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第49話 負けません!
しおりを挟む「──宣戦布告ってやつよね?」
「ンニャーー!」
にゃんこさんJrが激しく同意してくれた。
「あのパーティーで、実はエミール様がどんなにかっこよくて素敵な人なのか、皆、気付いてしまったんだと思うのよ」
「ニャー」
「でもね? 絶対に絶対にエミール様のことは譲れないから、ここは戦わなくてはいけない場面なの……売られた喧嘩なら買ってもいいわよね?」
「シャーー!」
私が拳を見せると……
あらあら、にゃんこさんJrも殺る……やる気満々の目をしているわ。
思わず私はふふっと笑ってしまう。
「それに……これまで散々、エミール様のことを好き勝手に悪く言っていたのに、変わり身が早すぎると思わない?」
「ンニャーーーー!!」
にゃんこさんJrもやっぱりそう思うらしい。
「でもね? 分かっているのよ、エミール様がそれくらい魅力的な人だと言うことは……」
「ニャ……」
「あーんなに、素敵で優しくてかっこよくて、それでちょっと可愛いところもあるのよ? きっとこれからもっともっとライバルは増えると思うの」
「ニャーー……」
にゃんこさんJrが、大変そうにゃって顔をしている。
「それに、ほら……正直言って、私は大した取り柄もない地味で平凡な令嬢でしょう?」
「……ニャ?」
「まあ……ちょっと、人より目はいいし、耳もいいほうだけど……誇れるのってそれくらいなものよね?」
「…………ニャ~??」
「だから、ここは拳を鍛えながらも、もっと女性としての溢れんばかりの魅力を身につける必要が────」
そこまで言いかけた時だった。
「────フィオナ!!」
「ニャ!!」
(……え?)
聞き覚えのある足音と、聞き間違えるはずのない愛しい人の声が聞こえた。
幻聴かと思って私は慌てて後ろを振り返る。
(エミール……様?)
どうしてここに? え? あれ? 訪問予定って今日だった?
そう思うのに上手く声が出てくれない。
「……フィオナ」
「ニャー!」
にゃんこさんJrが私の代わりに元気よくお返事してくれた。
「……あ、えっと、その……急な連絡無しの訪問でごめん……」
「ニャーー」
「じ、実はその、大人しく黙っていられないことがあって、勢いで飛び出して来ちゃったんだ……」
「ニャー?」
(……えっと?)
にゃんこさんJrの相槌が絶妙すぎるからなのか、エミール様はなんの疑問も持たずに、にゃんこさんJrに話し続けた。
「それで、屋敷に着いたらフィオナは庭にいると聞いて、こっちにやって来たんだけど」
「ニャ!」
「そうしたら、可愛いフィオナが、これまた可愛い猫さんと戯れてて……もう、可愛いが溢れかえっていてさ……もう、鼻血が……」
「ニャニャン!」
可愛いと言われて嬉しそうなにゃんこさんJr。
もっと言ってにゃ? と、言わんばかりにエミール様の懐に迫ろうとした。
(ハッ……だめ! その場所は私の場所よ!)
「待って、にゃんこさん! エミール様は渡さないわ!」
「……ニャ?」
エミール様に飛びつこうとしたにゃんこさんJrが振り返る。
「その場所は……たとえ、にゃんこさんでも渡せないの!」
「ニャ……?」
にゃんこさんJrの可愛さは、私が一番分かっている。
ただでさえ、面倒くさい様子のライバル令嬢(?)が現れたのに、ここでにゃんこさんJrまでもがライバルになるのは勘弁して欲しい。
───人でも猫でも私は絶対に負けないわ!
「え? フィオナ……? なんのはな……し?」
「ニャ!」
私は立ち上がると自分からエミール様にギュッと抱きついた。
◆◆◆
猫さん相手に色々と話しかけていた可愛いフィオナは、何故か自分の魅力を全く分かっていなかった。
───それに、ほら……正直言って、私は大した取り柄もない地味で平凡な令嬢でしょう?
(平凡とは……)
───まあ……ちょっと、人より目はいいし、耳もいいほうだけど……誇れるのってそれくらいなものよね?
(あれがちょっと……か?)
猫さんも首を傾げていなかったか?
───だから、ここは拳を鍛えながらも、もっと女性としての溢れんばかりの魅力を身につける必要が────
拳を鍛える所がフィオナらしい考えだけど、これ以上魅力的になられると僕の方が大変そうなので慌てて止めに入った。
そして、今日突然の訪問した理由などを話していたら、フィオナに抱きつかれた。
(もしかして、猫さんにヤキモチを妬いてくれたのかな?)
