上 下
17 / 26

閑話② 最愛の婚約者とその妹 (アシュヴィン視点)

しおりを挟む


「呪いの類について詳しい者に調べてもらった結果……過去の記録が見つかり少し分かった事がある」

  殿下がそう言った。
  “呪い”にかかっていると思われる俺達は事の進展に胸を弾ませた。

「どうも私達の呪いにはー……」




◇◇◇


  殿下の話を受けて、俺はルファナを迎えに行く事になった。
  ルファナは既に俺達の事情に巻き込んでしまった。だから、入手した情報は当然ルファナも知っていた方がいい。

  (まぁ、殿下なりにルファナに会いに行く口実をくれたのだろうな)

  本当は用なんて無くても会いたい。彼女に会いに行きたい。顔が見たい。
  婚約者の座を手に入れてからは、図書室に通うのは遠慮していたから尚更だ。

  (さすがに今だとこっそり見ようとしても見つかってしまうだろうし)

  そんなルファナは今日も図書室にいるのだろう。
  そう思って覗くとやはり彼女──ルファナはそこにいた。

  (また、熱心に本を読んでいるな)

  机の上には本日出されたであろう課題もあるが、ルファナは本を読んでいた。
  大方、最初は課題をこなしていたけど、我慢出来ずに途中で本を読みたくなってしまった……って所だろう。

  (そんなところも可愛い)

  まぁ、ルファナは何をしていても可愛いと思うが……

  邪魔をするのは申し訳ないな……
  そう思いながら彼女に声をかけた。




  勉強の邪魔をして申し訳ないという気持ちを伝えたら、彼女は何とも答えにくい質問をして来た。

  (……くっ!  そうだよ、ずっと君を見ていた)

  そう口に出来たらいいのに……忌まわしい呪いめ!!
  と、呪いに対して改めて怒りを覚えた時、突然、声をかけられた。

  リオーナ・アドュリアス。
  ルファナの妹だ。

  

  ──正直に言うと、俺はこのルファナの妹が……苦手だ。

  初めてルファナの妹である、リオーナ嬢と顔を合わせたのは、ルファナとの婚約が決定して何度目かの顔合わせの時だった。
  その時の俺は既に呪いにかかっていて、ルファナを直視出来なくなっていた。

  俺のそんな態度のせいでルファナとの間に流れる空気を察知したのか……リオーナ嬢は終始、意味深な笑みを浮かべていた。妙にあの顔が気になった。
  ……何かを企んでいそうで。

  その後は特に顔を合わせる事もないままだったが、学園に入学して来たリオーナ嬢は、奇っ怪な行動をとっていた。

  ルファナと目撃したあの日の裏庭での棒立ち。
  あれだけでも意味不明だったが、その後、数日間あそこでずっと立ち続けていたらしい。
  他の生徒から「おかしな令嬢がいる」と、相談を受けた時は軽く目眩がした。

  おそらく、リオーナ嬢本人は気付いていないようだが、周囲には「変な女」として認識されているとか。

  (パーティーの直談判の件もな……)

『だって、お姉様……私に暗い顔をして言ったのです』
『王太子殿下の誕生日パーティーに行けるのは嬉しいけど、パートナーが……アシュヴィン様だと楽しめる気がしない……と』

  その言葉をリオーナ嬢から聞かされた時は、ショックだった。

  (やっぱり俺の態度のせいで嫌われてしまったのか!)

  ルファナとパーティーに出られる。
  公の場で彼女を俺の婚約者として紹介出来る……

  その事が嬉しくて、時期尚早だと分かっていながら俺はルファナにあのを贈ったんだ。

  (あのアクセサリーは俺と結婚し妻となった女性が身につけるもの。本来は婚約段階で贈るものでは無い)

  でも、俺はルファナを手放すつもりは無い。
  その意思表示として贈った。

  いつか受け入れてくれたらいいな……そんな気持ちで。

  だが、リオーナ嬢が言うにはルファナは嫌がっている……

  そう落ち込んでいた俺にルファナは、あの真っ直ぐな瞳で俺を見つめて、目を逸らすなと言ってこう口にした。


『嬉しかったです!』

『あれらを身につけてパーティーに参加するのを私はとても楽しみにしているのです』


  きっとルファナはあの俺のアクセサリーを身につけて社交界に出る事がどんな意味を持つのかはきっと知らないのだろう。

  (俺が愛してるのは君だよ、ルファナ)
  
  あの時、あまりの嬉しさに泣きそうになった事は墓場まで持って持って行くつもりだ。
  小さな声で「ありがとう」しか言えなかった俺は情けない……

  (ルファナはこんなどうしようもない俺なのにちゃんと向き合おうとしてくれている……)
 
  そんなルファナが堪らなく好きだ……
  あぁ、どうしてこの気持ちが伝えられないんだ!!


  だが、分からないのは嘘をついた妹……リオーナ嬢の真意だった。
  そうまでしてパーティーに行きたかったのか?


  そんな疑問だけが残り───……


   ──そして今、その妹は再び嘘を吐いてルファナを陥れようとしていた。


  (リオーナ嬢は何がしたいんだ?)

