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32. 可愛い妻 (ユリウス視点)

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「今日はもう帰ろうか」

  ルチアの家族が取り調べの為に別室に連れて行かれて、パーティーは再開したものの……何となく皆、上の空。
  それもそうだ。一応主役のはずの殿下が自ら取り調べに出向いていて不在。
  もはや何のパーティーなのか。

「え?  大丈夫なのですか?」
「うん、もうこれ以上ここにいても……」

  俺は一旦、言葉を切って辺りを見回す。
  ───あぁ、ほら。またルチアに見惚れる奴がまた一人、二人……
  頬を染めるんじゃない!
  ルチアは俺の可愛い可愛い嫁なんだぞ!
  と、大声で宣言したい気分だ。

  トゥマサール公爵家という看板に守られているのをすごく感じる。
   初めてこの家に生まれて良かったと思ったかもしれない。

「ここにいても?」 

  きょとんとした顔で聞き返してくるルチアが可愛い。すごく可愛い。
  分かってない所がまた可愛い。

「主役ももういないだろう?」
「殿下……確かに。そうですね」

  今日のパーティーは、確かに殿下の婚約者を決めるためのパーティーではあったが、実質はリデルをどうにかする事を目的としたパーティーでもあった。
  そんな中でも殿下にうまく相手が見つかれば……と思っていたが。
  リデルや伯爵家の者達が思っていたより派手な事をしでかしたので、さっき本人もがっくりと落ち込んではいたが、やはり本日の嫁探しは完全に流れたと言えよう。

「殿下も災難だな」
「いい方が見つかると良いですねぇ」
「……!」

  ルチアが微笑みながらそう言った。
  その微笑みがまた天使のようで俺はクラっとした。




  そうして帰る事にした俺達。
  馬車に乗り込んだ所でルチアに声をかける。

「ルチア、疲れているだろう?  もし良ければ俺の肩にでも──」
「旦那様!」
「っっ!」

  俺の言葉にフニャッとした笑顔を見せるルチアがめちゃくちゃ可愛い。
  本当に何でこんなに可愛い子が長年、あんな酷い目に合わないといけなかったのか……
  それも、始まりは姉のくだらない嫉妬……リデルもその家族も俺は本当に許せない。

「ありがとうございます……」

  ルチアがそっと俺の肩に頭を乗せる。
  そんな姿さえ愛おしい。
  
  リデルに関する調査の結果は、これはルチアの調査をしていたんだっけ?  と、疑いたくなるくらいルチアの事ばかりだった。
  リデルのそこまでしようとする執念が正直、恐ろしい。嫉妬から始まった思いは拗らせるとこんな事なるのかと思わされた。

「……ルチア」
「あの……旦那様……」
「うん?」

  ルチアがどこか照れくさそうにモジモジしている。
  これもまた、めちゃくちゃ可愛いんだが!

「こ、今夜……なのですが……」 
「今夜?」

  ……あぁ、今夜は疲れているし、一人になって寝たい……とかだろうか?
  最近は、ルチアと手を繋いで寝る事が日課になっていたから少し寂し……

「ギュッとして眠って欲しいです……」
「ギュッ?」
「ギュッ……です」

  ───ギュッ……だと!?
  ははは、もう惑わされないぞ!  俺だってあの情けない鼻血の日から学習したんだ。   
  これは…………そのまんま。言葉通りの意味、だ!  裏の意味?  そんなものは存在しない!

  そうは言っても、ルチアにしては大胆なお誘いだと思ってそっと顔を見たら、真っ赤になっていた。またまた可愛……

「そ、そ、その、今夜は…………温もり……が欲しくて」
「ルチア……」

  そうだろう、そうだろう。
  ルチアはただ純粋に温もりそれを求めているのだろう。
       
「分かった」
「……ありがとうございます!」
「!!」

  その時のルチアの笑顔はまたもや天使だった。
  そして俺は願う。

  ────どうか、 俺の理性が……(今度は)鼻血が出ること無く長く持ちますように……と。


❋❋❋❋



  屋敷に戻り、バタバタと就寝準備を終えた俺は、二人の寝室に向かう。
  ……今日もルチアの肌はスベスベなのだろうか。
  だが、フリフリの夜着はもう大丈夫だ。だから、スベスベの肌にさえ耐えられれば……!  何とかなる!
  
  そう言い聞かせて、コンコンとノックして部屋に入る。

「ルチア?」
「旦那様!」

  先に部屋に来ていたらしいルチアが俺の胸に飛びこんでくる。
  パーティーで着飾ったルチアも美しくて綺麗だったが、素顔のルチアも本当に綺麗だと思う。

「お待ちしておりました!」
「遅くなってすまない」  
「あ、いえ、私がソワソワして落ち着かなくて早く来てしまっただけですから」

  俺の腕の中で頬を染めながら、そんな可愛い事を言うルチア。
  ルチアは早速俺の理性を試しているのか?

「……ルチア」

  無理やり手を出す事は簡単だ……だが、やっぱりルチアの気持ちを大事にしたい。
  そう思いながら俺はルチアを抱きしめ返した。


────
  

「……一緒に眠る前に……少しだけ私の昔話を聞いてくれますか?」
「ルチア」
「旦那様は私の事は調べていたようなので、大体のことは既にご存知だと思います」
「……」
  
  今日のパーティーでも幾つか語られていたからな……

「でも、私の口からもちゃんと語りたいのです」
「ルチア?」
「旦那様である……ユリウス様にはしっかり私の事を知っていて欲しいので」

  俺の目を見ながらそう口にするルチアを見ていたら胸が熱くなった。
   ──あぁ、俺の天使は可愛いだけじゃない……そう思った。

  だけど、ルチアの口から語られる話は、調査書に書かれていた物とは比べ物にならないくらい酷かった。
  小さな小さなルチアが必死に手を伸ばしてるのに、いつだって、あいつらは……
  それを「もう過ぎた事ですから」そう言って笑うルチアの事が愛しくて愛しくて仕方がなかった。

「この家の皆さんは温かいですね。あの家では使用人もお姉様の味方でしたから」
「……!」

  人と会ったり外に出る時は好きでもない格好やメイクをさせられることが多かったと語るルチア。
  食事も一家団欒の後にようやく呼ばれて、誰もいない中一人で食べる事が多かったという。

  聞けば聞くほど、ろくな奴らじゃない。
  これは殿下に進言してしっかりきっちり処分してもらわないと……と改めて思った。

  (そうだ……俺も言わなくては)

  ルチア・スティスラド伯爵令嬢に求婚した理由を。
  殿下の正式な許可は得られていないが、もういいだろう。
  殿下には悪いが俺は、ルチアを選ぶ!

「……ルチア。俺の話も聞いてくれる?」
「え?」
「俺達の始まりとなった間違った求婚の件…………それから、俺がどれだけルチアの虜になってしまって君に夢中なのか……」
「……!」

  俺がそう口にしたらルチアの顔がどんどん赤くなる。

「と、虜?  は、恥ずかしいです……」

  照れるルチア。可愛い!
 
「好きだよ、ルチア。始まりはあんなだったが……俺は今、君の事が大好きだ」
「旦那様……」

  俺はじっとルチアを見つめる。  
  ルチアも潤んだ瞳で俺を見つめる。

「……」

  (……贅沢は言わない。だが、もうこれくらいならしても許されるだろう──?)

「ルチア……愛してるよ」
「……あ」

  俺はルチアの顎に手をかけて上を向かせると、まだ、これまで一度も触れた事の無かったそこにそっと自分の唇を重ねた。

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