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26. 元婚約者への断罪と自分の気持ち

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  さすがに陛下達の登場に、スチュアート様も先程までのように強気ではいられなくなったようで、顔を真っ青にしてその場で硬直していた。

「……フォレックスが、珍しく必死になって頼み込んできたからついて来てみれば!」
「とんでもない数々の暴言と……女性に手をあげようとしていたわね?」
「そ、れは……」

  陛下と王妃様に睨まれてスチュアート様は縮こまった。

「あのおかしな代物にやられて、少しおかしくなっているだけだと思っていたが……どうもそれだけでは無さそうだな」
「お、おかしな代物?」
「……」

  もちろん、香水の事を指しているのだけど、スチュアート様はそれが何か分からなかったらしく聞き返していたけれど、陛下は答えなかった。

  (スチュアート様は自分が香水の香りでおかしくなったという自覚は無いのね)

  これはますます本当に境界線が分からない。

「スチュアート。残念だがお前が熱を上げていた女性同様に、お前にも厳しい処罰が必要なようだ」
「……俺に処罰?  ミリアンヌ同様に、とは……?」
「あぁ、知らなかったのか。お前が熱心に愛を囁いていたあの女性は現在、拘束されている」
「ミ、ミリアンヌがですか!?  何故ですか!!」

  スチュアート様が顔を真っ青にして叫ぶ。
  どうやら軟禁状態のスチュアート様にミリアンヌさんの事は誰も教えていなかったらしい。

「殺人未遂だ」
「さ、殺人未遂!?  まさか!  何かの間違いです!  そもそもあの清らかなミリアンヌがどこの誰を殺そうとすると言うんですか!」

  スチュアート様はさっきりも酷い顔色て陛下に縋り付くようにして訊ねる。
  そんな息子の様子に陛下はため息を吐きながら答えた。

「……お前と同じだ、スチュアート」
「え?」
「お前達は揃いも揃って何なのだ?  いったいミゼット公爵令嬢がお前達に何をしたというのか」
「ま、さか……ミリアンヌも……」

  スチュアート様の視線が私に向く。そんな彼の身体はブルブルと震えていた。

「平民の女性が公爵令嬢を害そうとした。その罪の重さはお前ならよく分かるだろう?」
「こ、これは何かの間違いです!  陰謀です!  ミリアンヌがそんな事するはずが無い!  そうだ……これも、リーツェが……!  リーツェがミリアンヌを陥れる為にやったに違いありません!」

  スチュアート様は盲目的にミリアンヌさんを信じきっているようで、私に罪を擦り付けようとする。

「何を言っているんだ!  その現場は目撃者も多くいて証拠もしっかり揃っている。罪を逃れる事は出来んわ!」
「いい加減にしなさい!!  あの女性が絡むと本当にあなたは愚かになるみたいね!?」

  陛下と王妃様に怒鳴られたスチュアート様は茫然自失となる。

「そ、んな……嘘、だ……」
「そして、今度はお前だ。この大馬鹿者め!  ミゼット公爵令嬢がお前を叩いた事を責める前に自分のしたこれまでの言動と行動を振り返ってみろ!」
「……」

  スチュアート様はその場に膝から崩れ落ちる。
  私はその光景を唖然として眺めているだけだった。

「……フォレックス様」
「何かな」

  私は隣に並んで立っているフォレックス様の服の裾を掴みながら声をかける。

「陛下達は……」
「そうだよ、俺が連れて来た。忙しい二人だからちょっと手間取ったけどね」
「……」

  さっき言っていたのはこの事かと納得する。

「リーツェがスチュアートに会いに行くと聞いて思ったんだ。リーツェと会ったスチュアートは、どうせろくな事しか言わないだろうから、父上達にはそれを見せるのが一番早いだろうと」

  その通りだと、私はうんうんと頷く。

「父上達は、スチュアートがおかしいのは香水のせいに違いないと、まだどこか信じていたようだったしね」
「……どこまでが香水の影響で、どこまでがスチュアート様の本心なのかは私にも正直よく分かりません」
「それは同感。でも、」
「でも?」
「おそらくだけど、もう香水の影響はそんなに残っていないと思うんだよ」

  フォレックス様はミリアンヌさんを捕らえた後、香水を取り上げて色々調べたらしい。ついでにミリアンヌさんの香りに影響を受けた人も調べたみたいだけど、皆、時間が経つにつれ元に戻っていると言う。

  (もともと、効き目も効果も個人差があったみたいだし……)

「まぁ、そんなスチュアートはどうもあの女が捕まった事の方がショックが大きいみたいだから、よっぽど惚れ込んでいたのかな」

  フォレックス様はその場で項垂れているスチュアート様を見ながら言う。

「リーツェ。父上は公明正大な人だからスチュアートを決して許さないだろう。母上は女性に手をあげようとする奴が大嫌いなんだ……だからスチュアートは終わりだよ」

  フォレックス様が優しい手つきで私の頬に触れる。

  (びっくりした!  し、心臓が……飛び出しそう)

「でもさ、実はちょっとだけ……怖かった」
「怖かった?」
「うん、リーツェがスチュアートに気持ちを残していたら、俺のしようとしている事はリーツェを傷付けてしまうのかも……そう思ったらね」
「フォレックス様……」

  そうだった。
  私はただ、スチュアート様に会いたい。
  それしか言わなかったから、フォレックス様からすれば何の為に会うのか不安だったのかもしれない。

「決別する為に会いたかったのです」

  あとは自分の気持ちを確かめるため──……
  ちゃんと分かった。スチュアート様の顔を見てすぐに思った。

   (違う!  スチュアート様この人では無い!  って)

  私が好きなのはフォレックス様で。
  ずっとずっと好きだったのもフォレックス様。

  記憶の中ではスチュアート様だった物事は、夢で見た時のようにフォレックス様が相手だったというのがきっと正しい。

「…………」

  あれ?
  ちょっと待って??  それってあのキスをした夢。
  あれが現実にあった出来事だとするとー……あの相手は。

「!!」
「リーツェ!?  どうしたの?  って顔が赤い」

  突然、私の顔が真っ赤になったからかフォレックス様が慌て出す。

「うぁ、あの……こ、これは……」
「熱?  あ! また、頭痛がとか言うんじゃ……」
「ね、熱も無いです!  頭も痛くないです!!  私はピンピンしてます!!」

  心配して眉を顰めるフォレックス様に安心して欲しくて私は叫ぶ。

  ただただフォレックス様のこれまでの言動や行動の数々の裏にあったものと、自分の気持ちに驚いたら動揺しただけ。

「リーツェ?  本当に大丈ー……」
「フォレックス様……」
「ん?」

  私の呼び掛けに優しい笑顔を向けてくれるフォレックス様。
  それだけで胸がキュンとし、フォレックス様の事を好きだなと思う。

  (私の心も気持ちも間違いない。そして私はもう二度と自分の気持ちを間違えたくない!)

  私は少し背伸びをしてそっとフォレックス様の頬にキスをした。


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