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8. どうしてこうなった!
しおりを挟む(どうして?)
恥ずかしい思いをしながらも馬車に乗り込み降ろされた事で、ようやく解放されたわ! と思ったのに、何故か隣に座ったフォレックス様が手を離してくれない。
(な、何故、隣に座ったの? そして手……)
「フォレックス様、あの……」
「うん? どうかした? 寝ててもいいよ?」
「えっ!? い、いえ。そ、そうでは無く……」
何故かいい笑顔で、肩をどうぞと言ってくるので戸惑う。
──違う! 私が言いたいのはそういう事では無いの!
顔が赤くなった私に、フォレックス様が苦笑しながら更にとんでもない事を言う。
「赤くなった……可愛いな」
「!!」
まさかの発言に私は固まる。
か、か、可愛い!?
今、そう言ったわよね!?
「か、か、か……!?」
「リーツェ、どうかした? また具合悪い? 大丈夫?」
そう言って眉を寄せたフォレックス様は、まるで熱を測るように私の額にそっと手を触れる。
「ちょっと熱いかな? 大丈夫?」
「だ、大丈夫とかでは無く……これは、フォ……フォレックス様のせいです! か、か、可愛いとか言うから恥ずかしくなっただけです!!」
耐え切れなくなった私はそう叫ぶ。
私の言葉にフォレックス様は、きょとんとした顔を見せる。
何でそんな顔なのかしら!?
「本当の事を言っただけなのにな」
「!?」
ちょっと待って?? 誰よ、これ。
この方は本当にフォレックス様なの??
頭の中は大混乱。
「リーツェは可愛い」
「~~~っ!?」
ますます恥ずかしくていたたまれなくなった私は思わず叫ぶ。
「っっ! フォレックス様は私の事が嫌いではなかったのですか!?」
さっき医務室でごちゃごちゃ考えて聞けなかった事……
あんな風に悩んでいたのがバカみたいにあっさり口から飛び出した。
「まさか! 嫌いなわけないだろう!!」
そして、フォレックス様は間髪入れずにそう即答する。
「え、ですが……」
「ごめん……分かってるよ、俺のこれまでの態度がリーツェにそう思わせたんだろう?」
そう言ったフォレックス様はどこか辛そうだった。
「……」
「違うんだ。ただ、ずっとあの日から気持ちの整理がつかなかっただけでー……」
「あの日? 気持ちの……整理?」
聞き返した私にフォレックス様が「そうだよ」と、頷く。
そして、私を見つめるとそっとその頬に手を触れる。
……そうして、言った。
「ずっと好きだった子が双子の兄と婚約してしまったからね」
「!?」
──今、なんて……?
「我ながら子供だったよ、本当にごめん……」
「…………」
「リーツェ?」
呆然とする私にフォレックス様が心配そうな顔を向けるけれど、私は私で想像もしていなかった答えに戸惑ってしまい言葉が出て来ない。
そんな私の様子にフォレックス様は私の目を見つめて言った。
「リーツェ。君は俺が空を見上げるのが好きだと言ったよね?」
「え? はい」
確かに言ったけれど。
それが何なのかしら?
