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2. 好き勝手をするお姉様
しおりを挟む「……初めてだわ。次もお会いする約束をした方は……」
いつもは最初の顔合わせですぐに断られるから、次に繋がった人なんてこれまでいなかった。
そうして、その方に二度目に会う事になった日。
私はいつになくドキドキして、いつもよりちょっとお洒落をしてもいいかも……なんてクローゼットの前で悩んでいたら……
「あら、ルチア! 今日お見合い相手と会うのでしょう? まぁ! そんな地味なドレスではダメよ」
「え? お姉様?」
そう言って部屋に入って来たお姉様に、ちょうど手に取っていた一番のお気に入りのドレスを取り上げられてしまった。
「分かってないのねぇ……こういう時はもっと明るく派手なのにしないとね! だって、ルチアはとーーっても地味なんだから」
「い、いえ!お姉様……わ、私はこのドレスがいいの、だから返して」
「うーん、やっぱり思った通りどれも全部地味ね。しょうがないわねぇ……今日は私のドレスを貸してあげるわ!」
「お姉様! お願い! 私の話を聞いて!」
「そうね~、うーん、どれがいいかしら~」
お姉様は全く私の話を聞かずに勝手に物事を進めていく。
また……どうしてお姉様はいつもこうなの?
「あぁ、これならルチアに似合いそうね! 絶対にピッタリだと思うわ、ほら!」
「……な」
何で……
お姉様が“私にピッタリ”だと選んだのは、胸が大きく開いたデザインが特徴的で、まるで娼婦を彷彿とさせるかのようなドレス。
「お姉様……これ……」
「どうかした? お見合いの場でも男性を悩殺させるのは必要だと思うのよ。ほら! 特にルチアみたいに可愛くなくて地味な子はね!」
お姉様はにっこり笑ってそう言う。
「お姉様、私は嫌、絶対に似合わないから嫌よ!」
私はそう必死に訴えるけれどお姉様は笑顔のまま首を横に振る。
「ダーメ! 大丈夫、絶対に似合うわよ。さ、あなた達~早くルチアを着替えさせてあげて頂戴?」
「承知しました」
お姉様の命令で部屋の隅に控えていた使用人達がせかせかと動き出す。
「ねえ! お願い……やめて!」
「ルチア様、我儘を言わないでください。リデル様のドレスを貸して貰えるなんて夢のようではありませんか!」
「そうですよ、ルチア様」
使用人達はお姉様に憧れているので、私の意見なんて通った事がない。
そうして絶対に似合わないドレスを無理やり着せられてしまう。
「このドレスに似合うお化粧もしてあげてね?」
「「承知しました」」
「あ……」
ドレスに続いて今までした事の無い派手なお化粧までされてしまう。
「まあ、ルチア! いつもと違って華やかね!」
「そうですね~」
「嘘よ! やっぱり似合っていないから着替えさせて!」
「えー、そんなの無理よ」
お姉様が残念そうに首を横に振る。
「え?」
「だってほら、もう時間……でしょ?」
「あ……」
慌てて時計を見たら本当にその通りだった。
私は絶望した気持ちのままお見合いの席に向かう事になってしまい、そしてお姉様は「ふふ、頑張ってね~」と笑顔で手を振っていた。
「あ…………ルチア嬢……? き、今日はこの間とは……髄分……雰囲気が……ゴホッ」
「……」
「女性は……凄いね」
やっぱりこのドレスも化粧も私に似合っていない。私を一目見た時の彼の反応ですぐに分かった。
目を逸らされ会話も全く弾まない地獄の時間がスタートした。
「……」
「……」
この間はもっと会話が弾んだのに……
飲んでるお茶も全く味が分からない。
何だか惨めで泣きたい気持ちになった、その時───
ガチャ
部屋の扉が開いた音がしたのでびっくりして振り返る。
「あら? ごめんなさい……この部屋だったのね……間違えてしまったわ」
何故かお姉様が、お見合いの部屋の扉を開けてそこに立っていた。
戸惑っているので部屋を間違えた……といった様子だったけれど……そんな事より私は、お姉様の姿を見て心から驚いた。
「お、お姉……」
「え? お姉さんなの?」
お姉様は今まで見たことの無い清楚な格好をしていた。そう、まるで私が最初に着ようとしていたドレスとよく似ている。
そんな格好をしたお姉様は、見た目だけなら誰が見ても清らかな令嬢……そのものだった。
「……なんて綺麗で美しい人なんだ……」
「!!」
お見合い相手がお姉様に見惚れながら小さな声でそう呟いた。
「あら? ふふ、聞こえてしまったわ。ありがとうございます。ルチアの姉でリデルと申しますわ」
「リデル嬢……」
お姉様が柔らかい表情で微笑む。
お見合い相手の彼は、まるで私の存在なんて忘れたかのように突然現れたお姉様にポーと見惚れ、お姉様に微笑みかけられると頬を赤くしていた。
そんな彼の顔を見て次は無い……と私は悟る。
そして思った通り。彼から次のお誘いはなく……
後日、お父様が「どういう事なんだ! ルチアーー!」と私の部屋に怒鳴り込んで来たので、その彼は新たにお姉様に求婚の手紙を出していた事をその時に知るはめになった。
当のお姉様は私が問い詰めると……
「ごめんねぇ、うっかり部屋を間違えてしまったの……」
「あの格好? 気分転換よ~~たまには良いでしょ? 似合ってた? やっぱり私って何着ても似合うのねぇ……ふふ」
「え? 彼の求婚? もちろんお断りよ~」
そう言って笑っていた。
そんな似たような事を延々と繰り返していた私は完全に嫁き遅れる寸前となっていて。
もう何もかも無理だと諦めかけていたそんな時、
私、“ルチア・スティスラド伯爵令嬢宛”に手紙が……それも求婚の手紙がとある人から届く────……
それが、後に私の運命を大きく変えることになる“間違った求婚”の手紙だった。
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