上 下
19 / 28

レラニアの焦り (毒薔薇視点)

しおりを挟む


「何が、『私はジークフリート様に愛されてます!』よ!  ふざけんじゃないわよ!  リラジエのくせに!」

  どうして私が愛されなくてあの子が愛されるのよ。
  そんな事あるわけないのに。

「リラジエもバカな子。花一輪であんなに喜んで」

  貰うならドレスとか宝石でしょうに。
  やっぱりリラジエにはジーク様のお相手なんて無理だったのよ。

「これで愛されてる思うとか……単純よねぇ」

  どうせ、花なんてジーク様が義理で贈っているにすぎないのに。

  


  そこで、ふと思い出す。

「そう言えば、最初にジーク様が話しかけて来た時に聞かれた、あの珍しく純粋だったあの男……名前なんだったかしら?  にはたくさん貢がせたわねぇ……」


  ま、それだけの男だったけどね!


「……けど、ジーク様はあれからあの男の事は何も言わないけど結局何だったのかしらね。んー……まぁ、いっか!」


  ちょっとだけ気になったけど、考える事をやめた。
  過去に捨てた男の事なんてどうでもいいもの。


「そんな事よりも、今は計画の方よ!」

  そう言いながらグレイルからの手紙を読む。

「地味で平凡な男だけど、随分と図々しくなったようね……少しは面白みのある男になったのかしら?」

  グレイルには、『リラジエがどうしてもグレイルの事が忘れられなくてあなたとじゃなきゃ結婚しないと言っている。リラジエと結婚してアボット伯爵家を継いで欲しい』
  と、手紙には書いた。

「爵位目当てで簡単に乗ってきたわ。本当に単純ね」

  そこまで言うのなら仕方ないけどリラジエでもいい──
  そんな気持ちがグレイルの文面からは溢れている。

「ふふ、2人が結婚した後にでも再びグレイルを誘惑してみようかしら?  そうしたら、リラジエはどんな顔をするかしらね~」

  今のリラジエはジーク様の事が好きなのだろうから、初恋とはいえ、好きでもなんでもないであろう男に無理やり嫁がされて、幸せになるどころか、裏切られる……ふふふ、想像するだけでも楽しいわね。
  リラジエが幸せになるなんて腹が立つもの。やっぱりこれくらいはしないとね!



  だけど。



「リラジエの婚約の方は、向こうのご両親も賛成だから難なく結べそうなのに……ジーク様の侯爵家の方がどう考えても一筋縄ではいかないのよね……」

  リラジエの名前でジーク様が婚約の打診をしている以上、代わりに姉のレラニアを!  と要求したところで通るはずが無い。そんな事は分かっているわ。

  (あんな嘘に騙されるのはお父様くらいよ)

  だから、ジーク様からのリラジエへの婚約の打診を断る為には、早々にリラジエとグレイルの婚約を整わせないといけない。そうなれば向こうもリラジエを諦めざるを得ないから。
  その空いた穴に入り込むのが私なのよ。

「ジーク様には、私の方が相応しいのだから当然の結果よ」





◇◇◇





  どうしたのかしら?

  最近、リラジエが外に出る事が増えた。
  ジーク様とのデートなのかと思えば、それだけでも無さそう。

  (まさか、友人でも出来た……?)

  いや、まさかね。
  あんなつまらない子であるリラジエに友人なんて出来るはずがないわ。

  だけど、楽しそうに笑っているリラジエを見るとイライラするのも確か。
  以前はあんなに笑っていなかった。
  いつも、私の顔色を窺ってばかりだったのに!

「たまに口答えもするようになったし、本当に生意気になったわね……」

  楽しそうな顔をして今日も出かけるリラジエを見ながら私はそう呟いた。

  チクリ。

  何故かは分からないけれど、湧き上がってくる不安に気付かないふりをして。




  そんな事が続いていたある日の夜──



「レラニアちょっといいかい?」
「なぁに?  お父様」

  お父様がちょっと深刻な顔をして私の部屋を訪ねて来た。

「この間、レラニアがジークフリート殿の婚約の話は間違ってリラジエに来たものだと言っただろう?」
「えぇ、言いましたわ」

  何?  ちょっと。まさか嘘がバレた?
  やめてよね……

「実は今日、久しぶりに登城した際にフェルスター侯爵家の当主に偶然会ったんだが」
「え!」

  お父様……何で登城しちゃってんのよ!?
  いつものように屋敷で大人しくしていなさいよっ!

