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17. 誘惑する異母妹

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❋❋❋❋


(ふふ、お姉様が出て行ってくれたわ~)

「ランドルフ殿下~、どうして私じゃダメなんですかぁ?」

 目障りなお姉様……ブリジットが、外の空気を吸いたいなどと言っていなくなってくれたので、目の前の王子に色仕掛けを開始することにした。

(さっきの上目遣い+涙目攻撃には、けっこう揺らいでいたと思うのよね~)

 やっぱり私の可愛さは最強だと思うの!  最高の武器よ!
 王宮に同行させただけでなく、こうして二人っきりの時間までくれるなんて……いつもは目障りなお姉様だけど、今回ばかりは感謝するわ。
 そう思いながら席を移動してランドルフ殿下の隣に腰をおろす。
 そして、自慢の胸を押し付けるようにして迫った。

「なっ……フ、フリージア嬢、な、何を……!?」

 ランドルフ殿下は明らかに動揺していた。

(ふふふ、やっぱりねー!  殿下ってこういう行動に弱いはず!  そう思ったのよ~)

 だってそうやって迫ったらあっさり私の手に堕ちてくれたもの。
 王子様なのにチョロいわ~
   
(ふふっ、お姉様。知っているかしら?  私はね、お姉様のものを奪うのがだーい好きなの)

 だって、お姉様って昔から目障りだったんだもん。
 だから、今回も王子様は私に頂戴、ね?

「殿下……わ、私はランドルフ殿下のことをお慕いしています……」
「え?  フ、フリージア嬢……?」

(ふふっ……)

 ギュッ
 更に身体を密着させて胸と身体をランドルフ殿下に押し付ける。

「……っっ!」
「お願いです!  お姉様じゃなくて、私を見てください!  もし、ラディオン侯爵家の力添えが目当てなら、相手は私だって構わないはずです!」 

 目を潤ませて上目遣いで訴える。
 私だってお父様の娘よ?
 ちゃんとラディオン侯爵家の血は引いてるし、現夫人の娘!  
 更にはお姉様を産んだ母親より私のお母様の方が格上なんだから!

(それって、つまり私の方がお姉様なんかより上ってことでしょ?)

 子供の頃に使用人からその話を聞いて知ってから決めたの。
 それなら、お姉様のものはぜーんぶ私が貰ってもいいわよね?  って!
 そうして、さり気な~く、お姉様が家で孤立するようにと色々仕掛けてきたけれど、まさかお姉様がこの国の王太子殿下に見初められるなんてね……

(ダメよ。そんなことはあってはいけないの!)

 お姉様が王太子妃になって、ゆくゆくはこの国の王妃になるですって?
 そんなの有り得ない!  
 全てにおいて勝ってる私の方が相応しいに決まっているわ。

「お……ケホッ……わ、私は別にラディオン侯爵家の力が、ほ、欲しい訳ではない!」
「え?  違うのですか?」
「ああ。妃をどの立場から迎えようとも、私の地位は変わらず安泰だからな」
「……」

 な、何ですってぇーー!?  
 嘘でしょ!?
 殿下の目当ては侯爵家の力じゃなかったと言うのーー?
  
「そ、それなら、殿下は本当にあの日、お姉様のことを見初めて婚約を申し込んだのですか……!?」

 私は寄り添ってあなたを励まし続けたのよ!?
 お姉様なんて人を呼びに行っただけなのに!  
 やっぱり許せない!
 ああ、そうなるとまたしてもお姉様は目障りだから……

「…………違う」
「え?」

 、ブリジットをどうやってこの世から追いやってやろうかと考えを巡らせていたら、思いもよらぬ返事が返って来た。

(違う……ですって?)

 ランドルフ殿下は目線を落とし暗い表情を浮かべる。

「───違う。お……私は別にブリジット嬢に懸想しているわけでも見初めたわけでもない……」
「ど、どういうことですか!?」

 あんな脅しのような言葉を使ってまで、お姉様を婚約者にしようとしているのに?
 おかしいでしょ?
 どういうこと?

「そ、それなら私を選んで下さっても……」
「駄目だ。君は明るくて可愛くて、その豊かなむ……ね、コホッ……とにかく、色々と魅力的だ……」
「まあ!」

 ふふ、思わず笑みがこぼれる。

(あら?  結構、私にグラついてるじゃないの。王子様ってチョロ~~い)

「───だが、君では駄目なんだ」
「な……」
  
 それなのに、ランドルフ殿下は私を否定する。
 だから、何でなのよーーーー!!

「……わ、私がブリジット嬢に求婚している理由は、彼女を見初めたわけでも散々口にして来た倒れていた時に助けられたお礼などではない……あれはただの口実なんだ」
「口実?  ど、どういうことですか?」

 口実というその言葉に驚いてランドルフ殿下に詰め寄る。
 すると、殿下は目を逸らしながら何度も何度も口ごもっていたが、やがて小さな声で呟くように言った。

「……ふ、復讐……」
「え?  ふく?」
「私が、ブリジット嬢に求婚している理由は“復讐”なのだ!」
「ふ、復讐!?」

 最初がよく聞こえなかったので聞き返す。
 すると、今度は大きな声で、まるで怒鳴るようにランドルフ殿下はそう口にした。

(どういうことーー!?)



❋❋❋❋



 一方その頃、庭園では……


「ラ、ランドールさんの“大切な物”をフリージアが奪った……ですか?」
「そうだ」

(フリージア……あなたって子は一体何をしたの?)

 ランドールさんは辛そうな顔で頷くと、そっと私の腰に手を伸ばして抱き寄せた。
 “ランディ様”の事を意識してしまったせいで、胸が高鳴る。

「何より大切だったんだ……例え、自分のものにならなくても、遠くから眺めるだけでも……良かった、のに」
「眺める?」

 大切な物って、鑑賞するものなの?
 それを壊された……とかそういうことかしら?

(……ん?)

 いえ、ちょっと待って?? 
 昔のことは置いておいて……私ですら“ランドール”さんと出会ったのは最近なのよ?
 それなのに、いったいフリージアはいつ彼と出会っていたというの?

(……あ!  でも……)

 ───お姉様、あの人、誰?

(そうだ、確かあの時のフリージアは何故か、ランドールさんの背中を穴があきそうなくらい凝視していた)

 ───そうじゃないわ!  どこの誰なのか知っているの?  と聞いているの!  名前とか家名とかよ!

(どこの誰なのかも知りたがっていた……)

 てっきり好みのタイプだからと思っていたけれど、あれは……既に以前にどこかで二人が出会っていたから? 

「……」

 そう思った所で、私の中にモヤッとした黒い気持ちが生まれる。

(…………すっごく嫌!)

 ランドルフ殿下あの人のことなら、二人がどこで何しようと構わないけど、ランドールさんは嫌……
 この温かくて優しい場所は……私の……私だけの……
 そう思って私はギュッとランドールさんの服を掴む。

「ランドールさんは、フ、フリージアとどこで知り合ったんです……か?」
「え?」

 自分の声が震えているのが分かる。
 目にも薄ら涙が浮かんでしまっている。
 こんな泣き落としみたいな真似をしたかったわけじゃないのに……
 でも、声の震えも溢れそうになる涙も止まってくれそうにない。

「そ、それにフリージアに奪われたあなたの大切な物って……なんです、か?」

 眼を瞬かせるランドールさん。

「ランドールさん……」
「──ブリジット、様」
「!」

 ランドール様は、ギュ~~ッときつく私を抱きしめると耳元に口を寄せて囁いた。

「────それは、あなたです……ブリジット様」
   
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