11 / 45
10. それぞれの思いと思惑と
しおりを挟む前の人生の事とか、今世はミリアンヌさんに関わりたくないとか、お小言を言うのは止めようとか……
そんなごちゃごちゃ考えていた事が一瞬で吹き飛んで私は咄嗟に動いてしまっていた。
「名前だって何故あなたが気安く呼んでいるの!?」
「え、えーっと、あく……じゃない、リーツェ様……?」
ミリアンヌさんが戸惑っている。
その困惑する表情を見て私はハッと気付く。
(ミリアンヌさんのこの顔は以前もよく見た──)
前にスチュアート様の事で私が小言を言っていた時によく見せた表情……
しまった! 結局、私は同じ事をしてしまっている。
この事だって罪の一つにされたのに!
せっかくやり直す機会を与えられても同じ事をするなんて……私は大馬鹿だわ。
でも“嫌だ!”そう思う気持ちが止まらなくて──
「だからー……」
「リーツェ」
「!?」
そこまで言いかけたら突然、私の口を塞ぐようにフワリと後ろから抱きしめられたので、びっくりして言葉を失った。
私にこんな事をするのは一人だけ……フォレックス様だけだ。
「うーん、本当に困った我儘なお嬢様だなぁ」
フォレックス様がおどけた声でそんな事を言う。
「なっ! 我儘なんかじゃ……」
「いや、我儘だろう………………可愛い我儘だけど」
「!」
フォレックス様は後半は私にだけ聞こえるように耳元で囁いた。
「そういうわけで、ミリアンヌ嬢。どうもリーツェ嬢は独占欲が強いみたいだから、気安く俺には触れないでもらおうかな。これ以上癇癪を起こされると俺も迷惑だし大変なんでね」
「まぁ! さすが、あく……いえ、大変なんですね?」
ミリアンヌさんは驚きの声をあげる。ちょっと嬉しそう?
「だけど、彼女の言う事も一理ある。俺もスチュアートも王族だ。スチュアートは君に名前で呼ぶ事を許可をしたのかもしれないけれど、俺は君に名前で呼ぶ許可を与えた覚えはないからね」
「え? あ……も、申し訳ございません……殿下」
ミリアンヌさんはあまり納得がいってないようだけれど渋々、謝罪していた。
「それでは、俺達はもう行くよ。あとはお前がしっかりしてくれ、スチュアート。何の為に彼女の面倒を見る事になったんだ? こういう教育の為だろう?」
「あ、あぁ……すまない、フォレックス」
「頼んだよ。それじゃ、行こうか。リーツェ」
何だか頼りない返事をするスチュアート様と腑に落ちない表情をするミリアンヌさんを置いてフォレックス様は私の肩を抱いて歩き出す。
「あ、あの? フォレックス様?」
「……」
私の肩を抱いたまま、フォレックス様は無言で歩き続ける。
(何か言って欲しい……)
そうして、歩き続けて校舎の影に入った所で、肩から手が離されたと思ったら今度は正面から抱きしめられた。
「フォレックス様!?」
「リーツェはずるい」
「ずるい?」
私が聞き返すとフォレックス様は私を抱きしめている腕に更に力を込める。
「ずるいよ、全く」
「……?」
「スチュアートが同じ事をされてても平然としていたのに、俺の事になるとそんな顔してさ」
「そ、それは」
だって、スチュアート様とミリアンヌさんのあの光景は前回の人生も考えれば、もう既に見慣れたものだったし今更感が強かった。
でも……
「……ミリアンヌさんにフォレックス様がベタベタされるのは……嫌だったんです」
「リーツェ……あぁぁ、もう! 君は、本当に!!」
「く、苦しい……です、フォレックス様!」
何やら感極まったらしいフォレックス様に苦しくなるくらいぎゅうぎゅうに抱きしめられてしまった。
「それで? リーツェはここ数日は何を悩んでいるの?」
「え?」
突然のその質問に私は驚いて顔を上げる。
フォレックス様とばっちりと目が合う。その瞳は本気で私の心配をしていた。
どういう事? 私は悩みなんて何も口にしていないはずなのに。
「リーツェが何かに悩んでいるのにその事が俺に分からないとでも思ってる?」
「で、ですが……」
「様子を見るに、スチュアートとミリアンヌ嬢の事では無さそうなんだが」
「!」
そこまで分かるの!? と、純粋に驚いた。
もちろん、ミリアンヌさんの存在は懸念すべき事だし、注意も払わなくてはならない事。
だけど、フォレックス様が言うように、今の私にはそれ以上に気がかりな事がある。
それは……
もうすぐ、シイラがとある事件に巻き込まれて死んでしまうから。
実は、その日が近付いて来ている。
時間が巻き戻って過去に戻りシイラに再会した。
自分のあの最期を迎える未来を変えたいのと同じくらいシイラの未来も変えたいと思った。
だって、シイラが事件に巻き込まれたのは私の我儘のせいだったから。
だから、私があの日と同じ我儘を言わずに同じ行動をとらなければいいそう考えて決めたけれど、本当にそれだけで大丈夫なの? という不安が消えてくれない。
(もっと対策を立てるべきなのでは……でも、どうやって?)
