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4. 出会いの日

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 何だか家族や使用人の私を見る目が変わったような気がしなくも無いけれど、それからの私は平穏に過ごしていた。

 そして───……

(……いよいよ、だわ)

 そしてやって来ようとしているのが……殿下……ランドルフ様との出会いの日。
 私は頭の中で必死に前回の記憶を整理する。

(えっと……確か出会いのそもそもの始まりは……)

 その日の朝食の後、フリージアが買い物に行きたいと突然、皆の前で言い出す。
 だけど、お父様とお義母様には用事があったので付き添うのは無理という事になり……
 だから、お父様に命令されるのよね、ブリジットが付き添え、と。
 ……なんで私が……という不満は聞き入れて貰えずに、仕方なくフリージアに付き添って嫌々出向いた街で倒れている殿下を発見した……だったはず!

 ──放っておきましょう?  すぐに誰かが来るわよ。
 最初、関わりたくなくてそう言って見捨てようとした私に、そんな事は出来ない、ダメよ!  と言って助けようとしたフリージア……

(放っておきましょう?  なんて、口にした私には最初からあの人の側にいる資格なんてなかったのよ) 

 今ならよく分かるわ。
 だから、今度こそ私はもう間違えない。


─────


 そして、当日。

「私、今日この後、買い物に行きたいと思っているの」
「!」

 朝食を終えた後、フリージアが過去と全く同じ言葉を口にした。
 ……来たわ!
 それに対してお父様とお義母様は困った顔を浮かべて───……

「……そうか。だが、護衛と付き添いが必要だな。しかし私は用事があるから無理だ。すまない」
「えー……」

 お父様が記憶通りの言葉を発したので、私は内心でそうそうと頷く。
 続いてお義母様が“私も用事があるから無理”と言うはずで……
  
「私も用事があったけれど、変更して一緒に街に行こうかしら?」
  
 ───え! 
 なんとお義母様が記憶に無いことを言い出したじゃないの!
   
(どうしてーー!?)

 これでは、別の意味で未来が変わってしまうかもしれない。
 下手をすれば、殿下とフリージアが出会わない可能性だって出て来てしまうわ。
 ……これは、私が自ら立候補するしかなさそう。
  
「……わた」
「ありがとうお母様!  でもね、出来れば私はお姉様と行きたいなぁ、と思っているの」

(──ん?)

 私が行くわ、と言いかけた言葉はフリージアの言葉にかき消されてしまった。
 それにどういうこと?  
 フリージアまで過去にない発言を始めたのだけど?

「あら、そうなの?  でも子供同士は……」
「ええ、分かっているわ。でもね、お母様には申し訳ないけれど、私はお姉様がいいわ!  お姉様と出かけたいの!」
  
 フリージアが畳み掛けるように必死に頼み込んでいる。

「もちろん、護衛も付けるわ!  だからお願い!」
「……フリージアったら。それなら、ブリジットに聞いてご覧なさい」
「わーい!  ……ねぇ、お姉様?  ……ダメかしら?」

 手を胸の前で組んだフリージアが上目遣いで私を見つめる。

「……」
「お姉様?」

 フリージアのどこか甘えたような声に私はハッとする。
 いけない……あまりにも驚きすぎて固まっていたわ。
 私は慌てて口を開く。

「わ、分かったわ。私で良ければ……」
「やったぁ!  ありがとう、お姉様!」
「……」

 フリージアは嬉しそうに華のような微笑みを見せた。

「お姉様?  どうかした?」
「う、ううん……」

 何だか色々と複雑な気持ちだったので私は曖昧に微笑むことしか出来なかった。  
 でも、ちょっと驚いたけど、これでどうにか過去と同じように私がフリージアに同行することにはなった。
 ならば、後は倒れている彼を助けるだけ……

(だけど……必ずしも過去と全く同じ展開に……とはならないものなのかも……これは気を付けなくては!)

 自分の行動や言動によって大きく未来が変わってしまう可能性もあるということを改めて胸に刻んだ。


───


「……それで?  フリージア。あなたは何が欲しいの?」
「えっと~」 

 予定通り、街に出た私とフリージア。
 この会話も過去に交わした言葉と同じ。

「私、刺繍の糸が欲しいの」
「……刺繍」

  ──うん、私の記憶通りの言葉ね。
 ここで違うことを言われたらどうしようかと思ってドキドキしてしまったわ。
 なぜなら、殿下が倒れているのはその刺繍道具の売っている店の目と鼻の先なのだから。

「なら、こっちね。行きましょう」
「ええ、ありがとう、お姉様!」
「……」

 フリージアの無邪気な微笑みが私の胸にグサッと刺さる。
 私は身勝手にこの子の幸せを奪っていた……
 でも、大丈夫。今度はちゃんと初めからあなたと殿下を結びつけてみせるから。

「……あら?  お姉様。あそこに人が倒れているわ」
「え?」

 目的のお店まであと少しという所で、フリージアが倒れている人の姿を発見した。
 間違いない、きっと殿下よ!
 ここまでは何もかもが過去と同じ状況。
 早く助けたいけれど、私はここで気だるそうにあの言葉を言わなくては!
 私は大きく息を吸って吐いてから、口を開く。

「え~、そんなの放って……」
「お姉様、私がこの場に留まってを見ておくわ!  だから、お願い……お姉様は護衛と一緒に誰か人を呼んで来て?」
「え?」  
「早く!  ね?  いいでしょう?  お姉様」

 フリージアはそう言って、私に向かってにっこり笑うと倒れている殿下の元へと駆け出す。

(あれ?)

 またしても何かが違うわ?  と思いながらもフリージアの言う通りに私は、人を呼びに行くことにする。

(確かに私は人を呼びに行く役目だったけど……)

 でも、私が人を呼びに行ったのは、倒れている人……つまり殿下の様子を二人で確認してからだったはずなのに……
 ついでに言うと、護衛に「自分一人ではちょっと……」と、言われて他に人を呼びに行くことになるのよ。
 それなのに何故、この段階でフリージアがその指示を出すの?

「……?」
      
 少しずつの違いはあってもちゃんと過去の通りに物事は進んでいるはず……
 なのに、この胸に残るモヤモヤは何かしら?
 そんな事を考えてしまって一旦足を止めてしまう。
 そのせいで一緒に人を呼びに行こうとしていた護衛が不思議そうな顔をした。

「ブリジットお嬢様?」
「あ、な、何でもないわ。人……人を呼ばなくてはいけないわね!  行きましょう」
「はい」

 うまく言葉に出来ない複雑な気持ちを抱えつつも、私は人を呼ぶために走り出した。

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