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第14話 運命……?
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───ですが、きっとお嬢様の心にビビビッと来る人がいつか現れます。
(……ビビビッ?)
どうしてかしら?
エミール殿下に触れて三度目の電流が走った瞬間、私はボブさんに言われたあの言葉を思い出した。
「っ! マーギュリー侯爵令嬢! ……だ、大丈夫か!?」
「は、はい──」
(び、びっくりした……)
まさか、三度目もこんなことになるなんて。
それに、殿下のこの反応……殿下にも同じように電流が走っていた?
「す、すまない。僕が許可なく君に触れてしまったせいだろうか……」
「!」
大変! 殿下が明らかにしゅんとして元気を失くしてしまっている。
「い、いえ! 違います。これは許可とか関係ないですから!」
私はそう言ったけど、殿下は納得がいかないのか眉をひそめた。
「いや……だが、これは君が僕に嫌悪感を抱いたから起きた……とかでは?」
「嫌悪感!? いいえ! そうではありません!」
だって、それならあのダーヴィット様と同じ……ゾワッとなるはずだもの。
「そうではない?」
「本当ですわ! だって私、ダーヴィット様に触れられた時は身体がゾワッとするんですから!」
「ゾ、ゾワッ?」
殿下がギョッとしている。私は大きく頷きながら続けた。
「はい。ゾワッです。あれはーー……すごくすごーく気持ち悪いのです。ですが! 今のはピリッだから全然違います!」
「ぜ……全然違う……?」
「はい!」
殿下は少し黙り込んだあと「……そうだ、静電気だと言っていたな。今日もそれ、か?」と小さく呟いて一人で納得している様子だった。
「……コホッ。そ、それにしても───まさか、触れるだけで毎回こんな風になるなんて驚きですね」
「そ、そうだな」
私のその言葉に殿下が少し照れた様子を見せる。
「……!」
(やだ、どうしたの私……ちょっと胸がドキドキしている)
『──私の身体があなたこそが運命の人だと言っているのよ……!』
ふと、あのお祖母様の愛読者でもある、世の全乙女が胸キュンする話のお姫様が、そんなことを言っているシーンを思い出してしまった。
もしかしなくても、それって今みたいな感じかしら?
だって、こんなお互いに身体にピリッと電流が走るとか……まるで、ちょっと“運命”みた────い…………ではなくて!
ハッとした私は慌てて首を横に振る。
(あ、危なっ……! うっかり雰囲気に流されるところだったわ!)
相手はこの国の王子様! しかも、謎の入れ替わりごっこ中よ!
これでは、もし仮に本当に運命なんてものがあったとしても、どっちの王子が相手なのか分からないじゃないの……
ジュラール殿下? ジュラール殿下の振りをしているエミール殿下? それともただのエミール殿下?
(や、ややこしい!)
それに……そもそも、私にはまだ一応、婚約者がいるのだから……
「……っ」
って、嫌だわ。私ったらダラダラとなんの言い訳をしているのかしら?
変にドキドキしすぎて、自分で自分の気持ちに戸惑ってしまった。
「…………マーギュリー侯爵令嬢?」
「え? あ……」
謎の胸のドキドキのせいで、挙動不審になっていた私を殿下が心配そうな目で見ている。
「少し顔が……赤い?」
「き! 気の所為ですわ! あ、いえ、違いますね。す、少しばかり胸がドキドキしてしまっただけです……」
「え? 胸がドキドキ?」
殿下が少し驚いた様子で聞き返してくる。
しかも、ほんのり嬉しそう?
「……え、ええ。そうですわ。ほら、何故か身体がピリッとしましたので……びっくりしたなぁ、と。それでドキドキ」
「え? ピリッ……あ、ああ……そう、か、びっくり……したから、ね」
「そう、ですわ……」
「そう、だよな……うん」
「……」
「……」
何故かは分からないけれど、私たちはその後、どちらも上手く言葉が出て来ず、何度もお互いの顔をチラチラ見ながら、そのまましばらく黙り込んでしまった。
どうしてかは分からないけれど、頬の火照りはしばらく治まってくれなかった。
────
殿下との面会? を終えた私は馬車までの道を一人でトボトボと歩く。
殿下は馬車まで送ると申し出てくれたけれど、何だか気恥ずかしくて一人になりたかった。
だから、すぐそこなので大丈夫です! と言い張って一人にさせてとお願いした。
「殿下……何だか捨てられた子犬のような顔をしていたわ……」
私はチラッと背後をに視線を向ける。付かず離れずの距離の背後にいるのは殿下の護衛。
渋った殿下にはどうにか馬車まで護衛を付けることで納得してもらった。
(──それより。結局、本当にただの顔見せで終わってしまったわ)
ジュラール殿下の振りをしたエミール殿下は、本当に私が落ち込んでいないかがずっと心配で、ただそれだけの為に───……
「変な王子様……」
入れ替わっているし、触れるとピリッてするし、優しいし、子犬だし……
だんだん思考が変な方向に向いていっている気がしたけれど、私の頭の中は“エミール殿下”のことでいっぱいになっていた。
そうして、我が家の馬車を見つけて乗り込もうとしたその時。
誰かがこちらに向かって駆けてくる足音が聞こえた。
「────待ってくれ、マーギュリー侯爵令嬢!」
「……?」
(誰……? でも、私の名前を知っている……? それにこの声、殿下とよく似ている。ちょっと違うけれど──……)
私は、その知らない声に釣られてそっと後ろを振り返る。
「……っっっ!」
そして、びっくりして思わず息を呑んだ。
むしろ、ここで下手に叫ばなかった自分自身を褒めてあげたい。
(────どうして? どうしてあなたが!)
「引き止めてすまない、マーギュリー侯爵令嬢」
「え、あ……」
私は驚きすぎて上手く声が出ない。
なぜなら、背後から駆けてきて、私を引き止めたその人は───
(────ジュラール殿下!)
エミール殿下ではない。“本物”の第一王子、ジュラール殿下だった。
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