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第7話 パーティーが始まる

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◆◇◆


 そうしてあっという間にパーティー当日を迎えた。
 お父様にも言われたように、パーティーが開催されることを聞いてからすぐ、ダーヴィット様から殿下たちの誕生日パーティーは自分にエスコートさせて欲しいとの申し出があった。
 そのため、本日の私の迎えは係はダーヴィット様だ。


「───フィオナ嬢」

 ダーヴィット様が畏まった様子で現れる。
 私はドレスの裾をつまんでそっと頭を下げた。

「本日はよろしくお願いします、ダーヴィット様」

 すると、ダーヴィット様はフッと笑った。

「ああ、嬉しいな。ようやく君をみんなに紹介出来るよ。せっかくこれまでも何度かパーティーの機会そのものはあったのに、なかなか俺と君の予定が合わなかったからね。ようやくだよ」
「そ……そう、ですね」

 さらに何か言いたげな瞳でこちらを見て来るダーヴィット様に対して、私は曖昧な笑みしか返せなかった。

「ああ、そうだ。今日のパーティーには俺の友人たちも多く参加している」
「はい」
「友人たちにもぜひ、君を紹介させてくれ」
「え、ええ、分かりました」

 そうして差し出された手を取って私たちは馬車へと乗り込んだ。



 そして王宮までの道。馬車に揺られながら私はひたすら願っていた。

(───お願い!  会場では私たちに注目などしないで、ぜひ主役の王子殿下たちをずっと見ていて!)

「……フィオナ嬢?  どうかした?  先程からずっと無言だが?」
「い、いいえ、なんでもないです。久しぶりのパーティーで緊張しているみたいです」
「ああ、そうか」

 真剣に祈りを込めすぎていたせいで、ダーヴィット様が私のことを不審そうな目で見ていたけれど、どうにか笑って誤魔化した。
 その後も私は王宮に着くまで祈り続けた。


 けれど、そんな私の願いは届くことはなく──
 やはり、会場に着くなり私とダーヴィット様は皆から大きな注目を集めてしまう。

「……っ」

 主に令嬢たちからのチクチク突き刺さる視線が痛い。
 皆、お似合いの理想のカップルだなんだと口では言っていても、やはり内心はどうしてダーヴィット様の相手が私なのかと思っていることがよーーく分かった。

(うーん、向けられる視線の種類も様々ね……)

 興味、羨望、嫉妬……
 ちなみに嫉妬している令嬢たちの目付きが一番怖くてギラギラしている。
 そんな視線に耐えていたら、後ろから声をかけられた。

「───ダーヴィット、隣にいるのが、君がいつも自慢していた婚約者殿かい?」
「ああ、そうだよ。ほら、可愛いだろう?」
「!」

(……ひぃっ!)

 友人らしき男性に声をかけられたダーヴィット様が、満面の笑みを浮かべて私の肩を抱き、自分の方へと引き寄せる。
 ゾワッとしたので、危うく変な声を出しそうになってしまった。

「彼女が、俺の婚約者のフィオナ嬢だ」
「フィオナ・マーギュリーと申します」

 私が挨拶を終えると、彼は自分も自己紹介をしてくれた。 
 けれど、そのあとの彼はなぜか私のことをじっと見つめてくる。

(……何かしら?)

 妙にねっとりした視線を向けられている。

(まるで、品定めでもされているかのような気分……)

「……へぇ、なるほど。確かにお前の言う通り…………」
「ははは、だろう?」

 そんな会話の後、彼はもう一度私の方を見ながら言った。

「はは、いや~、ダーヴィットが“いい人”を見つけたようで良かったよ。安心した」
「ああ、ありがとう」

(……安心?)

 この二人はいったい何の会話をしているのかしら?
 それと、何やら意味深な様子で目配せをしているのはどういうこと?

 それから、その後もダーヴィット様の友人を紹介されて、何人か挨拶をしたけれど、皆、同じような視線を私に向けてくるばかりだった。

(いったい何かしら……?)

 チラッとダーヴィット様の顔を見たけれど、彼はいつも通りの顔で笑っているだけだった。


────


 そうしているうちに、王族の入場の時刻がやって来て、ついに本日の主役の双子の王子殿下たちが登場した。
 一斉に皆の注目がそちらに向かう。
 私は内心ホッとしながら、王子殿下たちに目を向けた。
 兄で第一王子のジュラール殿下と弟で第二王子のエミール殿下。

(双子なだけある……見た目は確かにそっくりだわ)

 髪型も同じだし、身長や体型も変わらない。まさに、瓜二つ。
 ただ、聞こえてくる噂では、兄のジュラール殿下は大変真面目で優秀なのに、弟のエミール殿下は公務もサボりがちで奔放な性格らしい。
 それよりも思うのは……

(こんなにそっくりだと皆、殿下たちがどっちがどっちなのか分からなくなったりしないのかしら?)

 私は、これまであまり王子殿下たちと接する機会がほとんどなかったので、実はこんな間近で殿下たちの顔を見たのは初めてに等しい。

 そんな本日の二人は色違いの上着を着ている。
 おそらく、誰が見ても分かるようにと配慮されているのだと分かる。

(あれだけ似ているんだもの。名前を間違えられて都度訂正するのも大変そう……)

 双子って大変なのね……と、この時の私は他人事のように考えていた。


─────


「──フィオナ嬢、ちょっと向こうで友人たちが集まっているので、俺も行ってきてもいいだろうか?」
「え?」
「すまない!  ああ君も適当にパーティーを過ごしていてくれ!」
「え?  ダー……」

 まだ、パーティーが開始して間もないのに、なんとダーヴィット様は私を置き去りにして友人たちの元へと行ってしまった。

「適当にって……」

 突然、会場のど真ん中に置き去りにされても……え?  私はこのあと、どうしろと?

(……仕方がないわね、きっと会場に来ているはずの友人を探すか……もしくはお父様やお母様と合流するか───)

 そう思った時、背後からクスクスと笑い声が聞こえた。

「……!」

(うーん……)

 こういう笑い方をする人って、ろくなこと考えていないのよね……
 そう思いながら、私はそっと後ろを振り返る。

(やっぱり……)

 すると、案の定そこには先程、ダーヴィット様と会場入りしてからずっとギラギラした視線を私に向けて来ていた令嬢たちがズラリと並んでいた。

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