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4. 目が覚めたら
しおりを挟む(苦しい……助けて────)
「────はっ!?」
何故か私はハッとして目を覚ました。
……目を覚ました?
真っ先に私の視界に飛び込んで来たのは見慣れた天井。
そのまま起き上がって部屋の中を見回す。やはりここはどこからどう見ても私に与えられている物置部屋に間違いなかった。
「誰もいない……どういう事? だって私、スザンナさんにこの部屋で毒を飲まされて……」
すごく苦しくて、意識を失った。絶対に死んだと思ったのに。
何故、私はベッドに寝ていたの?
「しかも、身体が全然苦しくない」
あんなにぐにゃりと歪んでいた視界もすっきりクリアだった。
「……」
自分の身体の頭からつま先までペタペタ触って異変が無いか確かめて見る。
動く!
ならば、と思い次に頬をつねってみた。
もしかしたら自分にとって都合のいい夢を見ているだけなのかもしれないから。
「……痛い」
と、いう事は? これは夢じゃない?
「……もしかして、私は生きてるの?」
何故かは分からない。でも、生きている!
そう思ったけれど、ふと違和感を覚えた。
「…………あれ? この服」
最後に記憶している時の着ていた服と違う。いつの間にか着替えている?
でも、おかしい。
だって……
「この服って確か先日、ビリビリにされて駄目にしてしまった服だわ」
そうよ。
お嬢様に「裾にフリルがついている服を着るなんて生意気」と言われて破かれた。
「どういう事なの……」
でも、このまま物置部屋でこうしていても何も分からない!
そう思った私は、部屋を出て様子を伺う事にした。
そっと扉を開けて廊下に顔を出す。
「……」
部屋の前には誰もいなくて、とりあえず、部屋の前にスザンナさんがいる! なんて事態になっていない事に安堵した。
よく分からないけれど、せっかく生きているらしいのにまた殺されるのはごめんだもの。
(とりあえず、外に……)
そうして部屋を出た私はそっと足音を立てないように気をつけながら廊下を歩く。
「……え? もしかして、今って朝なの?」
窓の外を見るとちょうど日が昇っている。
「……」
毒を飲まされて気を失った時、時間はまだ夕方だった。なのに今はもう朝。
私はそんなに眠っていたの?
本当に?
(違う、そうじゃない。これは何かが変)
私はそんな考え事をしていたせいで、全く前を見ていなかった。
だから……
ドンッ
前方から歩いて来た人と勢いよくぶつかってしまった。
「痛っ」
「あ……!」
彼女は普段から私を蔑む侍女の一人で、お嬢様のお気に入り。
「痛いじゃないの! 前も見て歩けないの!?」
「も、申し訳ございま……」
そうして謝りながら彼女の顔を見て気付いた。
(────か、髪が!)
私の知っている彼女の髪の長さと違う……
「……!!」
「? 何よ、人の顔をじろじろ見て! 気持ち悪い! あんたもお嬢様を起こしに行くところだったんでしょう? モタモタするんじゃないわよ!!」
「す、すみません……」
どうやら、もうそんな時間らしい。
(お嬢様を起こす……社交界デビューのパーティーはどうなったのかしら?)
やっぱりおかしい。
あのお嬢様が私が帰宅した際に出迎えずに眠っている事を許すはずが無い。
また、色々な事を考えながらお嬢様の部屋に向かい、部屋に入ってまた違和感を覚えた。
(……部屋にある物が……違う。これは以前の……)
お嬢様は好き放題しているから、物はよく増えるし、部屋の飾りもすぐ変更してしまう。
そして、今のこの部屋の様子には覚えがある。これらは確か……
「…………半年前」
私は小さな声でそう呟く。
「ちょっと!? 何か言った?」
「あ、いえ……」
睨まれたので私は慌てて首を横に振る。
「何でもないのなら早くお嬢様を起こしなさいよ! 昨夜、すごい機嫌が悪かったから絶対にあたられるから、あんたが起こすのよ!」
「……」
お嬢様の寝起きは悪い。
そして、眠る前に機嫌が悪い時の朝は特に最悪。
「……機嫌が悪かった、ですか?」
「はぁ? 何をすっとぼけた事を言ってるのよ。あなたが昨夜、散々絡まれたくせに」
「……」
「婚約者のアレクサンドル殿下に手紙を送ったけど返事が来ないのはお前のせいだって、当たり散らされた事をもう忘れたの!? おめでたい頭なのね!」
「!!」
その言葉で確信した。
────ここは、過去だ。
理由は分からない。
分からないけれど、少なくとも今は“あの日”の後じゃない。
(……死ななかったんじゃない……巻き戻ったんだわ!)
時期的にはおそらくあの日の半年くらい前───
私は過去に戻っている!
だから、捨てられたはずの服を着ていたし、侍女の髪型も記憶しているものと違う。
(こんな事が……)
その後、起こすとやっぱり機嫌の悪かったお嬢様に、散々八つ当たりされたけれど“過去に戻っている”という衝撃的な事実の方が強すぎて全く気にもならなかった。
「ちょっと私の話、聞いてるの? この愚図が!」
「はい……」
「それなら、さっさと早く着替え持って来なさいよ! 愚図!」
「はい……」
着替えを用意しながらふと思い出す。
(そう言えば、ちょうど半年前のお嬢様って……)
───何でこんな子供っぽいドレスを選んでるのよ! 私は半年後には社交界デビューするのよ!? もっと大人っぽいデザインにしなさいよ! 愚図はそんな事にも気づけないの?
とか何とか言い出した頃。
(……それならば)
「!? ちょっと、あんた……! な、何でこのドレスを……」
「……何かご不満だったでしょうか?」
「っっっ!」
いつもと違う、過去のお嬢様が望んだ通りのドレスを選んでみた所、衝撃を受けたのか、お嬢様は言葉を失っていた。
文句を言って当たり散らす気満々だったのに言えない! そんな悔しそうな顔をしている。
(でも、これでハッキリした)
ここは過去だ。
理由は知らない。
だけど、用済みとして殺されたはずの私は、生きて過去に戻っている───
◆◆◆◆◆
───その頃、王宮では……
「───殿下! 何をしていらっしゃるのですか!?」
「うん? 何をしてって普通に起きただけだけど?」
「何を言っているんですか! 貴方様は昨夜……医者はまだ起きて良いとは言っていないはずです!?」
この国の王子、アレクサンドルとその側近のクォンが揉めていた。
「……あぁ、昨夜? 昨夜はね……」
「何を呑気な!」
「ところでクォン。今日は何年の何月何日だっけ?」
クォンは主が突然そんな事を聞いてきた理由が分からず、困惑しながらも本日の日付を答える。
(一体、何なんだ? 昨夜の発作で記憶でも混乱しているのか……?)
昨夜の発作は久しぶりに酷いものだった。
「……そうか。半年前なのか……僕にもっと力があれば……すまない……」
「殿下? 誰に何を謝っているんですか?」
怪訝そうな顔をするクォンにアレクサンドルはただ微笑みを向ける。
「何でもないよ。ただ、これから忙しくなるだけさ」
「はい!? 何を言っているんですか! 貴方様は、自分の命をもっと大切になさるべ……」
「クォン」
「……っ」
主人である王子の無言の圧力にクォンは口を噤む。
この顔には逆らえない。
「……では、早速だけど。一つ頼まれてくれるかな?」
「は? 頼み、ですか?」
ポカンとした顔をする側近のクォンを見ながらアレクサンドルは、ただ、静かに微笑みを浮かべていた。
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