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1. 燃え尽きていたわたくし
しおりを挟む「──そんなにこの髪が怖い……とおっしゃるなら、どうぞ今後はこれ以上わたくしに近付かないで下さいませ!」
わたくしのその言葉と共に自慢の縦ロールの髪がぶぉんと音を立てて揺れる。
いったいこの髪のどこが凶器? 怖いと言うんですの??
わたくしには、さっぱり分からないわ!
「……ミュゼット嬢……」
ふふん!
わたくしにそう言われた彼はどこか呆然とした顔をしていますわね。
ざまぁみろ、ですのよ!
わたくしだっていつまでも言われっぱなしではありませんのよ!
この言葉が出たのはあまりにも腹が立ったから。
もちろん、この方相手に暴言である事は分かっていましたわ。
ですが、わたくしの昔からの自慢のこの美しい縦ロールの髪を事もあろうに「凶器のようで怖い」などとこの男は言いましたのよ? たとえ、どんなに身分の高い方でも許せるわけないでしょう?
だから言ってやりましたのに。
まさか、この一言がその後のわたくしの運命を変える事になるなんてこの時は全く思ってもいませんでしたわ───
わたくしの名前は、ミュゼット・オコランド。
由緒正しき、オコランド侯爵家の娘ですわ!
公爵家に次ぐ身分の高い家の令嬢であり、清く正しく美しく育って来たわたくしは、当然ながらこの国の未来の王妃になるのだ、そう言われて来ましたの。
わたくしも当然そうなるものと思って参りました。
この国の王太子、ルフェルウス殿下。
わたくしの美貌で彼もイチコロ間違いないわ! ……と。
……ですのに!
「リスティ!」
「きゃっ! ルー様、こ、こんな所で抱き着かないでください!」
なんて事でしょう!
神聖なる学び舎で殿方が令嬢に抱き着いておりますわ!
「構わないだろう? 可愛いリスティを前にして触れるなと言う方が無理だ」
「何を言っているんですか、もう!」
「ははは!」
───あぁぁ、もう! また、この二人は!
わたくしの内心は怒り爆発でしてよ!
そう。わたくしが狙っていたその肝心の王太子殿下は、今、わたくしの目の前で婚約者でもある公爵令嬢とイチャイチャしていますの。
ここは校内ですわよ!? 何をしているんですの!?
そう言ってやりたい気持ちを抑えながら、わたくしはもう敗北を悟るしかありません。もう、王妃にはなれないのだ、と。
(婚約者になれなかった時点でわたくしの敗けは初めから決まっていた……)
王太子殿下は昔からなかなか婚約者をお決めにならなかったので、わたくしは焦りながらもいつかきっと……そう夢を見ておりました。
ライバルでもあった公爵令嬢のリスティ様が王太子殿下の婚約者に決まったと耳にした時も、
“とりあえず身分で選んだに違いありませんわ” “いつかわたくしへの愛に気付いて振り向いて貰えるはず”
そう信じていましたのに!
蓋を開けてみれば、王太子殿下は初めからあの公爵令嬢にベタベタに惚れていたという事実を見せつけられただけ……
「はぁ、わたくしがこれまでしてきた事は何だったのかしら?」
今も人目を気にせず、イチャイチャする殿下と婚約者の公爵令嬢を横目にわたくしはため息をつく事しか出来ません。
いつか自分が王太子殿下に選ばれると信じ、最初は公爵令嬢に嫌味をたくさん言わせてもらったのに、あのすっとぼけた令嬢には全く効かず……
次に何故か身分の低い男爵令嬢のくせに王太子妃の座を狙っていたクラスメートのピンク頭が目障りで邪魔で仕方なくわたくしは戦いに明け暮れた……
(思えばあの無神経なピンク頭は一体、何者だったんですの……)
わたくしと(正当な婚約者を差し置いて)王太子殿下の妃の座をかけて、毎日のように戦ったピンク頭は、何か大きな問題をやらかしたとかで、あるパーティーを境にわたくしの前からも学園からも姿を消していた。
王太子妃になる為に、これまでしてきた事の全てが意味の無いものとなってしまったわたくしは、完全に燃え尽きていましたわ。
これから、何を目指して生きていけば良いのかしら?
今からあの公爵令嬢の鼻を明かせるような良い縁談は来るのかしら?
そんな時でしたの。
あの男がわたくしの前に現れたのは!
……いえ、正確にはあの男の事はもちろん前から知ってはいましてよ?
話した事が無かっただけであの男もクラスメートですもの。
「オコランド侯爵令嬢、君はバカなの?」
「──は?」
この失礼な一言!
これがあの男……クラスメートでもあり、留学生で隣国の王子でもある、ラファエル様とわたくしの初めての会話でした──……
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