上 下
16 / 26

13. 呪いを解くためにするべき事

しおりを挟む


「……殿下!」

  殿下との話を終えて、部屋から出ると同時に後ろから声をかけられた。

「プリメーラ?」

  王太子殿下が振り返って名前を呼ぶ。
  そこに居たのは、プリメーラ・ミーリン公爵令嬢……王太子殿下の婚約者その人だった。

「姿が見えないと思えば……」

  ミーリン公爵令嬢は、チラリと私を見る。

「また、女性を口説いていらしたの?」
「ちょっと待て!  違う。彼女は違う!」

  王太子殿下は必死に首を横に振る。

「何処がです?  もうこれで何回目ですの?  見たところ爵位も低そうなー……」

  全く聞く耳を持ってくれなさそうなミーリン公爵令嬢の言葉を遮るようにアシュヴィン様が口を開いた。

「ミーリン公爵令嬢」

  同時に何故かアシュヴィン様に抱き寄せられた。

「!?」

  驚きすぎて声が出なかった。アシュヴィン様ったら何をしているの!?

「彼女は俺のいっ………………婚約者だよ」
「え?  アシュヴィン様の……?」

  ミーリン公爵令嬢は驚きの顔を私に向ける。

「あぁ、そういえば婚約したという話でしたわね……えっと、確かどこかの男爵令嬢……」
「ル、ルファナ・アドュリアスと申します」
「あぁ、アドュリアス男爵家の令嬢でしたわね。失礼しましたわ。プリメーラ・ミーリンですわ。どうぞ、プリメーラと」
「あ、ありがとうございます」

  そう挨拶を交わしたものの私は未だにアシュヴィン様の腕の中……
  このまま挨拶って失礼だと思うのだけれど、とにかくアシュヴィン様が離してくれない!

  そんな私(達)を見たプリメーラ様は目をパチクリさせながら隣に立つ王太子殿下に言った。

「……熱々ですわね?」
「だろう?  だからこれは君の勘違いだ」
「……申し訳ございませんでしたわ」
「いや。そもそもは、私のせいだからな」
「まぁ、自覚はお有りなのですね!?  それならばー……」

  一瞬しおらしくなったプリメーラ様だったけれど、すぐにまた殿下に突っかかっていた。

  そんな二人を見てやっぱり思う。
  呪いは多くの人を傷付けている。早く解ければいいのに。

「だいたい、この二人はいつもこんな感じなんだ」
「アシュヴィン様……」

  それよりもいつまで抱いているのですか??
  さすがにだんだん恥ずかしく……なって……くるわ……

  (プリメーラ様にも熱々って言われたし……そんなんじゃないのに)

「……ルファナ」
「!?」

  何故か更に強く抱き締められた。
  どうしてなの!?

「その顔は……」
「顔、ですか?」
「反則だ」
「……はい?」
「……」

  聞き返したけれど、また黙りだった。なのに離してはくれない。
  もう、ずるい!! 
  
  (だけど、恥ずかしくても離れたくないと思っている自分わたしもいる……)





「ねぇ、殿下。どうしてちょっと目を離した隙にもっと熱々になっているんですの?」
「……先日の私のパーティーでもお腹いっぱいになった」

  ──王太子殿下とプリメーラ様は小さな声でそんな会話を繰り広げていた……らしい。
  アシュヴィン様に翻弄されていた私は知らなかったけれど。



◇◇◇




  王太子殿下とアシュヴィン様は帰る前に先生に用事があるとかで今は席を外している。
  私はプリメーラ様と二人で彼らが戻って来るのを待っていた。



「ルファナ様が羨ましいですわ」
「どうしてですか?」

  プリメーラ様が寂しそうな声で私にそう言った。

「アシュヴィン様と仲良しではありませんか……わたくしなんて……」
「え!」

  いやいや、プリメーラ様誤解です!
  私、ずっと素っ気なくされていた身ですよ!?

「分かっているの……わたくしに魅力が無いから殿下は他の女性を口説くのよ……政略結婚で決まったわたくしでは駄目なのよ……」
「プリメーラ様……」

  そう口にするプリメーラ様は今にも泣き出しそうだ。

  あぁ、やっぱり誤解してしまっている。
  違うわ、それは呪いのせいなのに!