「リーツェ」
「?」
私の名前を優しく呼んだフォレックス様は、じっと私の目を見る。
「俺が言った事を覚えている?」
「言った事?」
「どんな事でも力になりたい。俺を利用していい、そう言った。リーツェ……君は今、何を望んでいる? 俺に出来る事はある?」
これは……頼ってもいい?
確かにフォレックス様なら、万全を期す事が出来るかもしれない。
心が揺らぐ。
「リーツェ、お願いだ。そんな風に思い悩む顔をするくらいなら俺を巻き込んでくれ」
「フォレックス様……」
フォレックス様の顔はどこまでも真剣だった。
✣✣✣✣✣✣
(あぁ、ムカつく! 何だったのよ、アレは!)
私の前から去って行く二人を見て、悪役令嬢……やっぱり邪魔だわ。
心の底からそう思った。
「ミリアンヌ? どうかしたか? 俺達も戻るぞ?」
「え、えぇ、スチュアート様……」
「何だ? 顔色が悪いな」
スチュアート様が不思議そうな顔をする。
「だってフォレックス様……いえ、フォレックス殿下が……」
「あぁ、さっきの話か。あいつは融通が効かない奴なんだよ」
そう言ってスチュアート様は私の頭を優しくポンポンと撫でた。
「私、嫌われてしまったでしょうか?」
「そんな事は無いだろう」
やっぱりシナリオ通りではないからなのか、フォレックス様の攻略は難しそうだわ。
留学もしなかっただけでなく、何故か今は悪役令嬢の側に付いてるし。
「スチュアート様。フォレックス殿下と、あく……リーツェ様は親しいのでしょうか?」
「あの二人がか? そんな事は無いだろう。今はフォレックスがリーツェの護衛をしてるからそう見えるだけだろ」
「……」
そうかしら?
ならばさっき、悪役令嬢を黙らせてくれた時、後ろから抱きしめているように見えたのは気のせい……?
でも、悪役令嬢の事を我儘で迷惑と言っていたし。本音はそっちよね?
(可哀想なフォレックス様! 今世は悪役令嬢の我儘に振り回されているのね?)
「……」
──お前のせいでリーツェは死んだ。リーツェを返せ! 俺は絶対にお前だけは許さない! ──
前回あんな事を言っていたからまさか悪役令嬢に恋情を? なんてふと思ったけれどどうやら勘違いみたいね。
フォレックス様にあんな顔を向けられるのはもう勘弁!
やり直し最高だわ!
あのバッドエンドを繰り返さない為にも、まずはスチュアート様を完全に落として私の味方にしてからフォレックス様の攻略に乗り出す必要がある。そもそもルートも開放しないし。
だから、今はとにかくスチュアート様の攻略を早めないと……
そこで、ふと気付く。
「……あぁ、もうすぐお祭りの日ね」
「ミリアンヌ? どうかしたか?」
「いいえ、何でもないです! 教室に戻りましょう!」
いけない、いけない。
私は天真爛漫の平民、ミリアンヌ!
