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レラニアの策略 (毒薔薇視点)

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  どうやら、リラジエとジーク様はあろう事か交際を始めたらしい。

  有り得ない。
  リラジエなんかに彼の相手が出来るはずがないのに。

  きっとジーク様は義理で交際する事にしたんだわ。
  そうでなきゃ、あの子リラジエと交際なんておかしいもの。

 

「ふふふ、馬鹿な子。私に引き裂かれるとも知らずにのん気な事ね。せいぜい今のうちに楽しんでおくといいわ……」


  私はから届いた返信の手紙を読みながらそう口にした。


  あぁ、楽しみだわ。
  リラジエの絶望した顔が、また見られるのかと思うと笑いが止まらない。


「ふふふ……」



  数日前、リラジエにジーク様から社交界デビューのエスコートの申し出が来ているらしいと知った私は、止めるために急いでお父様の元へと駆け込んだ。
  けれど、それは一歩遅く、もう止める事は出来そうになかった。




  ……だけど、そこで知ったジーク様から、リラジエへの婚約の打診。
  これはまだ間に合いそうだった。


  


  だから、私は計画を立てたのよ。

  このからの返信の手紙もその計画によるもの。
  まぁ、2人が交際を開始した事は誤算だったけど。私がする事に変わりは無いわ。



「ふふふふふ……」



 


────……


  


「お父様!  リラジエにエスコートの話が来ているのは本当ですの!?」
「あぁ、本当だ。リラジエには今さっき話したところだ」
「え!」

  お父様がいつものつまらない平凡な顔であっさりと言った。
  なんて事なの、間に合わなかった……私は愕然としたわ。

「しかし、聞いたぞレラニア!  ジークフリート殿が何故、リラジエのエスコートを申し出たのか不思議だったのだが、元々はお前の知り合いだったからだと言うじゃないか!」
「え?  それ、リラジエが言ったの?  お父様」
「そうだ。 つまり、ジークフリート殿に頼んでくれたのだろう?  違うのか?」

  やだわ。お父様ったら勘違いしているわ。
  ……でも、そうね。そう思わせておくのもいいかもしれないわね。
  私はニッコリ笑ってお父様に言った。

「そうなの!  だって、このままではリラジエの相手が見つからないと思ったんですもの。なら私の頼みを聞いてくれると思って頼んでみたのよ」

  私はわざと彼と親密であるかのように言った。

「おぉ、そうか。成程な!  やはりそういう事だったのか!  さすがレラニアだな。顔が広い。ルミアに似て社交界の薔薇と呼ばれるだけある!  さすが自慢の娘だ!」
「え?」

  お父様はほくほく顔でそんな事を口にした。

  嫌だわ、お父様……ルミア……お母様と違って私の通り名は“毒薔薇”よ?
  そう言いたかったけど、お父様は嬉しそうに一人でうんうんと頷いている。

  平凡伯爵と呼ばれるお父様は社交界にあまり顔を出していない。
  お母様というパートナーを亡くしてからは特に。

  だから、どこかで耳にした私の通り名を勝手にお母様の時の薔薇と同じだと想像しているのかもしれないわね。
  まさかそんな、勘違いしているなんて思わなかったけど。

  どおりで私の素行に関して何も言わないはずだわ……
  色々と納得した瞬間だった。

「……ん?  でも、そうなるとコレはどういう事なんだ?」

  と、お父様が不思議そうな顔をする。
  “コレ”とは何かしら?

「何ですの?  それ」
「あぁ、ジークフリート殿から、リラジエのエスコートの申し出と一緒に婚約の打診も届いているんだよ」
「……!?!?」

  耳を疑ったわ。リラジエに婚約の打診ですって!?  ジーク様は何を考えているの!?

「そ、それ……リラジエには言ったの?」
「いや、混乱させるかと思ってまだ告げていない。ただでさえ、エスコートの件で目を丸くしてたからな。社交界デビュー後でないと正式に婚約は出来ないから、時期を見てー……」
「!!」

  ──間に合った!!

  今なら止められる!  

  ついてるわ、私。
  本当に今、知れて良かったわ。
  我が国では正式な婚約を結べるのは、成人を迎えた後、社交界デビューを済ませてからと決まってるんだもの。
  それまでは、“婚約者”と呼んでいても仮約束みたいなもの。


  私はニッコリと、微笑みを浮かべて言った。
  お父様が大好きだったお母様と同じ微笑み。この顔をすればお父様はだいたい私の言う事を聞いてくれるのよ。

「……お父様、それはきっと間違いだと思うわ」
「何だと!?」
「ジークは、本当は私に求婚するつもりだったのよ。エスコートの件とごちゃ混ぜになってしまったのでは無いかしら?  だから、それは私宛てだと思うの」

  さすがに苦しい話だからか、お父様も「そうか?  そんな事あるか?」と、眉間に皺を寄せて考え込んでいる。
  もう!  早くそのお父様の単純なあっさり顔みたいにすんなり信じなさいよっ!


「だって、接点も無かったリラジエを婚約者に望むなんておかしな話でしょう?」
「それはそうだが……」
「だって、私はジークにこう頼んだのよ!  『あなたののエスコートをお願い出来ないかしら?』って」
「そうなのか!?」

  その言葉にお父様が興奮した。

「そうか、レラニア宛てなら納得出来るとは思ってはいたんだが、やっぱりそういう事なのか」
「そうなのよ!  だから、ジークと婚約するのは私よ!」

  (嫌ね、お父様って馬鹿なのかしら?  単純すぎ。これでよく生きて来れたわね)

  完全に嘘よ。嘘に決まってるでしょう?
  嘘だけどもう止められないわ。
  リラジエとジーク様の婚約なんて絶対に認めない。どんな事をしても阻止してやる!!

  それに、結婚なんて家同士のもの。
  姉と妹が変わったところで問題にはならないでしょ。
  むしろ、ジーク様は相手が“私”に変わった事を喜ぶべきね!


「だが、そうなるとこの家は……レラニアが婿を取って継がせる予定だったのに」
「まぁ、お父様。それならリラジエに継がせればいいでしょう?」

  冗談じゃないわよ。
  家のためにろくでもない男を婿として取らされるくらいなら、私は侯爵夫人になるわ!
  だって、 あんな地味妹リラジエより、どう考えても私の方が相応しいもの。

「だがリラジエの相手が……」
「うふふふふ、それがね?  お父様。それなら、とーっても良いお相手がいるのよ」
「何だと?」
「嫡男ではないから、我が家に婿に入れる身分だし……何より、リラジエがなんだもの。きっとジークに嫁ぐよりも泣いて喜ぶわ」
「ん?  それはまさか……」
「そのまさかよ!  まずは私からに話をしておくわね!」

  私はまた、ニッコリと笑ってそう言った。



─────……





  そして、私はに手紙を書いた、というわけ。


  ねぇ、リラジエ。
  仕方がないから、ならジーク様との時間を楽しませてあげる。


  だけど、時期が来たら返してね?
  だって、ジーク様はもともと私がモノにするつもりだったのだから。

 
  あなたには、本当に私が飽きたから捨てた最初の彼──グレイルをあげるから、ね。

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