「プリメーラ様、もし、自分の意思とは無関係に勝手に女性を口説いてしまう……という呪いのような事があると言ったら……信じてくれますか?」
「は?」

  プリメーラ様が目を丸くして驚いている。
  そういう反応になるのは仕方ない。


「何を言っているのです?」
「プリメーラ様、殿下は何度かあなたに言いませんでしたか?  女性を口説くのは自分の意思では無い、と」
「えぇ。なんて見苦しい言い訳をなさるのかと思ってましたけど?」
「それ、本当に言い訳では無いのです」
「?」

 
  殿下と殿下の近しい学友の面々に何が起きているのかを私はプリメーラ様に説明をする。
  実はこれ、殿下にそれとなく話して貰えたら……と、頼まれていた。
  話の矛先が呪いに関連する話になって助かったわ。
  




「……つまり、あなたの婚約者のアシュヴィン様も何か症状が?」
「みたいです。アシュヴィン様はどんな症状なのかは教えてくれませんが……お辛そうでした」
「クルス様の婚約者である、ミーニャがクルス様が突然変わられ、酷い暴言を吐かれたから哀しくて叩いてしまった、と泣いていたのは……」
「それもですね……」

  クルス様の件はさっき聞かされた。
  あれは双方共にショックの大きい呪いだと思う。

「……ルファナ様、あなたは信じているの?」
「えぇ、信じています」
「……」

  プリメーラ様の心は揺れていた。
  すぐに信じられる話ではない。
  私だって、リオーナからおかしな話を散々聞かされていなければ、あの日、殿下に“呪い”だと打ち明けられても信じる事など出来なかった。

「プリメーラ様、殿下は内密に呪いの解呪方法について調べています。そして、先程私はその手がかりの一つを知らされました」
「解けるの!?」

  プリメーラ様が勢い良く食らいついてくる。

  (あぁ、プリメーラ様は殿下の事を想っているのね)

「……愛、なんですって」
「愛?  抽象的過ぎるわ!」
「ですよね、私もそう思います」

  さっき、殿下は言った。
  呪いを解くには女性の愛が必要だと。そしてー………



───……


「そうか。そしてその肝心の“女性”なのだが……」

  (リオーナ……解けるのは一人の女性だけ!  なんて言わないわよね?)

  そんな思いで殿下の言葉の続きを待った。

「単純に考えれば、各々の婚約者が適任だとは思う」
「!」
「だが、アシュヴィンはともかく、私達の今の婚約者との関係を思うと……」
「……」

  そうだった。皆、呪いのせいで婚約者との関係にはヒビが……

「……果たして今の状態で話しても信じてもらえるかどうか……」

  だが、話してみるしかない……殿下は悔しそうな顔でそう言った。


─────……


「プリメーラ様。方法は分かりません。それでも、私はアシュヴィン様の呪いを解くのは私でありたいです」
「ルファナ様……」

  リオーナには絶対に譲りたくないし、お願いもしたくない。


  どうやらこの呪い……遠い過去にも似たような事が起きていたらしく、その時の記録が見つかったらしい。
  ただ、残念ながら記録には……解呪に必要なのは“愛”であるとだけ記され、詳しい方法は載っていなかったという。

  だって、殿下はこうも言っていた。


─────……


「だが、過去の記録ではこういった類の呪いの事が明らかになると、“解呪出来る方法を知っています”と、言い出す女性が現れたそうだ」

  それは、呪われた人達の婚約者でも何でもない女性なのだと言う。

  (それって、まさにリオーナの事ではないの!?)

  私は慄いた。
  けれど、殿下ははっきりこうも言った。

「私は正直、そんな胡散臭い事を言い出す女性に頼みたいとは思わない!」

  だからこそ何としても婚約者との関係を改善したいのだ、と殿下は言った。
  
 ─────……



「……ルファナ様」
「はい」
「私、しっかり殿下と話をしてみますわ」
「……!」
「あと、ミーニャにも話をしなくては……」

  そう話すプリメーラ様を見て、
  あぁ、本当にリオーナに頼らなくても大丈夫かもしれない。
  そう思った。




◇◇◇




「……それじゃ」
「アシュヴィン様、ありがとうございました」
「いや……」

  アシュヴィン様はリオーナに言ったようにきちんと私を屋敷まで送ってくれた。

  (まぁ、馬車の中でも、散々目は逸らされたけれど!)

  それでも前より気にならなくなったのは……アシュヴィン様の事が前より理解出来るようになったからかもしれない。

  そうして別れの挨拶を終えアシュヴィン様を見送った。





「あぁ、ルファナ……おかえり」
「お父様?」

  帰宅すると直ぐに玄関口に何故かお父様が現れた。

  (……ん?  何だかお父様の様子が変だわ……)

「……ルファナ、すまない。ちょっといいか?」
「?」

  どうしてだろう。とても嫌な予感がした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

処理中です...