私が首を傾げていると、更に爆弾発言が飛び出した。
「あれはね? 空を見上げるのが好きと言うより、空を見上げてはいつも思い出してただけだよ」
「……何をですか?」
「リーツェを。君の瞳は澄んだ空色の瞳だからね」
「!!?」
「俺はいつだって君を想っているんだよ、リーツェ」
思っても見なかった突然の攻撃に私は力尽きてヘナヘナになった。
***
我が家に到着したものの、ヘナヘナになっていた私はフォレックス様のエスコートを受けながらどうにか馬車から降りる。
(ど、どんな顔をしたらいいのか分からない)
先程の話に動揺していた私はフォレックス様の顔が直視出来ずにいた。
そんな私の気持ちを感じたフォレックス様が言う。
「リーツェ。突然の話で混乱させて悪いとは思ってる。ごめん。でもね?」
「……?」
私は顔を上げる。
すると、フォレックス様の真剣な瞳とばっちり目が合った。
「っ!」
ドキンッと大きく胸が跳ねた。
「俺はもう君を諦めたくないんだ」
「フォレックス……様」
「誤解も勘違いも、もう勘弁だ。だから、困らせると分かっていてもはっきり言う事に決めた」
「……あ」
オロオロと瞳を泳がせる私にフォレックス様はさらに続ける。
「今の君はスチュアートの婚約者。俺の気持ちに応えられない事は分かっている」
「……」
(そう。私は、まだスチュアート様の婚約者なのよ)
「スチュアートからリーツェを奪おうとするのが正しい事だとは俺も思っていない。それでも……足掻かせて欲しいんだ」
「フォレックス様……」
「リーツェの事が……ずっとずっと好きなんだ」
「あ……」
そう言ったフォレックス様は私の手の甲にそっとキスを落とした。
「リーツェ、ちょっと公爵と話をさせてもらってもいいかな? 今日は在宅してるだろうか」
私を翻弄しながらも、しっかり入口まで見送ってくれたフォレックス様はがそう言った。
「お、お父様にお話ですか?」
「うん、ちょっと確認しておきたい事があるんだ」
確認? 何かしら。
「えっと、今日は登城していないと聞いているので家にいるかと思います」
「それは良かった。では、少しお邪魔させてもらうよ。あ、リーツェはもう休んで?」
「は、はい……」
翻弄したくせに、この辺はちゃんと気遣ってくれる。
お父様の所までのフォレックス様は使用人に任せて、私は早々に部屋に戻る事にした。
「リーツェ」
「?」
別れ際に呼び止められて振り返ると、フォレックス様は腕を伸ばして私を抱き締めた。
「フォレックス……様!?」
突然の行動に戸惑う。
さっきからもう色々と凄すぎて本当に気持ちが追いつかない。
「困らせてごめん、リーツェ」
「……」
「だけど……リーツェ、俺に出来る事があったら何でも言って欲しいんだ」
「え?」
どういう意味かしら? と思い、抱き込まれたまま顔を上げる。
「この先、君が生きていく為に必要な事はどんな事でも力になりたい」
「……フォレックス様?」
目が合うとフォレックス様は優しく笑いながら言った。
「……どんな事でもいいよ。俺を利用してくれ。リーツェ」
(生きていく為って……)
そう言ったフォレックス様はギュッとさらに力を込めて私を抱き締めた。
「……」
フォレックス様と別れて部屋に入った私は、無言のままベッドに突っ伏した。
もちろん、頭の中は未だに大混乱中。
(どういう事? 何でフォレックス様はあんな急に豹変してしまったの!?)
いったい、彼の中で何があったのか。
あんなフォレックス様を私は前の人生を通しても知らない。
「ずるい……」
あんな真剣な瞳と表情であれだけの事を言われて感じないわけが無い……
──嬉しい、と。
だけど。
「スチュアート様……」
私は、スチュアート様の婚約者。
婚約破棄の話は結局、流れたまま。
だから、当然フォレックス様の気持ちに応える事は出来ない。
「フォレックス様を選びたいから……なんて理由で再びスチュアート様に婚約破棄を持ち出したら……前の、ミリアンヌさんが好きだから婚約破棄だ! と言っていたスチュアート様と同じになってしまうわ」
(元々、フォレックス様と私はクラスも違うし、これまでもそんなに関わって来なかった……それはこれからも大きく変わらないはず)
今は生き続ける事を考えたい。
と、思っていたのに。
どうしてなのか……事態は私が思っていたのと違う方向へと向かって行く事になる。
──それもそのはず。
もう既にフォレックス様が、前回とは違う行動ばかりしているのだから……
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