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3. 縦ロールについて聞いてみましたわ
しおりを挟む「お帰りなさいませ、お嬢様」
「戻りましたわ。ねぇ、それよりもちょっと聞きたいのだけど」
あの失礼な王子様と話をしたその日、帰宅したわたくしは、真っ先に侍女を捕まえて話を聞く事にしましたの。
「お、お嬢様……?」
「単刀直入に答えなさい! わたくしのこの自慢の縦ロールは凶器なの!?」
「はい!?」
私のその質問に侍女は目を丸くして驚いているわ。
この反応はどちらなのかしら?
「えぇと、お嬢様……? 凶器、とはいったい……どこのどなたが余計な……ゲフンゲフン」
「誰がわたくしにその話をしたかですって? とても失礼なクラスメートですわ!!」
……ぶぉん!
わたくしの発する言葉の勢いにのって縦ロールも元気に弾む。
しかし、やっぱり解せませんわね。これのどこが凶器だと言うのかしら?
「ク、クラスメートの方でしたか…………なんて命知らず……ケホケホ」
「……? ちょっと? 先程から苦しそうですわよ?」
「い、いえ……お、お嬢様の気の所為です」
「そうかしら?」
先程から咳が辛そうな様子に見えたのだけれども、どうやら気の所為らしいわ。
それならばそういう事に致しましょう。
「それで? 教えて頂戴? わたくしのこの髪は凶器なのかしら?」
「いえ! ただの立派な縦ロールでございます!!」
侍女はピンッと背筋を伸ばしてはっきりとした口調で答えた。
やはりそうよ……とわたくしは頷く。
ラファエル様はいったい何を見て“凶器”なんて言葉が出て来たのかしらね。全く……!
「その答えが聞けてわたくしは満足でしてよ! ホホホ」
「そ、そうですか……それはようございました……」
納得の答えを貰えて満足していた為、そう答えた侍女の顔が少し引き攣っていた事をわたくしは知らない。
そして、翌日。
いつものように、侍女達四人の力で巻き巻きにしたこの縦ロールを引っ提げてわたくしはラファエル殿下の元へと向かいましたわ。
あれから、他の侍女にも確認したところ、皆揃って同じ事を言ってくれましたのでね、一言くらい言ってやらないと気がすみませんのよ。
「おはようございます、ラファエル殿下」
「……お、おはよう、オコランド侯爵令嬢」
あらあら? 昨日の今日でわたくしがやって来たからかしら?
ラファエル様のお顔が困惑している様に見えますわ。
「オーホッホッホ、ミュゼットで構いませんわよ、殿下」
いい気分になったわたくしは、隣国の王子様に対して上から目線でそう言いました。
ラファエル様はまさかそんな事を言われるとは思わなかったのでしょうね。
一瞬、固まられて目を大きく見開いた後、頷いてくれましたわ。
「え? あ、あぁ、そうか……ではミュゼット嬢」
「わたくし、あれから屋敷の者に聞いてみましたの」
「……何を、かな?」
何故か恐る恐るそう訊ねてくるラファエル様。
あら嫌だわ。この方、昨日のご自分の発言をお忘れなのかしら?
「もちろん! わたくしの髪が凶器であるかどうかですわ! とても阿呆な質問でしたけれども!」
……ぶぉん
わたくしの言葉に乗って揺れるこの縦ロールは本日もいい感じ。
「……聞いたんだ」
ラファエル様はとても驚いた顔をされました。
「当たり前ですわ! あんな事を言われたら気になりますもの!」
「それは、うん、そうだよな…………でも、聞いたんだ」
「随分と念を押しますのね」
「……それは、まぁ」
何だか歯切れの悪い回答ですわね。
「それでですね! わたくしの屋敷の者達はー……」
「あー、うん、聞かなくても答えは分かる。本当に俺が悪かった! 君の自慢のその髪は素晴らしい、美しいよ!! そして君の侍女達の汗と努力と涙の結晶なんだろう?」
「!」
ふふ、まぁ! 美しい……だなんて。
この王子様、ただのポンコツかと思いきや見る目がありますわね?
少し怒鳴り気味なのは減点ですし、少し大袈裟な気もしますけれども。
それでも気を良くしたわたくしは、ぶぉんと縦ロールを振り回しながら、その言葉を受け入れる事にしましたわ。
「分かっていただければよろしいのです!」
「ははは、でも……」
そこで何故かラファエル様はわたくしの縦ロールをそっとひと房ほど手に取る。
「この縦ロールが決して似合ってないわけではないけど……そのまんまでも可愛いと思うんだけどな」
「!?!?」
───な、何ですって!?
か、か、か、可愛い!?
しかも、縦ロールのわたくしではなく、そのまんまが!?
(落ち、落ち落ち落ち着きますのよ、わたくし! 今のは何かの聞き間違いですわ!)
「ずっと気になってたんだよなぁ……絶対可愛いと思うのに」
「っ!!」
(大変ですわっ!! 聞き間違いではなさそうですわぁぁ!!)
「ミュゼット嬢? 様子が……」
わたくしの頭の中は完全にパニック状態になりその場からしばらく動けなくなりました。
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