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閑話② 最愛の婚約者とその妹 (アシュヴィン視点)
しおりを挟む「呪いの類について詳しい者に調べてもらった結果……過去の記録が見つかり少し分かった事がある」
殿下がそう言った。
“呪い”にかかっていると思われる俺達は事の進展に胸を弾ませた。
「どうも私達の呪いにはー……」
◇◇◇
殿下の話を受けて、俺はルファナを迎えに行く事になった。
ルファナは既に俺達の事情に巻き込んでしまった。だから、入手した情報は当然ルファナも知っていた方がいい。
(まぁ、殿下なりにルファナに会いに行く口実をくれたのだろうな)
本当は用なんて無くても会いたい。彼女に会いに行きたい。顔が見たい。
婚約者の座を手に入れてからは、図書室に通うのは遠慮していたから尚更だ。
(さすがに今だとこっそり見ようとしても見つかってしまうだろうし)
そんなルファナは今日も図書室にいるのだろう。
そう思って覗くとやはり彼女──ルファナはそこにいた。
(また、熱心に本を読んでいるな)
机の上には本日出されたであろう課題もあるが、ルファナは本を読んでいた。
大方、最初は課題をこなしていたけど、我慢出来ずに途中で本を読みたくなってしまった……って所だろう。
(そんなところも可愛い)
まぁ、ルファナは何をしていても可愛いと思うが……
邪魔をするのは申し訳ないな……
そう思いながら彼女に声をかけた。
勉強の邪魔をして申し訳ないという気持ちを伝えたら、彼女は何とも答えにくい質問をして来た。
(……くっ! そうだよ、ずっと君を見ていた)
そう口に出来たらいいのに……忌まわしい呪いめ!!
と、呪いに対して改めて怒りを覚えた時、突然、声をかけられた。
リオーナ・アドュリアス。
ルファナの妹だ。
──正直に言うと、俺はこのルファナの妹が……苦手だ。
初めてルファナの妹である、リオーナ嬢と顔を合わせたのは、ルファナとの婚約が決定して何度目かの顔合わせの時だった。
その時の俺は既に呪いにかかっていて、ルファナを直視出来なくなっていた。
俺のそんな態度のせいでルファナとの間に流れる空気を察知したのか……リオーナ嬢は終始、意味深な笑みを浮かべていた。妙にあの顔が気になった。
……何かを企んでいそうで。
その後は特に顔を合わせる事もないままだったが、学園に入学して来たリオーナ嬢は、奇っ怪な行動をとっていた。
ルファナと目撃したあの日の裏庭での棒立ち。
あれだけでも意味不明だったが、その後、数日間あそこでずっと立ち続けていたらしい。
他の生徒から「おかしな令嬢がいる」と、相談を受けた時は軽く目眩がした。
おそらく、リオーナ嬢本人は気付いていないようだが、周囲には「変な女」として認識されているとか。
(パーティーの直談判の件もな……)
『だって、お姉様……私に暗い顔をして言ったのです』
『王太子殿下の誕生日パーティーに行けるのは嬉しいけど、パートナーが……アシュヴィン様だと楽しめる気がしない……と』
その言葉をリオーナ嬢から聞かされた時は、ショックだった。
(やっぱり俺の態度のせいで嫌われてしまったのか!)
ルファナとパーティーに出られる。
公の場で彼女を俺の婚約者として紹介出来る……
その事が嬉しくて、時期尚早だと分かっていながら俺はルファナにあのアクセサリーを贈ったんだ。
(あのアクセサリーは俺と結婚し妻となった女性が身につけるもの。本来は婚約段階で贈るものでは無い)
でも、俺はルファナを手放すつもりは無い。
その意思表示として贈った。
いつか受け入れてくれたらいいな……そんな気持ちで。
だが、リオーナ嬢が言うにはルファナは嫌がっている……
そう落ち込んでいた俺にルファナは、あの真っ直ぐな瞳で俺を見つめて、目を逸らすなと言ってこう口にした。
『嬉しかったです!』
『あれらを身につけてパーティーに参加するのを私はとても楽しみにしているのです』
きっとルファナはあの俺のアクセサリーを身につけて社交界に出る事がどんな意味を持つのかはきっと知らないのだろう。
(俺が愛してるのは君だよ、ルファナ)
あの時、あまりの嬉しさに泣きそうになった事は墓場まで持って持って行くつもりだ。
小さな声で「ありがとう」しか言えなかった俺は情けない……
(ルファナはこんなどうしようもない俺なのにちゃんと向き合おうとしてくれている……)
そんなルファナが堪らなく好きだ……
あぁ、どうしてこの気持ちが伝えられないんだ!!