そう思い直し笑顔を浮かべた。
あのお祭りで起きる事件で私とスチュアート様の仲は深まる。
だって私の幸せの為に起きる事件だもの!
ふふふ、悪役令嬢は始末して今度こそ私はハッピーエンドを迎えるんだから!
21
お気に入りに追加
4,675
あなたにおすすめの小説
【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
[完結]麗しい婚約者様、私を捨ててくださってありがとう!
青空一夏
恋愛
ギャロウェイ伯爵家の長女、アリッサは、厳格な両親のもとで育ち、幼い頃から立派な貴族夫人になるための英才教育を受けてきました。彼女に求められたのは、家業を支え、利益を最大化するための冷静な判断力と戦略を立てる能力です。家格と爵位が釣り合う跡継ぎとの政略結婚がアリッサの運命とされ、婚約者にはダイヤモンド鉱山を所有するウィルコックス伯爵家のサミーが選ばれました。貿易網を国内外に広げるギャロウェイ家とサミーの家は、利害が一致した理想的な結びつきだったのです。
しかし、アリッサが誕生日を祝われている王都で最も格式高いレストランで、学園時代の友人セリーナが現れたことで、彼女の人生は一変します。予約制のレストランに無断で入り込み、巧みにサミーの心を奪ったセリーナ。その後、アリッサは突然の婚約解消を告げられてしまいます。
家族からは容姿よりも能力だけを評価され、自信を持てなかったアリッサ。サミーの裏切りに心を痛めながらも、真実の愛を探し始めます。しかし、その道のりは平坦ではなく、新たな障害が次々と立ちはだかります。果たしてアリッサは、真実の愛を見つけ、幸福を手にすることができるのでしょうか――。
清楚で美しい容姿の裏に秘めたコンプレックス、そして家と運命に縛られた令嬢が自らの未来を切り開く姿を描いた、心に残る恋愛ファンタジー。ハッピーエンドを迎えるまでの波乱万丈の物語です。
可愛い子ウサギの精霊も出演。残酷すぎないざまぁ(多分)で、楽しい作品となっています。
プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)
犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。
『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』
ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。
まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。
みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。
でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。
ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します
たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』
*書籍発売中です
彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?!
王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。
しかも、私……ざまぁ対象!!
ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!!
※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。
感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。
悪役令嬢の幸せは新月の晩に
シアノ
恋愛
前世に育児放棄の虐待を受けていた記憶を持つ公爵令嬢エレノア。
その名前も世界も、前世に読んだ古い少女漫画と酷似しており、エレノアの立ち位置はヒロインを虐める悪役令嬢のはずであった。
しかし実際には、今世でも彼女はいてもいなくても変わらない、と家族から空気のような扱いを受けている。
幸せを知らないから不幸であるとも気が付かないエレノアは、かつて助けた吸血鬼の少年ルカーシュと新月の晩に言葉を交わすことだけが彼女の生き甲斐であった。
しかしそんな穏やかな日々も長く続くはずもなく……。
吸血鬼×ドアマット系ヒロインの話です。
最後にはハッピーエンドの予定ですが、ヒロインが辛い描写が多いかと思われます。
ルカーシュは子供なのは最初だけですぐに成長します。
【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜
凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】
公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。
だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。
ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。
嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。
──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。
王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。
カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。
(記憶を取り戻したい)
(どうかこのままで……)
だが、それも長くは続かず──。
【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】
※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。
※中編版、短編版はpixivに移動させています。
※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。
※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
【完結】憧れの人の元へ望まれて嫁いだはずなのに「君じゃない」と言われました
Rohdea
恋愛
特別、目立つ存在でもないうえに、結婚適齢期が少し過ぎてしまっていた、
伯爵令嬢のマーゴット。
そんな彼女の元に、憧れの公爵令息ナイジェルの家から求婚の手紙が……
戸惑いはあったものの、ナイジェルが強く自分を望んでくれている様子だった為、
その話を受けて嫁ぐ決意をしたマーゴット。
しかし、いざ彼の元に嫁いでみると……
「君じゃない」
とある勘違いと誤解により、
彼が本当に望んでいたのは自分ではなかったことを知った────……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる