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34. 諦めの悪かった異母妹

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「痛っ……ちょっと、離してよ!  離しなさいよ!!」

 私とランドール様が王宮に着くと、ちょうどフリージアが捕縛されている所だった。

「あんた……私に騙されたフリをしたわね!?  最低よ!」
「……それを言うなら、門番に色仕掛けをして逃げ出そうとする方が最低だと思いますよ?」
「くっっ!!」

 図星をさされたフリージアが怒りで真っ赤になる。

 そう。
 ランドール様は予め門番達に一つ命令をしていた。
 それは、もしもフリージアが色仕掛けや誘惑をして来たら誘われるフリをするように、というもの。
 そして、一緒に逃げるふりをしてとある場所まで連れて来て欲しいとまで伝えていた。

(まさか、とは思ったけれど……)

 そこまでして、逃げ出そうとするなんて本当に呆れるしかない。
 捕縛されながら喚いているフリージアを見ながら、ランドール様が小さな声で教えてくれた。

「実はさ、フリージアは巻き戻り前でも同じことをしたんだよ」
「え?」
「脱走。その時は本当に門番が誘惑されちゃってさ。大変だった。でも、逃げられる寸前の所で門番共々捕まえることが出来たんだ」
「そ……れは」

 なるほど。
 ランドール様が今回、先を読んでいたのはそういうことだったのね、とようやく理解した。
 そして、フリージアが呆れるほど単純な性格だということも。

「今度こそ上手くやれるわ!  とか思っていたんだろうな……」
「……では、フリージアをこの場所におびき寄せた理由はなんですか?」

 ランドール様がフリージアを油断させた後に捕縛させた場所は、塔のあるあの庭園だ。

「単純に人が来ないからだよ。フリージアとは話をしなくては、と思っている」
「ランドール様……」

 そこまで言ったランドール様が捕まったフリージアの元へと向かうので、私も後ろからついていく。

「ご苦労だった。下がっていい」
「は……!」

 ランドール様は声をかけて捕縛していた男性を下がらせる。
 これで、会話の聞こえる範囲に私たち以外の人はいない。

 すると、ランドール様の声に気付いたフリージアがハッとした様子で顔を上げた。

(あら?)

 私はてっきり、ここで「また、あんたが企んだのね!?」くらいの暴言が飛び出すと思った。
 しかし、何故かフリージアの反応は私が予想したものとは違っていた。

「……で、殿下?  ランドール殿下!  こ、これは……さ、さっきの男が私を……私を騙したんです」

 フリージアが目を潤ませながら上目遣いでランドール様にそう訴える。
 これは、フリージアが周囲からチヤホヤされる時に昔からよく使う手段なのだけど。

(まさか、フリージア……ここで、ランドール様にまで色仕掛けをする気なんじゃ……)

「……そうは見えなかったが?」
「本当です!  本当なんですぅ。大人しく牢屋に戻りますから……こ、この腕の縄を解いてください、ね?」

 フリージアが一生懸命、自分はか弱くて可愛いでしょアピールを繰り返した。

「そんなことより、聞きたいことがあるんだが?」
「……そ、そんなことより!?」

 必死のアピールがあっさりと流されて目を剥くフリージア。
 でも、ランドール様はそんなフリージアを気にする素振りもなく淡々と問いかける。

「……なぜ、殺した」
「…………は?」

 フリージアが首を傾げる。
 ランドール様は直球でフリージアにもう一度問いかけた。

「なぜ、ブリジットを事故と装ってまで殺す必要があったのか、と聞いている」
「……え、やだぁ~殺す?  物騒~なんの話しですかぁ?」

 フリージアは可愛く笑って誤魔化そうとした。

「誤魔化しは結構だ」
「なっ!」
「お前は過去、何度問いかけてもその答えだけははっきり口にしなかった。だから、こうして聞いている」
「……!」

 ランドール様のその言葉にようやく、事態を飲み込んだのかフリージアの顔からスっと笑みが消えた。
 そして、お腹を抱えて笑い出した。

「ふ、ふふっ…………まさか、あんたまで記憶があるとか言うわけ?  冗談でしょう?」
「冗談でこんな質問するはずなないだろう?  わざわざ人気のない場所を選んでやったんだ。今度こそ答えてもらおうか」
「……っ!」

 ようやく、フリージアが嵌められていたことに気付いたのか、その顔が怒りで歪んだ表情に変わる。

「な……何よ、今、私に靡けばこれまでのことは全て許してあげるつもりだったのに!」
「許しなんか求めていない。いいからさっさと答えろ」

 ランドール様の追求に、フリージアがチラッと私を見る。

「あら……お姉様……あなた、ぜーんぜん驚いていないのね?」
「……」
「もしかして、お姉様まで前の記憶があるとか言い出すの?」
「……」

 私は答えない。
 静かにフリージアの顔を見つめるだけ。
 沈黙は肯定と受け取ったフリージアが、ふふ……ふふふ、と再び笑いだした。

「あはは!  だーから、倒れているランドルフ様を助ける時、あんなに早かったのね?」
「……」
「本当に困ったわ。あんな短時間で助けを呼ばれたら“私”のアピールがぜーんぜん出来ないんだもの。あれはお姉様がモタモタしてなくちゃいけなかったのよ」

 今となっては心の底から放っておけば良かったと思うランドルフ殿下だったけれど、あの時、苦しんでる彼の姿を見ながら、フリージアはそんなことを考えていたのか、と愕然とする。

「何か性格も変わった?  と、思ってはいたけど、まさかそんなカラクリだったなんてねぇ……」
「フリージア、あなたは何を考えているの?」

 私のその問いにフリージアは、きょとんと不思議そうな顔をする。

「何って昔も今も幸せになりたいだけよ?  私ね、自分が一番でないと気が済まないの」
「フリージア……」
「昔からお姉様は目障りだったのよ。私より格下の存在のくせに“お姉様”だなんて!  本当に気に入らなかったわ」
「……」

 嫌われているのは知っていた。
 だって、巻き戻り前の最後に会った時、フリージアは私の耳元でこう言ったから。

 ───私、お姉様のこと、ずっとずっと大っ嫌いだったの

 あの言葉は忘れない。

「でもねぇ、お姉様をあんな風に事故を装ってまで殺すことにした理由はそれだけじゃないのよ~?」
「え?」
「お姉様には、私の幸せの為にも、どうしても確実に消えてもらわなくちゃいけなかったの」

 フリージアは黒い笑顔を浮かべながらそう言った。
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