そう思うとついつい僕の頬が緩んでしまう。
フィオナの温もりが温かくて幸せでそっと抱きしめ返した時だった。
「──にゃんこさんJr、おやつですよ~」
「ニャッ!」
「フィオナお嬢様もこちらですか~? 屋敷の方が今、フィオナお嬢様の王子様がやって来たとバタバタと騒い────(きゃっ!? )」
(────なっ!)
そこに、アクィナス伯爵にも負けないくらいの強面でムッキムキの筋肉を持った男性が猫さんの餌を片手に現れた。
「お、お嬢様……(もう、イチャイチャ中だったーーーー!)」
「……え? あ、ボブさん?」
フィオナが僕の腕の中から顔を上げて、そのボブさんと呼ばれた男性を見た。
「お嬢様、(大変いいところを)お、お邪魔して申し訳ございません」
「え? あ……」
フィオナが僕の腕の中で照れた。
その可愛さに僕の胸がキュンとなる。
「こちらの方が、フィオナ様の大事な───(確かペラペラな身体にお悩みだという……)王子様」
「そ、そ、そうなの!」
僕の理想の筋肉の持ち主が、鋭い眼光でじっと僕を見てくる。
きっと、大事な大事なお嬢様であるフィオナに僕が相応しいのかどうか品定めしているのだろう。
(しかし……伯爵にも負けず劣らずの迫力のある顔だ……)
この使用人が何者なのかは知らないが、何がなんでも認めてもらわなくては!
僕もしっかりとこの男性を見つめ返した。
「……」
「……」
しばしの沈黙。
だけど、それを破ったのは無邪気そうな猫さんだった。
「ニャーー!」
「どうしましたか? にゃんこさんJr?」
「ニャー」
「え? 合格? 好み……? そ、そうですか。にゃんこさんJrは殿下のような方がお好み……でしたか」
(……なんの話だろう?)
猫さんに声をかけられて会話を始めた男性が、少しだけ落ち込んだ様子を見せる。
「……やっぱりにゃんこさんJrはライバルなのね(……負けないわ!)」
「フィオナ?」
「あ、いいえ、こっちの話です……」
フィオナは逆に勇ましい表情をしていた。
「───お嬢様」
そんな中、強面のムッキムキの男性がフィオナに声をかける。
「ボブさん?」
「……“ビビビッ”と来ましたか?」
「……」
(───ビビビッ?)
僕には意図がよく分からなかったが、その質問にフィオナはとびっきり可愛くて眩しい笑顔で答える。
「────もちろんよ!」
強面のボブさんと呼ばれた男性は、フィオナのその言葉を聞いてとても嬉しそうにニカッと笑った。
この瞬間、僕はこのボブさんはとってもいい人なのだと分かった。
◇◇◇
ボブさんはニカッとした笑顔で、
「お二人でごゆっくりお過ごしください!(思う存分イチャイチャしてください!)」
と、言って、どこか名残惜しそうなにゃんこさんJrと共に向こうに行ってしまった。
(ふ、二人きり──)
私の胸がトクンと高鳴る。
「フィオナ……」
「……エミール様」
私たちは少しの間、お互いの顔を見つめ合う。
そして、どちらからともなくそっと唇を重ねてキスをした。
「……そ、それで! 僕が今日ここに来た理由なんだけど……」
お互いの温もりと熱を堪能したあと、エミール様が突然の訪問の理由を話してくれた。
話を聞き終わった私は、ふふ、ふふふと笑う。
「…………やっぱりアレは宣戦布告だったのですね?」
しかも、愛妾候補ですって!?
いったい何を考えているの!?
「まだまだ愚かな考えの人たちが多いようですね……」
「!」
私がそう口にすると、エミール様が小さく吹き出した。
「……? どうかしました?」
「い、いや。その通りだなと思ってね」
「そう、ですか?」
どうしようかしら?
さすがにいちいち令嬢たちの家の一つ一つに殴り込みにいくわけにもいかないし……
そもそも、その令嬢とその家には盛大なしっぺ返しが待っているでしょうから、あえて私が手を下す必要はないわけで……
(だからと言って面白くはない……)
エミール様は私のエミール様なのよ!
そう思った所でこれだ! と、思いついた。
少し、恥ずかしいけれど、手っ取り早く諦めさせるにはもうこれしかない。
「エミール様……」
「うん?」
「────わ、私と……イ、イチャイチャしましょう!」
「……イチャ?」
エミール様が首を傾げたので、私は大きく頷いた。
「はい! イチャイチャ……です!」
「……」
「……」
何かを想像したのか、またしてもボンッという音がしそうなくらいにエミール様の顔が真っ赤になっていった。
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