  だけど、まさかまさか……と嫌な汗が流れる。

「そ、それで?  ジ、ジークのお父様は……何か仰ってた……のかしら?」
「いや。ただ、『息子は毎日毎日恥ずかしげもなく、お嬢さんの事を可愛い可愛いと惚気けている。最近は娘にも付き合ってくれて一緒に出かけているとも聞く。娘もお嬢さんの事を可愛いと気に入っているんだ。どうやら関係は良好のようなので、いい返事を期待してるよ』と、言われたのだが……」
「!!」

  ジーク様が惚気!?
  嘘でしょ??
  どんな顔で惚気けてるのよ……!!
  全然、結び付かないわよ!?

  いえ、それよりも、どうして義理でしてやってるはずの交際に惚気ける必要があるのよ……!
  意味が分からないわ!!


  これは…………お父様、聞き間違えたのではないかしら。
  そうよ、そうに違いない。


  けれど、それに侯爵家の娘って、ジーク様の妹の事よね?
  あのお茶会で会った……

  そうよ……あのジーク様の妹。ミディアとか言ったかしら?
  ジーク様とよく似た容姿の彼女はあの時、
『私達は将来、義理の姉妹になるのだから、あなたとはぜひ仲良くしたいわね』と言ってあげた私に対してニッコリ笑いながら……

『遠慮させていただきますわ。あなたが義姉になる事は絶対にありえませんもの』

  って言ったのよ!!

  絶対にありえないですって!?
  どういうつもりよ!!   あぁ、今、思い出しても腹が立つわ。


  ──って、そうでは無いわ。今、大事なのはお父様の話よ。


「そ、それが何か問題でもあるかしら……?」
「いや、どうも何か違和感があるんだよ。うまく言えないのだが」
「……(チッ)」

  お父様ってば、ここに来て疑い出したという事?
  単純なままでいてくれればいいのに……

「なぁ、レラニア。もしかしたらジークフリート殿の求婚は間違いなどではなく本当にリラジエを……」
「違いますわ!  お父様!!  私よ、ジークが望んでるのは、わ・た・し!」
「……そうか?」
「そうよ、そうなのよ!  だから、まずは早くグレイルとリラジエの婚約の準備を整えてしまいましょう、ね?  そうすれば全てすっきりすると思うわ」
「うむ……」

  冗談じゃないわよ!
  お父様!  お願いだから余計な事は考えないで頂戴!!





  ──内心で焦っていた私は、 部屋を出ていくお父様が小さな声で呟いていた事を知らない。

「だがなぁ……ルミアがそうだったが、“社交界の薔薇”はだとまず言われるはずなんだがなぁ……ジークフリート殿の望んでる相手は本当にレラニアなのか……?」


  ───と。

  
しおりを挟む
感想 217

あなたにおすすめの小説

【完結】え、お嬢様が婚約破棄されたって本当ですか?

瑞紀
恋愛
「フェリシア・ボールドウィン。お前は王太子である俺の妃には相応しくない。よって婚約破棄する!」 婚約を公表する手はずの夜会で、突然婚約破棄された公爵令嬢、フェリシア。父公爵に勘当まで受け、絶体絶命の大ピンチ……のはずが、彼女はなぜか平然としている。 部屋まで押しかけてくる王太子(元婚約者)とその恋人。なぜか始まる和気あいあいとした会話。さらに、親子の縁を切ったはずの公爵夫妻まで現れて……。 フェリシアの執事(的存在)、デイヴィットの視点でお送りする、ラブコメディー。 ざまぁなしのハッピーエンド! ※8/6 16:10で完結しました。 ※HOTランキング(女性向け)52位,お気に入り登録 220↑,24hポイント4万↑ ありがとうございます。 ※お気に入り登録、感想も本当に嬉しいです。ありがとうございます。

捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?

ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」 ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。 それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。 傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。

朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」  テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。 「誰と誰の婚約ですって?」 「俺と!お前のだよ!!」  怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。 「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

【完結】姉は全てを持っていくから、私は生贄を選びます

かずきりり
恋愛
もう、うんざりだ。 そこに私の意思なんてなくて。 発狂して叫ぶ姉に見向きもしないで、私は家を出る。 貴女に悪意がないのは十分理解しているが、受け取る私は不愉快で仕方なかった。 善意で施していると思っているから、いくら止めて欲しいと言っても聞き入れてもらえない。 聞き入れてもらえないなら、私の存在なんて無いも同然のようにしか思えなかった。 ————貴方たちに私の声は聞こえていますか? ------------------------------  ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。

木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」 結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。 彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。 身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。 こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。 マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。 「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」 一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。 それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。 それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。 夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

処理中です...