  延々とルファナが酷い姉だと思いたくなるような言葉を口にするリオーナ嬢。
  よくもまぁここまででっち上げられるものだと、逆に感心してしまうほどだ。


  一方のルファナは呆気に取られていた。


  (どっちが酷いんだかな)


「リオーナ嬢……君は妹なのにルファナの事を全く分かっていないのだな」

  これ以上は聞いていられない。そう思って止めに入る事にした。
  どうして?
  と聞き返すリオーナ嬢にはっきりと言わなくては!

「どうして?  当然だ。ルファナはこんなにも、可愛……コホンッ……優……愛………………とにかく、君の誤解だ!」

  ──畜生!  呪いめ!!
 
  (ルファナはこんなにも、可愛くて優しくて愛情深いのに!)

  これくらい言わせてくれてもいいだろう!?
  これじゃ情けなさすぎるだろう!
  何が引っかかったんだ?  可愛いか?  だって可愛いんだから仕方ないだろう……
  

  当然、リオーナ嬢は変な顔をしたが、そのまま話は続行したので後は思う通りに言わせて貰った。

「待って下さい、アシュヴィン様!  ど、どうして……お姉様を庇うのですか?」

  この言葉の後のリオーナ嬢の様子がおかしかった。
  無言で何かを訴えて来た。

「で、ですから!  私の目を見て下さい、アシュヴィン様!!  ほら……ね?  私だけ……私だけがあなたを……」
「……」

  ……リオーナ嬢のこの言葉を聞いた時、俺は直感的に思った。


  ────あぁ、こいつだ!


  さっき殿下が俺達に話してくれた『呪いを解く事が出来ます』とか言い出す女性はきっとリオーナ嬢こいつだ。

  殿下は後でルファナに話すらしいが、この呪いは過去に事例があったらしく、記録が残されていた。
  そこに記されていた呪いを解く事が出来ると言い出す怪しい女性……
  理由は分からないが、それはリオーナ嬢の事だと俺の心が言っている。

  (関わりたくない)

  そう思った。
  呪いは解きたい。ルファナに好きだ、愛していると伝えたいから。

  だが、呪いを解く鍵が“愛”だと言うのなら……

  (俺の呪いを解けるのはしかいない)

  俺はそう思っている。
  ルファナ以外に解いてもらいたいとも思わない。


 






  その後、無理やりリオーナ嬢を黙らせてその場を去ったが……

「……アシュヴィン様は、その……リオーナの言葉を信じなかったのですか?  ……私が妹を虐める酷い姉……なのだと」

  ルファナが心配そうな顔でそう聞いて来た。

  (なんて顔してるんだ……そんな不安そうに)

  そんな誤解するわけないだろう?
  そう言いたいが、余計な事も言おうとして、また呪いが発動しそうな気がする……

  だから、俺は卑怯だと思いながらも彼女の手を取りギュッと握って一言だけ告げた。

「ルファナはそんな事をしない」

  どうか、ちゃんと君への想いが口に出来るその日まで……
  今はこれで俺の気持ちが伝わってくれますように……


  そう願って。


  そんなルファナとの時間を過ごしていた俺は、まだ知らない。
  リオーナ嬢が、父親に婚約者交代を願い出ている事を……

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する

清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。 たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。 神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。 悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

転生公爵令嬢の婚約者は転生皇子様

撫羽
ファンタジー
タイトル変更しました! 『王道?転生公爵令嬢と転生皇子の日常』から『転生公爵令嬢の婚約者は転生皇子様』です。 魔物討伐の最中、魔法をブッ放した直後に突然前世を思い出した、主人公ルルことルルーシュア。 前世では10代で病死し、ペットのシルバーのトイプードルのモモだけが友達で家族だった。 そんな前世を送ったルルが転生した! イケメン兄や両親に愛され、隠しキャラの婚約者が現れたり、ヒロインを断罪したり、とんでもないペットが増えたり、本人が気付かないうちに色々やらかします。 皆に愛されながら、婚約者の愛情を受けて、ちょっと世直ししながら、日々生活していく物語です。 意地悪令嬢は出てきません。 主人公の周りには、イケメン兄とイケメン婚約者と言うよくあるテンプレ設定です。 R指定も怖い表現も全くありません。ほのぼのと淡々と、よくある転生物語です。 設定も、ふんわりしてます。 細かい事に拘らず、大きな気持ちで、クスッとしながら読んで頂けたら嬉しいです。 なろうで、原案を公開してます。これは修正後のものです。 不定期投稿で申し訳ありません。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

【完結】殿下の本命は誰なのですか?

紫崎 藍華
恋愛
ローランド王子からリリアンを婚約者にすると告げられ婚約破棄されたクレア。 王命により決められた婚約なので勝手に破棄されたことを報告しなければならないのだが、そのときリリアンが倒れてしまった。 予想外の事態に正式な婚約破棄の手続きは後回しにされ、クレアは曖昧な立場のままローランド王子に振り回されることになる。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

処理中です...