こんな事になった私を想い続けてくれて」
私はきれいさっぱり忘れてしまったのに。
それだけではなく、私は自分が恋する相手をフォレックス様ではない別人だと思い込んでしまった。
それなのに!
(フォレックス様は今日までどんな思いで私を見守ってきてくれたの?)
だから私はフォレックス様の想いに応えたい。
だって、私もずっとずっと好きだったんだもの。
──今度こそ、幸せになってもいいでしょう?
私はあの人達が言うような“悪役令嬢”なんかじゃない!
ただのフォレックス様に恋する、リーツェ・ミゼットだもの。
「……フォレックス様、ありがとうございます。どうか私をあなたの……フォレックス様の唯一の人にしてください」
私はそう言って握られていた手をギュッと握り返す。
「リーツェ!」
「……あ、愛しているのです、フォレックス様」
「え?」
「私もあなたを……フォレックス様を愛しています」
それだけ言って私はフォレックス様に自分から抱き着いた。
「リ、リーツェ……!」
驚いたフォレックス様の行き場の無い手がオロオロとさ迷っている。
口にしないという約束を破ってしまってごめんなさい……フォレックス様。
(でも、今度こそ私は奪われたりしない! もう二度と絶対にあなたを忘れたりしないから!!)
私のこの気持ちは、もう見えない何かに負けたりしない!
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