だが、分からないのは嘘をついた妹……リオーナ嬢の真意だった。
そうまでしてパーティーに行きたかったのか?
そんな疑問だけが残り───……
──そして今、その妹は再び嘘を吐いてルファナを陥れようとしていた。
(リオーナ嬢は何がしたいんだ?)
延々とルファナが酷い姉だと思いたくなるような言葉を口にするリオーナ嬢。
よくもまぁここまででっち上げられるものだと、逆に感心してしまうほどだ。
一方のルファナは呆気に取られていた。
(どっちが酷いんだかな)
「リオーナ嬢……君は妹なのにルファナの事を全く分かっていないのだな」
これ以上は聞いていられない。そう思って止めに入る事にした。
どうして?
と聞き返すリオーナ嬢にはっきりと言わなくては!
「どうして? 当然だ。ルファナはこんなにも、可愛……コホンッ……優……愛………………とにかく、君の誤解だ!」
──畜生! 呪いめ!!
(ルファナはこんなにも、可愛くて優しくて愛情深いのに!)
これくらい言わせてくれてもいいだろう!?
これじゃ情けなさすぎるだろう!
何が引っかかったんだ? 可愛いか? だって可愛いんだから仕方ないだろう……
当然、リオーナ嬢は変な顔をしたが、そのまま話は続行したので後は思う通りに言わせて貰った。
「待って下さい、アシュヴィン様! ど、どうして……お姉様を庇うのですか?」
この言葉の後のリオーナ嬢の様子がおかしかった。
無言で何かを訴えて来た。
「で、ですから! 私の目を見て下さい、アシュヴィン様!! ほら……ね? 私だけ……私だけがあなたを……」
「……」
……リオーナ嬢のこの言葉を聞いた時、俺は直感的に思った。
────あぁ、こいつだ!
さっき殿下が俺達に話してくれた『呪いを解く事が出来ます』とか言い出す女性はきっとリオーナ嬢だ。
殿下は後でルファナに話すらしいが、この呪いは過去に事例があったらしく、記録が残されていた。
そこに記されていた呪いを解く事が出来ると言い出す怪しい女性……
理由は分からないが、それはリオーナ嬢の事だと俺の心が言っている。
(関わりたくない)
そう思った。
呪いは解きたい。ルファナに好きだ、愛していると伝えたいから。
だが、呪いを解く鍵が“愛”だと言うのなら……
(俺の呪いを解けるのはルファナしかいない)
俺はそう思っている。
ルファナ以外に解いてもらいたいとも思わない。
その後、無理やりリオーナ嬢を黙らせてその場を去ったが……
「……アシュヴィン様は、その……リオーナの言葉を信じなかったのですか? ……私が妹を虐める酷い姉……なのだと」
ルファナが心配そうな顔でそう聞いて来た。
(なんて顔してるんだ……そんな不安そうに)
そんな誤解するわけないだろう?
そう言いたいが、余計な事も言おうとして、また呪いが発動しそうな気がする……
だから、俺は卑怯だと思いながらも彼女の手を取りギュッと握って一言だけ告げた。
「ルファナはそんな事をしない」
どうか、ちゃんと君への想いが口に出来るその日まで……
今はこれで俺の気持ちが伝わってくれますように……
そう願って。
そんなルファナとの時間を過ごしていた俺は、まだ知らない。
リオーナ嬢が、父親に婚約者交代を願い出ている事を……
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